激重感情を向けてくるヒロインたちが全員メンタル崩壊して病んでしまったので、ひたすら甘やかすことで修羅場を回避するしかなくなった~ヘラったヒロインには飴が効く~   作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!

11 / 24
第11話『監禁してくるヒロインには』

「なにする気ですか……?」

 

 恐怖で歯の根が合わない。

 先輩はなにも答えなかった。ただ、唇の端を三日月のように吊り上げている。

 

「ふふっ……」

 

 えっ。なに。

 俺、マジで殺されるの……?

 いや、いくらなんでもそれはないよな。だってスマホくれるって言ってたし……殺そうとしてる相手に、普通そんなこと言わないよな。

 けど、殺されなくても痛ぶられるぐらいは……だって監禁とか平気でするような女だし、先輩、なんか血とか好きそうだし……。

 えっ。嫌だ。痛いのは嫌だ。

 俺は死に物狂いで身を捩った。

 

「だっ……、誰かぁぁぁぁっ!」

 

 だが、鎖が擦れるばかりで拘束はビクともしない。

 

「動くと危ないですよ。じっとなさって」

「や、やめ……」

 

 刃が制服に触れる。

 ビリ、ビリリ……。

 下に着ているインナーごと、上半身の衣服が切り裂かれていく。

 

「ちょっ! 制服が!」

「すでに新しいのを買ってありますから。サイズも完璧のはずです」

 

 そういう問題じゃない!

 しかし抵抗すると肌を切られそうで、俺は体を硬直させるしかなかった。剥き出しになった上半身が、ひんやりとした地下の空気に晒される。

 

「先輩……?」

 

 カッターナイフが地面に置かれた。役目は終えた、ということだろうか。

 その後、先輩は自分の制服に手をかけた。

 

「えっ……なにして」

 

 俺の問いには答えず、先輩は脱衣を進めていく。

 肩のライン。二の腕。くびれたウエストに、小さなおへそが露わになる。

 上半身を覆うのはレース素材の下着一枚で、スカートとの境目が妙に生々しい。

 

「青鳥くん」

「ひぃっ……!」

 

 胸元までにじり寄られた。猫のように四足歩行の体勢を取ると、先輩は俺の背中に手を回した。

 そして、

 

「ずっとこうしたかった」

 

 ギュッと。

 生肌と生肌が直接重なる。下着越しの柔らかいそれが、潰れてしまうほど密着した抱擁。

 温かい。俺は場違いにもそんなことを思った。

 

「私だって本当はずっとこうしたかったんです。天宮さんばかりいつも……」

「は……、はあ……?」

「青鳥くんの体を、私が自由に」

「怖い怖い怖いっ……!」

 

 先輩の顎が俺の肩に乗っている。髪が肌に擦れてこそばゆい。

 

「それより、その……ど……、どうですか……?」

 

 自分の肩を見るように目線を斜めにすると、真っ赤に染まった耳たぶが視界に入る。

 そこで俺は冷静になった。

 声だけじゃない。夜美先輩は体までブルブル震わせている。

 

「これでも好きになっていただけませんか……? で、では――」

「いえ、あの」

「ぎゅっ、ぎゅぅぅぅぅっ……」

 

 それは、好きな人に抱きつくというよりは、怖い物を見たときに咄嗟にしがみついてしまうような抱擁だった。

 

「…………」

 

 体はガチガチで、動作はたどたどしいことこの上ない。

 天宮には普段から抱きつかれていたけど、先輩はスキンシップを躊躇する人だった。

 もしかしてこの人、行動力が異常なだけで意外とウブなんじゃ?

 

「どっ……どうでしょうか……? これで私にメロメロでしょう……?」

 

 先ほどまでの迫力はどこへやら。こちらから押せば、簡単に言いくるめれそうな気配がある。

 人の好意に漬け込むようで気は進まないが……。

 こちとら監禁までされているのだ。この場を切り抜けるためにはやむを得ない、か。

 ごめん先輩。

 

「夜美先輩」

「は、ひゃいっ!」

 

 先輩の体が竦み上がる。

 

「提案があります」

「て、提案……?」

「この拘束を解く代わりに、俺から抱き締めるというのはどうでしょうか」

 

 ……どうだ。思い上がりも甚だしい発言だと自分でも思うが、夜美先輩が相手であれば多少なりとも効き目はあるはず。

 ていうか効いてくれなくちゃ困る。監禁生活など絶対に御免だ。

 頼むから効いて……。

 

「――――」

 

 先輩は、俺の首元からぐいっと顔を離した。なにやらこちらをパチパチと見つめたあと、ポッと煙が出そうなほどその顔を赤くする。

 

「本当ですか!? 青鳥くんから!? 私を!?」

 

 よし。手応えありだ。この流れを無駄にはしない。

 

「はい。ただし、そのあとはちゃんと家に帰してください。あと、スマホと制服も新しいやつを」

「わかりました! すぐに! 今すぐ解きます!」

 

 先輩はポケットから鍵を取り出した。両手首と両足首に繋がれた鎖へ、忙しなく身を屈める。

 

「あ、あら? 鍵穴が……ちょ、ちょっとお待ちになって……」

 

 焦り過ぎて上手くいかないらしい。

 

「落ち着いて」

「は、はい! 過去一で落ち着いてます! すごく落ち着いて――あっ、手足が逆でした!」

 

 過去一で落ち着いていなかった。

 やがて手枷が外れる。続いて足枷も。これで自由の身だ。

 滞っていた血流を慣らすように、その場で立ち上がって手足をぶらぶらさせる。

 自由に動けることがこんなに素晴らしいとは……足るを知った俺であった。

 さて――。

 女の子座りしている先輩を見下ろす。

 

「あの……青鳥くん……本当にしてくださるんですか……?」

 

 物欲しそうな眼差しで俺を見上げる先輩。上からだと、余計に谷間が艶めかしく見えた。

 目を逸らす。が、やると言った手前、ハグはしないと。

 

「一応、約束ですから。ちゃんと制服とスマホ弁償してくださいよ」

 

 俺は先輩の前に腰を下ろした。なに、海外じゃハグなんて挨拶程度に使われている。さっさと終わらせてしまおう。

 

「失礼します」

「ひゃいっ!」

 

 背中に腕を回すと、先輩の体が再びガチガチに固まった。

 

「あ……あぁ……青鳥くんが……私を……」

 

 先輩の体温が急上昇しているのがわかる。体を離して顔を見ると、目の奥がぐるぐる渦巻いていた。

 

「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょぶで……、すごく……しゅごくひあわへで……」

 

 呂律の回らない口調で応じると、先輩はこてんと首を落とした。

 

「先輩!?」

「ふへ……えへへっ……」

 

 目を閉じたまま、よだれと鼻血を垂れ流にしている。幸せのあまり気絶。そんなことが本当にあるのか……。

 硬い地面で申し訳ないけど、俺は先輩をその場にゆっくりと寝かせた。

 監禁されて、服を切り裂かれて、半裸で抱きつかれて……最終的に相手が気絶して終わり、か。

 

「なんだこれ……」

 

 九死に一生を得たというか拍子抜けというか、感情の整理が追いつかない。

 ただ、この場でひとつ学んだこともある。

 今日みたいな出来事は二度と御免だが、先輩が相手であれば、適度な飴を与えることで危機を切り抜けられそうだということ。

 無論、それは安全の前借りでしかない。飴を与えれば与えるほど、その反動で将来的な危険度は跳ね上がっていくと思うが……今死ぬより未来で死ぬ方がマシなのは当然の話だろう。

 

「…………」

 

 ふと思う。これって、天宮や依織にも通用したりするのかな。まあ、さすがにあのふたりも監禁まではしてこないと思うけど。

 ……あれ。

 なんか今、開いてはいけない扉を開いてしまったような気がする。考えてはいけない可能性を考えてしまったような、そんな危うさを俺は感じていた。




【天宮来夢】
依存度:★★☆☆☆
危険度:☆☆☆☆☆
病み度:☆☆☆☆☆

【綾倉夜美】(変動あり)
依存度:★★★☆☆
危険度:★★★★★→★★☆☆☆
病み度:★★★★☆→★★☆☆☆

【音塚依織】
依存度:★★★☆☆
危険度:★★★☆☆
病み度:★★★★☆

【青鳥心愛】
依存度:★★☆☆☆
危険度:☆☆☆☆☆
病み度:★★★☆☆
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。