目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。   作:やっくん。

1 / 20
1話 目立たず生きたいだけなんですが、条件が重すぎませんか?

 目を覚ましたとき、最初に感じたのは土の匂いだった。

 

「……お?」

 

 跳ね起きると、視界に入ったのは木造の家屋と見慣れない石畳の道。

 

 遠くで誰かの話し声がして、鶏の鳴き声まで聞こえる。

 

「……ここは、どこだ」

 

 立ち上がろうとして、ふらついた。

 

「おっ……と」

 

 身体が軽い。いや、軽すぎる。

 

 視線を落とすと、目に入ったのは見覚えのない手だった。

 

 細くて、白い。

 

 そして、視線の高さからして、身長は百七十くらいだろうか。

 

 近くに置かれていた水桶を覗き込む。

 

「若っ!……少年かっ!」

 

 間違いない。まだ子どもだ。十五くらいか。

 

 水面に映る顔は、特に印象に残らない顔だ。

 

 自分の服装を確認する。

 

 布製の簡素な服。完全に一般人という感じ。

 

「村人A……だな」

 

 そして、周囲を見回し、ようやく状況を整理する。

 

 木造の建物が並ぶ、ごく普通の村。

 

 入口にある木の看板が目に入った。そこにはこう書かれていた。

 

【フツーノ村】

 

「いや、名前っ! 普通って!」

 

 でも、どこかで聞いた名前な気が……

 

 ――チャリン

 

 音が鳴ったポケットを探ると、小さな革袋が出てきた。

 

 中を開けると。

 

「……百ゼニー」

 

 一ゼニーが百円換算だと……一万円くらいか。

 

 なぜだか無意識に理解ができた。

 

 ――ん、待てよ……ここはもしかして……

 

「ステータスっ!」

 

 半信半疑で叫んだ瞬間、視界の端に半透明のウィンドウが浮かび上がった。

 

【ステータス】

 名前:シズカ・ニクラス

 剣術:無段

 魔法:無段

 気功:無段

 召喚:無段

 神聖:無段

 

「ほんとに出るのかよっ!」

 

 ん、ちょっと待て。

 

 文字のフォント、色合い、レイアウト。

 

「これは……」

 

 読み進めて確信する。間違いない。

 

「……AFAだ」

 

 通称――Academy of Five Arts(アカデミーオブファイブアーツ)。

 

 前世で何千時間も遊んだ、世界的に大ヒットしたMMORPGである。

 

 五つの分野である剣術、魔法、気功、召喚、神聖の中から始めに一つを選んで進行する。

 

 それぞれの分野に国立学園が存在し、そこに所属して段位を上げながら頂点を目指すゲーム性となっている。

 

「そうか……AFAのフツーノ村か」

 

 知っている世界なのはありがたい。

 

 でも。

 

「これ、主人公じゃなくて、完全にモブ側だよな……」

 

 表示されたステータスを、もう一度確認する。

 

「……全部、適正なしかよ」

 

 AFAでは、段位システムが採用されていて、最初に選んだ分野が初段から始まる仕様だった。

 

 剣術を選べば剣術が初段、魔法を選べば魔法が初段といった具合に。

 

 ゲームの主人公なら、少なくとも一つか二つは初段がある。

 

 運が良ければ、二段か三段が出ることもある。

 

 でも、俺はどの分野もゼロ……

 

「……これは逆にすごいな」

 

 画面を閉じて息を吐いた。

 

 十五歳。所持金、百ゼニー。家なし宿無し。村人の服。才能なし。最弱。

 

 ないない尽くしだ。

 

 

 ――でも、それでいい。

 

 

 この世界では目立たず、ひっそりとこっそりと、静かに暮らしていこう。

 

 そう決めた、その時だった。

 

 ……ん?

 

 ウィンドウは閉じたはずなのに、視界の端に何かが残っている。

 

 赤い文字。

 

 しかも、数字が動いている。

 

【■■■■の呪い】

 死へのカウントダウン:71時間32分(進行中)

 

 ……へ?

 

◇

 

 ――思い出した。

 

 深夜のオフィス。未送信のメール。

 

 机に突っ伏したまま、途切れた意識。

 

 仕事ができると言われ、頼られ、任され、たった一度の失敗で、すべてを失った前世。

 

 そして、白い空間で出会った、ノリの軽すぎる女神。

 

 転生前に女神から要望を聞かれた。

 

「目立たない人生でお願いします」

 

「うふふ、今までで一番地味な願いですね」

 

 モブに転生させてもらえると聞いて、喜んだ。

 

 そこまでは良かった。

 

「ただし、学生でない状態が三日続くと、死にます」

 

「解除は?」

 

「不可です」

 

「どうして?」

 

「手続きミスですね。すみません」

 

 ……軽すぎるだろ。人の命をなんだと思ってんだ。

 

 それに学生でないと死ぬなんて意味不明。

 

「では、いってらっしゃい」

 

「あ、ちょま――」

 

 そして、光に包まれる直前。

 

 女神はやけに楽しそうに言ったのだ。

 

「目立たないようにすると、たぶん逆に目立ちますよ」

 

 最悪のフラグを残して。




どんな感想でも大歓迎です。
スタンプや一言だけでも感想をいただけると、
とても励みになります。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。