激重感情を向けてくるヒロインたちが全員メンタル崩壊して病んでしまったので、ひたすら甘やかすことで修羅場を回避するしかなくなった~ヘラったヒロインには飴が効く~   作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!

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第16話『曇ったヒロインには追い打ちが効く(side依織)』

 要は風邪で学校を休んでいるらしい。要と同じクラスの友達がそう教えてくれた。

 でもたぶん、それはズル休みだと思う。

 昨日のキス。あれが原因で気まずくなって、学校を休むことにしたんじゃないかな。

 照れ屋さんだな、要は。そういうシャイなところも好きだけど。

 ただ、わたしは早く告白の返事が欲しかった。早くOKをもらって、要と恋人らしいことをたくさんしたい。毎日一緒に登下校したり、手を繋いで歩いたり、休日にデートしたり……そういう恋人らしいことをたくさん。

 だからわたしは午前中からずっと、放課後に家に行く旨をメッセージで伝えていた。だけど――。

 

「…………」

 

 おかしい。昼休みになっても全然反応が返って来ない。律儀で優しい要が、返信はおろか、既読もつけてくれないなんて不自然だ。

 キスで気まずいから?

 ううん。メッセージのやり取りでそれはない。だって、つい昨晩までは既読をつけてくれていた。なのに、今日になって急に未読無視だなんて。

 

『なんで返信くれないの?』

『通知行ってるよね?』

『返事もらえるのずっと待ってるのに』

『一晩中、要のこと考えながら今日を楽しみにしてたんだよ?』

『ずっと要のことばかり考えてた』

『話したい』

『要の声ずっと聞いていたい』

『早く要の彼女になりたい』

『要はわたしのことどう思ってる?』

『好きって言って欲しいな』

『わたしのこと、ちゃんと考えてくれてる?』

『わたし、欲張りかな……』

『なんで返信くれないの?』

 

 連投しても、やはり既読はつかない。

 まさか――と、嫌な予感が浮かぶ。デジャヴだ。

 そんなことあり得ないと思うけど……わたしは念のためにそれを確認することにした。要のアカウントページを開いて、プレゼント機能をタップする。

 

『プレゼントができません』

 

「――――――――」

 

 教室の喧騒が一瞬で遠退いて、世界から音が消えたような錯覚に陥る。

 ブロックされてる。

 また、要にブロックされちゃった。

 なんで。どうして。

 

「おかしいよこんなの……なんでまた、わたしを……」

 

 強引過ぎて嫌われちゃったのかな……えっ、わたし嫌われた?

 死ぬ。無理。死んじゃう。要に嫌われたら生きていけない。

 

「――どういうこと!?」

 

 悲嘆に暮れる中、意識の外から怒声が耳に入る。顔を上げると、来夢ちゃんが目の前に立っていた。

 いつの間に……。

 来夢ちゃんは机に両手をついて、席に座るわたしを上から見下ろしている。息が荒い。どうしたんだろう。

 

「依織も青鳥のこと好きなの!?」

 

 猿みたいに声が大きくて、教室中の視線がわたしたちに集まる。ただ、来夢ちゃんは気にする様子もなく、わたしのスマホを見下ろしたまま動かない。

 ああ、これか。要とのトークを除き見されちゃったらしい。

 

「ちゃんと答えて! どういうことなの!?」

 

 周りの迷惑も考えずに教室でヒスって……本当に面倒臭い子。

 

「はあ……」

 

 わたしは突き放すようにため息を吐いた。

 どうしてあげようかな?

 今までは、ふたりの仲を監視するために仕方なく友達のフリをしていたけど、要に告白した以上、もうその必要はなくなった。

 どうせ壊れてしまう関係なのだから、いっそメンタルをぐちゃぐちゃにしてあげようかな。

 そうだ。それがいい。わたしばかり苦しい思いをするなんて不公平だよ。

 

「わたし、要と付き合うことにしたから」

「え……?」

 

 必死だった顔つきから色が抜け落ちていく。

 ああ……綺麗な反応。普段は太陽みたいに明るい顔をしているから、曇った表情が余計に映える。

 

「なに言って……」

 

 来夢ちゃんにはもっと、もっともっと歪んで欲しい。

 わたしは椅子から立ち上がった。その一方で、立っていた来夢ちゃんの肩がどんどん垂れ下がっていく。

 いつも自分ばっかり要を独占しようとして……。

 今までのフラストレーションをぶつけるように、わたしはありったけの悪意を込めて口元を歪めた。

 

「もうキスだってしたんだよ? 2回も」

 

 僅かに口を開ける。そして、わたしは自分の下唇をそっと指でなぞった。見せつけるように、知らしめるように。

 

「昨日ね、要の家に行ったの。そしたら、すごく優しくしてくれて……告白したら、()()()()()()()。すごく、すごく甘かったよ?」

 

 要の味。

 昨晩、何度も何度もベッドの上で回顧した味。

 少し誇張はしてるけど、キスしたことは嘘じゃない。あの瞬間を思い返すだけで体の芯が熱くなる。現実だ。決して夢じゃない。

 

「そんな……」

 

 膝から崩れ落ちそうなほど来夢ちゃんは震えていた。それでも、最後の力を振り絞るように叫びを上げた。

 

「そんなの……、嘘に決まってる……!」

「わたしと要は幼馴染なんだよ? 来夢ちゃんよりずっとずっと前から一緒だったんだよ? あなたみたいな外野、最初から土俵にすら立ってなかったんだよ」

「でも……でもでも! 青鳥はあたしを裏切ったりしない……!」

「そうかなぁ」

 

 喉の奥で、乾いた笑い声が転がる。

 

「そもそも裏切るってなに? ふたりは恋人でもなんでもないのに」

「うぅっ……」

 

 来夢ちゃんは唇を噛んでいた。泣き出しそうな顔だ。でも、涙は流れてこない。堪えるように全身を硬直させている。

 ざわざわと、ひそひそと、教室全体がわたしたちを観察していた。わたしがいじめているみたいで周囲の視線がちょっと痛い。

 

「信じない……信じられるわけないでしょ、そんなの……!」

 

 来夢ちゃんは縋るように否定を繰り返した。

 

「だって青鳥は……あんなにもあたしに優しくしてくれたのに……!」

「要の通常運転だよ、それ」

「それでも……!」

 

 まだ諦めていない目だ。だったら、わたしにも考えがある。

 

「じゃあさ」

 

 わたしは小首を傾げた。

 

「放課後、一緒に要の家に行く?」

「えっ……」

「だって来夢ちゃん、わたしのこと信じてないんでしょ? だったら本人に直接確認してみればいいよ。キスしたかどうか、要の口から聞けば納得するでしょ?」

 

 来夢ちゃんの瞳が揺れる。対して、わたしは余裕の笑みを作った。

 実際のところ、要がどんな反応をするのか不安ではある。でも、なにがあろうとキスしたことは事実だ。

 大丈夫。要は絶対にわたしの味方をしてくれるはず。だって、わたしたちは幼馴染なんだから。

 

「どうする? 行くの? 行かないの?」

 

 圧をかける。

 長い逡巡の末に、来夢ちゃんは小さく頷いた。

 

「……わかった。行く」

「それがいいよ。わたしも早く要に会いたいから」

 

 ブロックした理由を、ちゃんと説明してもらわなくちゃいけないしね。

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