目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。   作:ヤッくん

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15話 呼び捨ての代償は、想像以上に高くつく件

 決闘を三日後に控え、学園の空気はこれ以上ないほどに張り詰めていた。

 ……主に、俺以外の場所で。

 

 当の俺はといえば、廊下の角で再びリネットに呼び止められていた。

 

「……ねぇ、シズカくん。本当に大丈夫? 私、なんだか胸騒ぎがして……」

 

 リネットはどこか落ち着かない様子で、俺の顔を伺っている。

 

「大丈夫だよ、リネット。俺だって死にたくはないからね」

 

「あ……。う、うん。シズカくんがそう言うなら……」

 

 リネットは少しだけ安心したように頬を緩めたが、すぐに「あ、次の講義の準備が!」と駆け足で去っていった。

 彼女の背中を見送り、俺がふぅと溜息をついた、その時だった。

 

「――貴様」

 

 背後の曲がり角から、バリバリという擬音が聞こえそうなほどの殺気が放たれた。

 振り返ると、そこには眼鏡の奥の瞳をどす黒く燃やしたワイン・ワイトが立っていた。

 

「今、何と呼んだ。私の耳が腐っていなければ、今、貴様はリネン・リネット様を……あろうことか呼び捨てにしたな?」

 

(げっ、いたのかよ。……っていうか、いつから!?)

 

「え、いや、それは……彼女を落ち着かせるために、つい親しみを込めてというか……」

 

「黙れ。不浄だ。万死に値する」

 

 ワインの周囲に、物理的な風が巻いた気がした。彼は震える手で、自身の剣の柄を強く握りしめる。

 

「私は彼女に声をかける際、三日前から喉を清め、当日は一時間かけて身なりを整え、敬称を三つ重ねて呼ぶべきか悩み抜くというのに……! 貴様は、その薄汚れた口で……!」

 

(いや、重い。恋心がストーカー並みに重すぎる)

 

「決闘の日は、ただ叩き出すだけでは済まさん。シズカ・ニクラス……貴様のその傲岸不遜な魂ごと、秩序の名の下に粉砕して差し上げましょう!」

 

 ワインはそう言い捨てると、裾を翻して去っていった。

 ……明らかに、昨日までとは「殺意の質」が変わっている。

 

---

 

 その日の夜。森の中。

 

 俺は無我夢中で木刀を振っていた。

 ゴブリンとの戦いで、何かが掴めそうな感覚はある。

 だが、まだ足りない。

 

「……くそっ、やっぱり何も起きない……!」

 

 条件は満たしたはずなのに、ステータス画面に変化はない。

 スキル習得の通知が来ないまま、無慈悲に時間だけが過ぎていく。

 

「笑えるな。前世じゃ、仕事中に死にたいって思ってたのに」

 

 今、こんなにも死にたくないと思っている。

 退学即、死。

 その理不尽なルールに抗うために、俺は震える足で再び立ち上がった。

 

---

 

 そして。

 運命の、決闘当日。

 

 第一稽古場には、夜明け前から多くの学生が集まっていた。

 中位ランクの学生たちがワインを囲み、まるで凱旋門でも通るかのような拍手で迎えている。

 

 対する俺の側には……。

 

「よお、シズカ。……なんだその顔。これからお通夜にでも行くのか?」

 

 茶化すように声をかけてきたのは、数少ない友人枠のモカ・モカールだった。

 

「モカ……。お前、よくこんなアウェーな場所に来てくれたな」

 

「当たり前だろ。親友の『盛大な散り様』を特等席で見る権利は俺にあるからな。……ほら、これ持ってろ。気休めだ」

 

 モカが差し出してきたのは、胃薬の小瓶だった。

 

「……助かる。ちょうど切らしてたんだ」

 

「ははっ、お前らしいな。……ま、死ぬ気で逃げ回れよ。お前がボコボコにされて退学になったら、俺の愚痴を聞く相手がいなくなるからな」

 

 モカなりの不器用な激励に、少しだけ肩の力が抜ける。

 その後ろでは、まだ「なぜワイン様があんなに怒っているのか」を測りかねているリネットが、申し訳なさそうに身を縮めてこちらを見ていた。

 

 そこへ、シトラ・シトラスが無造作に歩み寄ってくる。

 

「……これ。飲め」

 

 差し出されたのは、ドス黒い液体が入った瓶。

 

「え、毒ですか?」

 

「栄養剤。……負けたら、これ以下の味を、一生味わわせる」

 

(……死ぬまで拷問するってことですね、分かります)

 

 俺は覚悟を決め、その「泥水のような味」の液体を一気に飲み干した。

 胃が焼け付くようだ。

 

 中央へ進み出る。

 対面には、抜き放たれた白銀の剣を持つワイン・ワイト。

 

「最下位。貴様の居場所は、ここにはない」

 

「……そうかもしれませんね」

 

 俺は剣を構える。

 結局、スキルは発現しなかった。

 手は震えている。足も笑っている。

 

 だが、審判の合図は情け容赦なく響き渡る。

 

「――始め!!」




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