片割れの呪術師   作:Haruyama

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第8話 過去編_踏み絵

 それから単独任務が続き、同時に強い呪霊の襲撃が相次いでいた。

 しかもよりによって、相手は二級呪霊――葉月の階級を明らかに逸脱している。

 

「……どう考えても、連中の差し金としか思えない」

 

 任務は夜蛾を通さず、直接言い渡される。

 内容も、階級に見合ったものではない。

 “連中”が本格的に動き出している――そう悟るには十分だった。

 

 

 躱すだけでも精いっぱいの状況で、呪霊は容赦なく距離を詰めてくる。

 

「……っ、やば……!」

 

 咄嗟に手元の金属棒を構え、直撃だけは防ぐ。

 だが衝撃は殺しきれず、そのまま壁へ叩きつけられた。

 

「……かっ……」

 

 喉の奥が鉄臭くなる。

 軽く咳き込むと、口元から血が零れた。

――あばら、数本いったかもしれない。

 

「(……仕方ない)」

 

 葉月は覚悟を決める。

 まだ完全に制御できていない術式を、解放した。

 

「……あ、あ゛ッ……!!」

 

 発動と同時に、反動が全身を貫く。

 内側から削り取られるような痛み。

 それでも――攻撃は、確実に呪霊を捉えていた。

 

 右腕が吹き飛ぶ。

 続いて左脚。

 四肢を順に削ぎ落とし、呪霊の動きが鈍る。

 

 

「……次で……終わり……」

 

 最後の一撃を放とうと、呪力を練り上げた、その瞬間。

 

「葉月」

 

 聞き覚えのある声に、反射的に振り返る。

 

 

トン、と。

軽い感触が額に落ちた。

 

 

「……さ、と……る」

「寝てろ」

 

 それだけ言われた次の瞬間、意識がすっと遠のく。

 

「……え……?」

 

 葉月はそのまま、闇に沈んだ。

 

 

 

――

 

 

 

 補助監督から居場所を聞き出し、現場へ急行した。

 目に飛び込んできた光景に、思わず息を呑む。

 

「……!!」

 

 壁に叩きつけられ、血に塗れた葉月。

 その前に、二級呪霊がじりじりと歩み寄っている。

 

 葉月は術式を発動していた。

 だが、そのたびに身体が耐えきれず、吐血を繰り返している。

 

――ふざけるな。

 

 

 階級も、戦術も、状況も。

 何もかも無視した配置。

 それでも一人で、逃げずに、戦っている。

 

 胸の奥に、言葉にならない怒りが込み上げた。

 

 俺は葉月の元へ踏み込み、指を伸ばす。

 

「……無理すんな」

 

 眠らせると同時に、呪霊を一掃した。

 

 

--

 心地よい体温に揺られ、葉月はそっと瞼を開ける。

 視界いっぱいに映ったのは――広く、がっしりとした誰かの背中。

 

「……悟?」

「あ? 起きた?」

「……なんで……?」

「なんでって、お前。寝たまま起きねーから」

「……いや、そこじゃなくて」

 

 なぜ五条がここにいるのか。

 葉月には、まるで心当たりがなかった。

 

「……なぜ単独任務なんか引き受けた」

 

 低く、真剣な声。

 その一言で、葉月は言葉を失う。

 

 

 三級呪術師の自分が、単独任務に就く異常さ。

 ろくに戦力にもならない自分が、なぜ前線に立たされるのか。

 

 

「断らないよ。強くなりたいから」

「だからって、術式を使うたびに反動を受けてたら、身体がもたない」

「……っ」

 

 

――見られた。

術式を、悟に。

 

 

 人前で使わないと決めていた。

 誰にも知られてはいけない。

 そう、誓っていたはずなのに。

 

 

「……葉月」

「……どうして、私は弱いんだろう」

 

 言葉が零れ落ち、葉月は五条の肩に顔を埋めた。

 

「強くならなきゃ、ダメなのに……。足手まといになんて、なりたくない……」

 

 

 悟と傑がいれば、自分はいなくてもいい。

 そんな考えが、頭を離れない。

 それでも――計画を成し遂げるには、強さが必要だった。

 

 

 

 たとえ、自分の身体を犠牲にしてでも。

 

 

 無意識に、五条の肩を掴む手に力がこもる。

 それを感じ取った悟は、何も言わず、ただ寮へと足を運んだ。

 

 

 

-----------

 それからしばらくして。

 

 葉月は上層部へ呼び出されていた。

 

「……以下の極秘任務を言い渡す」

 

 口頭ではなく、差し出された資料。

 そこに記されていたのは――

 

 

【久禮田家 殲滅】

 

 

「お前の手で、久禮田家に終止符を打て。手段は問わない」

「……目的は何ですか」

 

 下級任務の裏で、何度も仕組まれてきた“事故”。

 葉月は、すでに気づいていた。

 

「目的?お前が呪術師として使命を果たせるかを見極めるためだ」

「……自分の手で、身内を殺せと」

「そうだ」

 

 即答だった。

 

 

 

 血の繋がった家族。

 憎しみがなかったと言えば嘘になる。

 だが、それでも――認められるために、一族を滅ぼせというのか。

 

 

 拒否権など、最初からない。

 

 

「……分かりました」

「期限は半年だ」

「はい」

「この件は、ここにいる者のみが知る」

 

 

――口外するな、ということだ。

 

 

 彼らの狙いは分からない。

 だが、考えれば考えるほど、自分の立場が危うくなるだけだった。

 

「(……彼らと過ごせる時間も、残りわずか……)」

 

 同期の顔が、脳裏に浮かぶ。

 迫りくる別れを悟り、葉月は静かに覚悟を決めた。

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