目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。 作:やっくん。
目を覚ましたとき、最初に感じたのは土の匂いだった。
「……お?」
跳ね起きると、視界に入ったのは木造の家屋と見慣れない石畳の道。
遠くで誰かの話し声がして、鶏の鳴き声まで聞こえる。
「……ここは、どこだ」
立ち上がろうとして、ふらついた。
「おっ……と」
身体が軽い。いや、軽すぎる。
視線を落とすと、目に入ったのは見覚えのない手だった。
細くて、白い。
そして、視線の高さからして、身長は百七十くらいだろうか。
近くに置かれていた水桶を覗き込む。
「若っ!……少年かっ!」
間違いない。まだ子どもだ。十五くらいか。
水面に映る顔は、特に印象に残らない顔だ。
自分の服装を確認する。
布製の簡素な服。完全に一般人という感じ。
「村人A……だな」
そして、周囲を見回し、ようやく状況を整理する。
木造の建物が並ぶ、ごく普通の村。
入口にある木の看板が目に入った。そこにはこう書かれていた。
【フツーノ村】
「いや、名前っ! 普通って!」
でも、どこかで聞いた名前な気が……
――チャリン
音が鳴ったポケットを探ると、小さな革袋が出てきた。
中を開けると。
「……百ゼニー」
一ゼニーが百円換算だと……一万円くらいか。
なぜだか無意識に理解ができた。
――ん、待てよ……ここはもしかして……
「ステータスっ!」
半信半疑で叫んだ瞬間、視界の端に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
【ステータス】
名前:シズカ・ニクラス
剣術:無段
魔法:無段
気功:無段
召喚:無段
神聖:無段
「ほんとに出るのかよっ!」
ん、ちょっと待て。
文字のフォント、色合い、レイアウト。
「これは……」
読み進めて確信する。間違いない。
「……AFAだ」
通称――Academy of Five Arts(アカデミーオブファイブアーツ)。
前世で何千時間も遊んだ、世界的に大ヒットしたMMORPGである。
五つの分野である剣術、魔法、気功、召喚、神聖の中から始めに一つを選んで進行する。
それぞれの分野に国立学園が存在し、そこに所属して段位を上げながら頂点を目指すゲーム性となっている。
「そうか……AFAのフツーノ村か」
知っている世界なのはありがたい。
でも。
「これ、主人公じゃなくて、完全にモブ側だよな……」
表示されたステータスを、もう一度確認する。
「……全部、適正なしかよ」
AFAでは、段位システムが採用されていて、最初に選んだ分野が初段から始まる仕様だった。
剣術を選べば剣術が初段、魔法を選べば魔法が初段といった具合に。
ゲームの主人公なら、少なくとも一つか二つは初段がある。
運が良ければ、二段か三段が出ることもある。
でも、俺はどの分野もゼロ……
「……これは逆にすごいな」
画面を閉じて息を吐いた。
十五歳。所持金、百ゼニー。家なし宿無し。村人の服。才能なし。最弱。
ないない尽くしだ。
――でも、それでいい。
この世界では目立たず、ひっそりとこっそりと、静かに暮らしていこう。
そう決めた、その時だった。
……ん?
ウィンドウは閉じたはずなのに、視界の端に何かが残っている。
赤い文字。
しかも、数字が動いている。
【■■■■の呪い】
死へのカウントダウン:71時間32分(進行中)
……へ?
◇
――思い出した。
深夜のオフィス。未送信のメール。
机に突っ伏したまま、途切れた意識。
仕事ができると言われ、頼られ、任され、たった一度の失敗で、すべてを失った前世。
そして、白い空間で出会った、ノリの軽すぎる女神。
転生前に女神から要望を聞かれた。
「目立たない人生でお願いします」
「うふふ、今までで一番地味な願いですね」
モブに転生させてもらえると聞いて、喜んだ。
そこまでは良かった。
「ただし、学生でない状態が三日続くと、死にます」
「解除は?」
「不可です」
「どうして?」
「手続きミスですね。すみません」
……軽すぎるだろ。人の命をなんだと思ってんだ。
それに学生でないと死ぬなんて意味不明。
「では、いってらっしゃい」
「あ、ちょま――」
そして、光に包まれる直前。
女神はやけに楽しそうに言ったのだ。
「目立たないようにすると、たぶん逆に目立ちますよ」
最悪のフラグを残して。
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