鏡烏(かがみからす)は働かない 〜無職の最強能力者と、塗り潰される社会のバグ取り履歴書〜   作:元気のG

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玩具のような振る舞いで その②

2

 

 

 

黄金の日日だ。

 

虐めてくるやつが居なくなるだけで人生ってこんなに楽しくなるものだとは思わなかった。

 

新しい友達も久々に出来たし、奴らのせいで疎遠になっていた友達が謝ってくれたのが嬉しかった。

 

 

 

ただ、佐久間と木村が居なくなって警察が動き出した。

 

テレビで見るような刑事の人が毎日学校に来て、朝も昼も聞き込みをしていた。

 

 

 

もちろん、僕は月本のおじいさんのことは話さない。奴らはコマになって当然の存在だった。奴らのために警察に話してやるものか。

 

 

 

そしてある日……、気付いてしまった。

 

その日は新しく出来た友達も塾で、古い友達も歯の詰め物が取れたとかで、1人で公園で遊ぶ事にした。

 

公園に行くとあの月本のおじいさんが居た。

 

 

 

「やぁアゴンくん」

 

「月本さん、こんにちは」

 

 

 

この人は赤い帽子にしましまの服で相も変わらず変わった格好をしていた。

 

月本さんは相変わらずガムを噛んでいた。

 

彼はしばらく公園に住んでいるようで、葡萄棚みたいな日除けにブルーシートを貼ってその下のベンチには野宿に使えそうな日用品を溜め込んでいる。

 

水を張っておくバケツ、毛布、大きな懐中電灯、段ボール、そして10個のベーゴマ。

 

 

 

10個のベーゴマ……?

 

 

 

あの2人が成ったベーゴマとも最初に使った3個とも違うもう一つがある。

 

失礼だけど、あの月本さんの状況で新しいコマを買えるとは思えない。

 

 

 

そもそもの疑問だけど、あの最初の3個は本当に最初からベーゴマだったのか……。

 

そう言えばよその小学校や中学校でも同じような行方不明事件が起こっていたと警察の人が言っていた気がする……。

 

 

 

僕は一時的に目の前が真っ白になり、うつむいてしまった。

 

月本さんの、あの無害そうなおじいさんの顔を見れない。

 

 

 

「どうしたアゴンくん」

 

おじいさんが不思議そうに尋ねてきた。

 

 

 

この人は、怖い……。

 

怖くて、僕は思わずその場から立ち去った。

 

背中に突き刺さるような視線を振り払うように、僕は必死でペダルを漕いだ。

 

 

 

 

 

3

 

 

 

インターネットで怖い話の動画を見ると、怪異に出会ったら気絶して気付いたら安全な自宅やコンビニに戻っていたなんて話がよくある。

 

それは、気絶オチなんて呼ばれ方していて僕はリアルじゃないから嫌いだった。

 

 

 

ただ、今日それを間近に体感した。

 

僕はおじいさんが近辺の小中学生をベーゴマに変えたんじゃないかという、疑念を抱いてしまった。

 

これは月本のおじいさんに否定してもらわない限り、消えることはないだろう。

 

気付いたら僕は、僕の部屋の押し入れに居た。

 

 

 

安心する。

 

前のお父さんがお母さんを殴り始めたらいつもここに隠れていた。

 

ここは僕だけの安全基地だ。

 

ただ、ここに隠れて全てが過ぎ去るのを待てばいい。

 

 

 

……本当にそうだろうか。

 

佐久間と木村は本当に嫌な奴だし、あんな奴ら死んでしまっても構わないと思っていたけど……、奴らのお父さんお母さんはどうだろう。

 

心配でご飯も喉を通らない日々を過ごしているはずだ。

 

 

 

佐久間木村以外のコマにされた子達はどうだろう。

 

彼らにはなんの咎もない。

 

日常生活を送っていただけのただの小中学生だ。

 

 

 

これを知っているのは僕だけだ。

 

部屋から出なければ……。

 

僕は押し入れのふすまを突き破るように開いた。

 

 

 

小学生を信用してくれる大人は少ない。

 

新しいお父さん。疎遠だけど僕のことは考えてくれている筈だ。

 

今日は珍しく休みだった。

 

僕はすぐリビングに行って説得しようとした。

 

 

 

「お父さん。話がある」

 

「どうした、阿含くん……。欲しいものがあるなら言いなさい」

 

「違うんだ。黙って着いてきてほしいんだ」

 

「いいよ。歩くのかい?寒くなってきたし上着を着させてくれ。阿含くんの分もあるよ」

 

 

 

僕は新しいお父さんに上着を着せてもらった。

 

僕たちは家を出て、公園へ向かった。

 

 

 

 

 

途中で喉が渇いて、自販機でジュースを買って貰った。

 

前のお父さんの時は本当に機嫌のいい瞬間を見計らわなきゃいけないから、大変だったなぁなんて思ったりした。

 

温かいココアの缶が、冷え切った指先を少しだけ溶かしてくれた。

 

 

 

何はともあれ公園に着いた。

 

月本のおじいさんは何かを持つように変わらずそこに立っていた。

 

 

 

「月本さん、話があってきました。

 

僕は誰からも見向きもされず、ずっと1人で虐められて生きてきた。

 

僕を救ってくれたのは月本さんです。それはありがたかった。

 

ただ、こんなの間違ってる。

 

コマにされて良い人間なんて居ない。

 

あの2人と、他の人も返してください」

 

 

 

僕は溜めてたセリフを言い切った。

 

少し息切れを起こすほどだった。

 

 

 

お父さんは当たり前のように「コマ?」と何やら分からない様子を見せた。

 

 

 

月本さんはニコニコとしたおじいさんらしい顔を続けて、こう言った。

 

 

 

「何も私が任意でコマにする訳じゃあない。

 

勝負に負けた人間を好きに出来る。

 

ここはそういう空間なのだよ。

 

-Bubble Gum World-。私はそう呼んでいる。

 

素質があるものにしか見えんこのガムを噛んだ人間の勝負が契約になり、それが実行される。どんな非現実的な契約でもな。君に素質はないように見えるから、何か代価を支払って貰わないとあの二人は戻せん」

 

 

 

お父さんは当然のように「能力……?代価……?」と頭にハテナを浮かべている。

 

 

 

「警察は小学生を信用しないが、大人は信用する。今ここで僕がお父さんに説明すれば貴方は終わりですよ。誘拐事件の犯人としてあなたは検挙される」

 

 

 

恐怖で声が震えるけど、それでも勇気を振り絞ってこう告げる。

 

しかし、おじいさんは余裕綽々といった感じで、

 

「人をコマにするジジイが現れた、と大の大人が警察に言ってみろ。いい笑いものになる。大人であろうと子供であろうとそれは変わらない」と調子を崩さない。

 

 

 

 

 

おじいさんの言うことにも一理ある。

 

「じゃあやってやりますよ。僕がコマになってもいい。僕が貴方を倒して皆を取り戻す」

 

僕はあの2人の生命を取り戻すため勝負する事に決めた。

 

 

 

ある程度の説明をして、お父さんが審判を務めることになった。

 

「レディーファイト」

 

お父さんが震える手を挙げて勝負の開始が宣言される。

 

 

 

僕は佐久間のコマを選んだ。

 

回されることを悪く思うなよ。

 

すぐ戻してやるから。

 

 

 

おじいさんはあの時使っていた強いコマだ。

 

技量では負けても、コマの地力がある。

 

佐久間は学年一の力持ちだ。

 

 

 

回転するたびに、佐久間の無言の悲鳴が指先に伝わってくる気がした。

 

しばらく激しいコマのぶつかり合いが続く。

 

勝て、勝て、勝て。

 

あのコマは物理法則など無視するように、おじいさんの意のままに動く。

 

勝負は白熱したが、結局勝ったのはおじいさんのコマだった。

 

僕の希望は、弾き飛ばされたコマと共に、乾いた音を立てて場外へ転がった。

 

 

 

「勝負ありだね。さぁ私のコマになる時間だ。最初、君を善意から救ったと思ったろ?

 

佐久間と木村だったか。

 

あんなもの、道に吐き捨てられた二つの痰に過ぎない。

 

君をずっと監視していたんだ。

 

身体がコマになった時に最良のバランスだったからだ。

 

密度高く、高さ中庸。底面の角度30度。

 

60年コマをやっていて最良のコマになると分かっていたからこうした。

 

君は常に孤独で、イジメられる。

 

どうしようもないダメ人間だ」

 

 

 

足が動かない。

 

足首から先が鉛みたいに重くなって体温が奪われていく。

 

金属になるように足がぐにゃぐにゃに曲がり、まとまっていく。

 

 

 

「お父さん、ダメな息子でごめん。

 

僕のせいで2人は犠牲になった。

 

この事を警察に言ってこの人を捕まえ-」

 

 

 

少年は事切れるように完全にコマになった。

 

最後に残ったのは、冷たい金属の光沢だけだった。

 

父親はその場で四つん這いになり慟哭する。

 

 

 

「結局子どもの浅知恵だったな。

 

勝てる算段もなく挑むからこうなる。

 

アンタが警察に言おうとどうしようと、息子は返ってこない。私にベーゴマで勝てる人間など居ないからだ。

 

銃で脅されようと逮捕されようと、私と賭け事をしなければ」

 

 

 

老人は吐き捨てるようにそう言った。

 

 

 

こんな時にもカラスが鳴いている。

 

もう帰らなければ。

 

その夕焼けは、少年の最期を弔うにはあまりに赤く、毒々しいほどに美しかった。

 

 

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