目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。   作:ヤッくん

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17話 その一撃は、絶望の先で青く爆ぜた件

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」

 

 呼吸が激しく乱れている。

 もう全身ボロボロだ。

 制服は引き裂かれ、膝は笑い、視界の半分は自分の血で霞んでいる。

 

 だが、俺はまだ立っていた。

 ただ「クビ(退学)が怖い」という一心だけで、俺の足は地面に癒着したかのように動かない。

 

「……バケモノめ」

 ワインの呟きに、これまでの余裕はなかった。

 

「リネット様を呼び捨てにし、学園の秩序を乱す……そんな低俗な貴様に、これほどの執念があるというのか!? ならば、この一撃で終わらせてやる!!」

 

 ワインが大きく踏み込む。

「剣技――『スラスト』!!!」

 

 焦りが、彼の端正なフォームを狂わせた。

 決着を急ぐあまりの、大振りの一撃。

 

(……今だ。何度も食らったから、嫌でも次がどこに来るか分かる……!)

 

 俺は、連日のシトラスさんの地獄の打ち込みと、夜の森での実戦を脳内で重ね合わせた。

 俺は首を僅かに傾け、突き出されたワインの剣を耳元でやり過ごした。

 自分でも驚くほど、鮮やかに、吸い込まれるような回避。

 

 がら空きの胴体。

 俺は、夜の森で数百体のゴブリンを相手に試行錯誤した「あの感覚」――非力な俺が、いかに効率よく硬い皮膚を断ち切るために編み出した、全身の力を一点に伝える不自然なまでの重心移動を、剣を握る右腕に全集中させる。

 

(当たれ……当たってくれぇえええ!!)

 

 無我夢中で、ただ「倒れてくれ」と願って振り抜いた。

 ――その瞬間。

 

 俺の剣が、今まで見たこともないほど眩い青白い光を帯びた。

 重力から解放されたかのような軽い手応え。鋭い「線」を描いて、剣が空気を断ち切る。

 

(えっ――光った!?)

 

 自分の意思とは無関係に発動した未知の現象に、俺自身が一番驚き、目を見開いた。

 

 ドォォォォォン!!

 

「――なっ!? あれは、剣技『スラッシュ』か!?」

 

 観客席で、モカが身を乗り出して絶叫した。

 本来、最下位ランクの学生が使えるはずのない魔力放出技。それが、ボロボロの俺の剣から放たれた。

 

 爆発的な衝撃が走り、手応えが消える。

 吹っ飛んだワインの身体が、稽古場の壁に深くめり込んだ。

 

「……あ、ぁ……」

 

 俺の腕から、力が抜ける。

 今の何だ? 俺、今、何をした……?

 混乱する頭を置き去りにして、剣が指から滑り落ち、カラン、と虚しい音を立てた。

 

 

「……決着、か?」

 モカが息を呑む。

 

 壁から這い出したワインは、血を吐きながらも、なんとか地面に降り立った。

 ダメージは深刻だ。だが、ステータス的にはまだ彼の方が二枚も三枚も上だろう。

 もう一度彼が剣を振れば、俺に防ぐ術はない。

 

 しかし、ワインは立ち上がった。

 ワインは剣を構え直し、そして俺の顔を見て、動きを止めた。

 

(……あ、もうだめだ。今のので全部使い果たした。一秒でいいから寝かせてくれ……)

 

 俺は意識を保つのに必死で、ただ一点を……目の前のワインを、死ぬ物狂いで睨みつけていた。

 実際には「意識を飛ばさないために必死に目を見開いていた」だけなのだが。

 

「……ハッ、ハハハ……」

 ワインが、力なく笑った。

 

「その眼。……その、地獄の底から這い上がってきたような、狂気的なまでの眼。……認めざるを得ませんね」

 

 ワインは剣を収め、震える手で眼鏡をクイと押し上げた。

 彼の胸のうちは、かつてない激動に支配されていた。

 

(……なんだ、この高鳴りは。屈辱か? 怒りか? いや、違う。エリートとして、秩序の番人として生きてきた私が、これほどまでに『個(シズカ)』という存在に魂を揺さぶられるとは……!)

 

 ワインは自身の剣の柄を、あざができるほど強く握りしめた。

 最下位に敗北したという事実が、彼のプライドを粉々に砕く。だが、その破片が鋭い楔となって、彼の闘争本能をこれまでにないほど深く突き刺していた。

 

「技では私が勝っていたかもしれない。だが……貴様のリネット様への想いは、私の美学を超えていた。……シズカ・ニクラス。私は貴殿という存在を、認めざるを得ないようだ」

 

(え、何言ってんのこの人。想い? 誰への?)

 

「認めましょう。貴殿は、私が生涯をかけて追い落とし、そして再び超えるべき『宿敵(ライバル)』だ。……今の私は、貴殿に敗北した事実すら、己の糧としたいほどに昂ぶっている……!」

 

(待て、なんでそんなに晴れやかな顔なんだ。あと視線が「獲物を見る目」になってて怖いんだが)

 

「ジャック・システムに従い、順位を譲ろう。……精進したまえ、六十二位。次に会う時、貴殿を地獄に引きずり戻すのは、この私だ」

 

 俺がツッコミを入れるより早く、俺の意識はブラックアウトした。

 「ああ、これでやっと残業(決闘)が終わった……」という解放感と、ワインのあまりにストイックで重すぎるライバル宣言への不安が混ざり合う中で。

 

「勝者、シズカ・ニクラス!!」

 

 審判の声が、遠く、遠く聞こえた気がした。




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