目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。 作:ヤッくん
「始め!!」
審判の号令と同時に、ワイン・ワイトの姿が掻き消えた。
――速い。
「はぁッ!!」
鋭い踏み込みと共に放たれたのは、基本にして至高の突進技。
「剣技――『スラスト』!!」
回避は間に合わない。俺は咄嗟に剣を盾にしたが、衝撃までは殺しきれなかった。
みぞおちを抉るような衝撃。俺の身体は面白いように宙を舞い、稽古場の床を転がった。
「カハッ……!」
「……ほう、今の一撃で意識を保ちますか。さすがはシトラス様の玩具(スポンジ)だ」
ワインが優雅に剣を回す。
観客席からどよめきが上がった。
「おい、見たかよ。今の剣技スラスト、まともに食らったぞ」
「やっぱり最下位だ。ワイン様の速度についていけてない」
そんな声が聞こえる中、モカ・モカールが苦々しい表情で呟く。
「……いや、違う。あいつ、目が死んでねえ。それどころか……」
「ええ」
隣でリネットが、祈るように両手を握りしめていた。
「シズカくん、急所だけは外してる……。わざと飛ばされることで、威力を逃がしてるんだわ」
◇
実際には、そんな格好いいもんじゃない。
ただ、身体が勝手に反応しただけだ。
前世で上司に重いファイルを投げつけられた時、首を捻って直撃を避けたあの感覚。
「まだだ……」
俺はふらふらと立ち上がる。
胃の辺りが焼けるように熱い。だが、ギブアップ(退学届)を出す勇気はない。
「しぶといですね。ならば、これはどうです!?」
ワインの剣が、さらに加速する。
左右からの連撃。
「剣技――『クロス・カッター』!!」
バキッ、バキッ、と鈍い音が響く。
俺の腕、肩、脇腹に、容赦のない衝撃が走る。
一撃食らうごとに意識が飛びそうになるが、そのたびに脳裏に『退学通知書』がチラついて目が醒める。
「……なぜだ。なぜ倒れない!この男は。痛みを感じていないのか!?」
ワインの顔に、焦りが混じり始めた。
十回はクリーンヒットさせているはずだ。普通の学生なら最初の一撃で悲鳴を上げて戦意喪失しているはずのダメージ。
――なのに、
ふらつき、血を吐き、無様に転がりながらも――地面に手が触れた瞬間、スプリングが仕込まれているかのような速度で起き上がってくる。
それを、シトラ・シトラスは無表情で観察していた。
「……シズカ。痛み、慣れてる。……理不尽、耐性。MAX。わたしのおかげ。」
彼女には見えていた。
シズカが何度も地面に転がりながら、その都度、ワインの「間合い」と「癖」を泥臭く学習している姿が。
「なめるなよ、最下位ィ!!」
ワインの剣が、激しさを増していく。
俺は防戦一方。
だが、その時――。
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