目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。   作:ヤッくん

1 / 20
※本作は【毎日更新】予定です。
気軽に一話ずつ読んでいただけたら嬉しいです。


1話 目立たず生きたいだけなんですが、条件が重すぎませんか?

目を開けた瞬間、最初に思ったのは――白い、だった。

天井も床も、遠くに見える空間の果ても、すべてが均一な白。病院でも会議室でもない。どこか現実感のない場所だ。

 

「……あ、これ死んだやつだ」

 

妙に冷静に、そう理解した。

日本での最後の記憶は、深夜のオフィス。未送信のメール。机に突っ伏したまま、意識が途切れた。

 

過労死。たぶん、それだろう。

 

「ようやく終わった……」

 

仕事ができると言われ、頼られ、任され、気づけば抱えきれない量の責任を背負わされていた。断れなかった自分が悪い。それは分かっている。

 

そして、失敗した。

たった一度の、大きな失敗。

 

それまでの評価も信頼も、全部ひっくり返った。人は離れ、陰口だけが残った。

 

――もう、目立つのはこりごりだ。

 

「お疲れさまでした」

 

不意に声がした。

柔らかく、澄んだ声。

 

振り向くと、そこに一人の女神が立っていた。

白銀の長い髪。整いすぎた顔立ち。

 

美しい、という言葉では足りない。

“そういう概念”が形を持ったような存在だった。

 

「えっと、あなたが……神様?」

 

「そうなります。簡単に言うと」

 

軽い。想像していた神より、ずっとノリが軽い。

 

「さて、転生の件ですが――」

 

「あ、はい。あの、一つだけお願いがありまして」

 

神の言葉を遮って、思わず手を挙げる。

 

「目立たない人生でお願いします。ひっそり、静かに、こっそりと」

 

神は一瞬きょとんとしたあと、少し目を細め、楽しそうに微笑んだ。

 

「うふふ……その願い、今までで一番地味ですね」

 

褒められてないが、気にしない。

 

「分かりました。では、あなたはとあるゲーム世界の住人に転生します」

 

「ゲーム……?」

 

「剣と魔法と、その他もろもろがある世界です。あなたはその中の――モブですね」

 

モブ。

その言葉に、なぜか強い安心感を覚えた。

 

「最高です」

 

「え?」

 

「いえ、最高です」

 

「あなた、本当に面白……いえ、変わった人ですね」

 

神は怪しげに笑い、そして話を続けた。

 

「ただし、一点だけ注意事項があります」

 

嫌な予感がした。

 

「この世界、学生であることが非常に重要でして」

 

「はあ」

 

「学生でない状態が三日続くと――」

 

神は一瞬、言葉を切った。

 

「死にます」

 

「……はい?」

 

一瞬、意味が理解できなかった。

 

「えっと、それは……比喩とかでは?」

 

「いえ、物理的に死にます。呪いです」

 

さらっと言った。

 

「解除は?」

 

「不可です」

 

「なんで?」

 

「手続きミスですね。すみません」

 

軽すぎる。しかもどんなミスだよ!

人の命をなんだと思ってんだよ!

 

「ちょ、ちょっと待ってください。それ、致命的じゃ……」

 

「大丈夫です。学校や学園はたくさんありますから」

 

そういう問題?

神さまだけに、やっぱりぶっとんでる。

 

神は指を折りながら説明する。

 

「剣術は剣術学園、魔法は魔法学院、気功は気功道場、召喚術なら召喚院、神聖術なら神聖協会。どれかに所属していれば問題ありません」

 

「……一生、学生ってことですか」

 

「まあ、そうなりますね」

 

胃が痛くなった。

学生。所属。評価。ランキング。

 

嫌な単語ばかりが頭に浮かぶ。

 

「ちなみに、ランキング制度があります」

 

「やっぱりありますよね……」

 

「一位から百位まで。上位ほど安全です」

 

安全。

その一言に、胸がざわついた。

 

「……目立たなければ、安全ですよね?」

 

神は少し考えてから答えた。

 

「この世界では、それはどうでしょう」

 

嫌な沈黙だった。

 

「名前はどうします?」

 

「……え?」

 

「転生後の名前です」

 

少し考えて、口を開く。

 

「シズカ・ニクラスで」

 

俺は、好きなゲームのキャラの名前を拝借した。

シズカってキャラが好きなんだ。

目立たず、静かな感じが。

 

神は笑った。

 

「皮肉が効いてますね。では、良い学生生活を」

 

光が視界を覆う。

最後に聞こえた神の声が、やけに楽しそうだった。

 

「――あ、ちなみに。目立たないようにすると、たぶん逆に目立ちますよ」

 

「それ、最悪のフラグじゃないですか……!」

 

そう叫んだ瞬間、意識は闇に沈んだ。

 

目を覚ますと、そこは見知らぬ街の路地裏だった。

手には一枚の、入学試験の案内が書かれたビラ。

 

【オリヴィア剣術学園 入学試験のご案内】

 

期限は、三日後。

 

「……まずは、合格しないと死ぬのか」

 

シズカ・ニクラスは、深く息を吸った。

 

目立たず、ひっそりと、こっそりと。

――そのはずだった。

 




どんな感想でも大歓迎です。
スタンプや一言だけでも感想をいただけると、
とても励みになります。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。