目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。 作:ヤッくん
気軽に一話ずつ読んでいただけたら嬉しいです。
目を覚ましたとき、最初に感じたのは土の匂いだった。
「……え?」
跳ね起きると、視界に入ったのは木造の家屋と、見慣れない石畳の道。遠くで誰かの話し声がして、鶏の鳴き声まで聞こえる。
「……ここ、どこだ」
立ち上がろうとして、ふらついた。
「痛っ……」
身体が軽い。いや、軽すぎる。
視線を落とすと、そこに映ったのは見覚えのない手だった。細くて、若い。
近くに置かれていた水桶を覗き込む。
「……十五歳、くらい?」
間違いない。まだ子どもだ。
しかも、顔は普通。特徴もなければ、イケメンでもない。身長も平均的。
「……モブ顔だな。よし」
思わず安堵する自分がいた。
周囲を見回して、ようやく状況を整理する。
木造の建物が並ぶ、ごく普通の村。
入口の木看板には、こう書かれていた。
【ショキノ村】
「……どこかで聞いたことあるような名前だな」
嫌な予感が、じわじわと背中を這い上がってくる。
自分の服装を確認する。
布製の簡素な服。完全に村人Aだ。
「宿から探すか……」
ポケットを探ると、小さな革袋が出てきた。中を開ける。
「……百ゼニー」
数え直しても、百。
「一ゼニー百円換算だと……一万円か」
なぜか無意識に理解ができた。
少なくはない。けど、多くもない。
宿に泊まって、食事して、装備を揃えたら一瞬で消える額だな。
「……学生にならないと、三日で死ぬんだよな」
女神の軽い口調が脳裏に蘇る。
逃げ道はない。
とにかく、状況を把握しないと。
「……ステータス」
半信半疑で呟いた瞬間、
視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
「……出た」
慣れた表示。
文字のフォント、色合い、配置――。
「これ……」
読み進めて、確信する。
「Academy of Five Arts(アカデミーオブファイブアーツ)……」
喉がひくりと鳴った。
「……AFAだ」
間違いない。
前世で、仕事の合間に何百時間も遊んだゲーム。
Academy of Five Arts。
五つの分野、剣術・魔法・気功・召喚・神聖の中から始めに1つを選んで進める育成MMORPG。それぞれの分野に一つずつ学園が存在する。そこに所属して頂点を目指すゲーム性となっている。
「そうか……AFAのショキノ村か」
知っている世界なのはありがたい。
でも――。
「これ、主人公じゃなくて、完全にモブ側だよな……」
表示されたステータスを確認する。
「……低っ」
HPは少ない。SPも心許ない。
どの系統も中途半端で、突出したものは一つもない。
「主人公キャラの初期ステータスより、だいぶ低いな……」
AFAは、本来なら最初に選んだ分野にボーナスがつく仕様だったはずだ。
剣術を選べば剣術、魔法を選べば魔法。
「……どれも低いって、逆にすごいな」
せめて一つくらい、特化していてほしかった。
「まぁ、文句言ってもしかたないか」
画面を閉じて、深く息を吐いた。
十五歳。
所持金百ゼニー。
宿なし。
村人の服。
そして、三日以内に学生にならないと死亡。
「……詰んでるな」
でも、不思議とパニックにはならなかった。
「やるしかない、か」
いつもの思考だ。
逃げたい。けど、逃げ方が分からない。
立ち止まっても、状況は良くならない。
だったら――。
「とりあえず、オリヴィア剣術学園だな」
ショキノ村から、割と近い位置にあったはずだ。
AFAでは、剣術学園が一番敷居が低い。
入学試験も、基礎ができていれば何とかなる......はず。
「……スラッシュ、だっけ」
剣を握る感覚を、頭の中でなぞる。
この世界で生き延びるには、
まず、学生になること。
目立たず。
ひっそりと。
こっそりと。
「……それで、ちゃんと立っていればいい」
シズカ・ニクラスは、ショキノ村を後にした。
――この先で、自分が何度倒れることになるのかも知らずに。
どんな感想でも大歓迎です。
スタンプや一言だけでも感想をいただけると、
とても励みになります。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。