禪院家の男の娘   作:⬛️⬛️⬛️

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元スレのスレ主が書く禪院家男の娘モノ。
そも呪術廻戦に男の娘モノがあまりに少ないので自分から供給したい。


第一話 御呪い

 

 人が纏う服装には、特別な意味がある。

 その場所や雰囲気、その時起こる出来事などに併せ、人はその時に相応しいのを纏うのだ。

 学校なら制服、畏まった場ならスーツ、幸福な場ではタキシード、逆に不幸な出来事があれば喪服など、時と場合で照らし合わせれば想像に容易い。

 

 古来より人は、神聖な儀式などでその儀式に沿った衣装を纏っていた。

 神道に務める女性が美しく清められた巫女服に身を包んだり、儀式の時に合わせて特別な服を纏うのがその例だ。

 また男性も、敢えて女性の衣装に身を包むことで女を装い、神託や御呪いを得られるという伝承も、全国各地に存在している。

 そうした伝承から発展した呪術の世界においても、その術に相応しい格好や衣装というものが数多く存在していた。

 これは、そんな様々な"衣装"を纏う、ある可愛らしい術師の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──禪院家に非ずんば呪術師に非ず、呪術師に非ずんば人に非ず。

 

 これが現代呪術界における名門「禪院家」で掲げられている矜持だ。

 呪術師ではない者に人権などない。この一家は実力主義であり、実力のない者は淘汰される。それは自然の摂理だという考えだ。

 また、この家は非呪術師だけでなく女にも厳しい。所謂"男尊女卑"といった具合であり、男は男らしく、強く、格好良くあるべきであり、女はその三歩後ろを歩いていれば良い……と、平成の世の中にもなって未だにそう考えている。

 なにぶん現代の日本社会とは隔絶された呪術界だからこそ、こう言った古臭い思想が残り続け、肥大化しているのかもしれない。

 

 そんな家に禪院直幸(なおゆき)が産まれたのは、特殊な事情ゆえだった。

 

 母の巴(ともえ)は、かつて呪術界の名門だった由緒正しい家の生まれであった。

 ただ実家はもう何十年も呪術師を輩出できないくらいに落ちぶれており、そのため苦肉の策として、二女であった巴を禪院家に嫁がせる事になった。

 嫁いだと言えば聞こえはいいが、実質は当時の当主である禪院直毘人の"お手つき"であり、家からはおおよそ人間として見られておらず、まるで血筋を得るための道具のような扱いだった。

 そうして直毘人との間に生まれたのが、直幸であった。

 直幸は母によく似た女顔の男子であった。

 お手つきの子ではあるが直毘人の血を引く男であり、彼はそこまで言うほど厳しい扱いを受けていたわけではなかった。

 また、幼い頃から直幸には呪力が確認されていたため、旧名家の血を引く術師を禪院に取り込むという未来を期待されていたのもあった。

 

 そんな彼に疑問が芽生えたのは、母が段々と身体を壊していった頃。

 母はこの家でまるで使用人のような扱いだったらしい。そのため身体だけでなく心にも負担を掛けてしまい、どうやら直幸にはそれを隠し続けていたようだった。

 その最中──直幸が五歳の誕生日の時、母はあることを始めた。

 

「直幸、これを着てちょうだい?」

「ん?」

 

 直幸の前に来た母が見せてくれたのは、綺麗な花柄が付けられた女物の着物だった。

 

「これ、女の子の服じゃない?」

「ええ、そうよ……これは"御呪い"」

 

 そこから母は、実家で受け継がれていた御呪いの伝統を、五歳の子供にも分かりやすく解説してくれた。

 なんでも、母の家系では五歳から一五歳までの男児に御呪いとして女の子の服を着せ、女の子として育てるのだと言う。

 それは病気や魔除けの意味があるらしく、女の子の服には神聖な加護があると教えてくれた。

 

「(これ、すごく綺麗……!)」

 

 着替え終わった時、直幸には妙な高揚感があった。

 すべすべした上質な布と、膝丈上くらいまでの赤い女袴は、自分が本当に女の子になったかのようで心地よい。

 

「可愛い……!」

 

 伸ばした髪を結ってもらい、姿見を前にして色んなポーズを取ってみた。

 どれも可愛らしくて気分が上がった。

 

「可愛い!!」

 

 直幸はこれがいい意味で自分の姿なのが信じられず、興奮していた。

 まるで別人に変身したみたいで心が躍った。なんだか自分の魂まで曖昧になり、変化しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禪院直哉は、禪院家の優秀児だった。

 五歳の頃に当主直毘人と同じ術式を相伝してからは、皆天才だ、天才だと持て囃して、直毘人の次の当主は直哉だと信じて疑わなくなった。

 そんなだからだろう。直哉の自尊心は高く、他の平均的な禪院家男子と同じく、術師でない者や女性への蔑視も酷かった。

 

 ただ一つ、あの男を見た時以外は……

 

 直幸が五歳の頃、直哉は十二歳だった。

 直幸から見れば年上の腹違いのお兄ちゃんだったが、家が広いためこの頃はまだお互い面識がなく、直哉だけが直幸の存在を知っていた。

 

「(なんやあいつ?前から女々しい顔しとったけど、恰好まで女々しくなっとるやんけ……)」

 

 直哉は気持ち悪いものを見たと思った。

 直幸は男のくせに女装していた。理由は分からないが、男が女の格好をしているのか理解できないのは確かだ。

 見た目上は似合っている。だが直哉にとっては、禪院家に女装したオカマが現れたようで気色悪かった。

 直哉が不機嫌なのはそれだけではない──

 

「(しかもなんでその格好で呪力が上がっとんねん……)」

 

 直哉は、女の服を着てはしゃぐ直幸に少しばかり変化があるのに気がついた。

 

 呪力が上がってる。

 

 十三歳になった直哉は人の呪力をある程度計れるようになった。腹違いの弟の直幸に呪力が芽生えているのは知っていたが、歳の差もありその呪力量は大したことなかったはずだ。

 だが、今の直幸は呪力が上がってる。

 まだ術式は発現してないらしいが、これではまるで、直幸が心まで女になって喜んでいるかのようだった。

 

「(禪院の男があんな女々しい格好で喜ぶわけないやろ)」

 

 直哉は直幸の事など眼中になかったが、この時から直幸の事が嫌いになり始めた。

 禪院の男なら、もっと男らしい見た目と格好をするべきだ。誰よりも強く、逞しく、身体もデカい圧倒的な強者だ。

 

──そう、あの甚爾くんのような……

 

 そこまで考えてから、改めて直幸の姿を見る。

 やはり直視できなかった。

 直哉の中で底知れぬ嫌悪感が出た。

 

「きっしょ……」

 

 直哉はそんな彼を見下し、吐き捨てるようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直幸は意外にも、女として扱われることに乗り気だった。

 何せ始めて着てみた女物の着物は綺麗な装飾や柄が描かれており、子供の直幸にはそれがとても輝いて見えたのだ。

 母からのプレゼントということもあり、直幸は大層それを気に入った。

 そうして伝統に則り、直幸は巴からしばらく女として育てられる事になったのだが、そこから家の者たちの態度が急変した。

 

「なんだあの格好は」

「男のくせに女の格好か」

「気色悪い」

 

 直幸は家の男たちから疎まれるようになった。

 大人達は急に冷たくなり、いつも直幸の陰口を言うようになった。

 

 男なのに女の格好をするな。

 男らしくしろ。

 気持ち悪い。

 

 口を開けばそんな言葉が投げかけられた。

 

 さらには年上の子供に裏手に連れてこられたと思ったら、格好を揶揄われ、上質な着物を脱がされそうになった。

 それに直幸が抵抗したら、複数人で殴られたり蹴られたりした。

 自分のことを女中だと勘違いする奴もいた。

 また、年上の子供から使用人みたいな扱いを受けた事もあった。

 

「(なんでなん?なんでみんなナオのこと虐めるようになったん?)」

 

 幼い直幸には意味が分からなかった。

 いや、知らなかったのだ。今まで男の身で禪院家で生きてきたから、直幸は女の立場の視点に立ったことがなかった。

 そして今、彼は女の格好をする事で女としてこの家で生きる辛さを思い知った。

 

「(もしかして母さんは、いつもこんな扱いを受けてたん……?)」

 

 もしかしたら隠していたのかもしれない。

 息子に心配をかけて要らぬ苦労をかけまいと、自分がぞんざいに扱われていることを黙っていたのだ。

 直幸が虐められていたのを、母はいち早く察知した。母は泣きながら直幸を抱きしめ、そして謝罪した。

 

「男の子なのにこんな格好をさせてごめんね……」

 

 そう言われて抱きしめられたが、直幸は納得できなかった。

 なんで母さんが謝る必要があるの?

 なんで女の子の格好をしたら虐められるの?

 なんで母さんがこんな扱いを受けなきゃいけないの?

 疑問が渦巻く。

 初めて女の目線を知った直幸は、何故こんな不公平や理不尽がこの家で起きているのか、理解ができなかった。

 だから、女の格好を止めるつもりはなかった。

 

「(ナオがなんとかしなきゃあかん……女装が続けられるようにして、母さんも胸を張って生きられる場所を作らな……!)」

 

 それこそが、禪院直幸が覚悟を決めた瞬間だった。

 




じゅじゅさんぽ
『女装という御呪い』
古今東西、なんなら日本以外でも、男児に女装させて魔除けとする御呪いは伝承としてたくさんある。主人公の直幸くんが勧められたのはそんな感じの伝統。
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