激重感情を向けてくるヒロインたちが全員メンタル崩壊して病んでしまったので、ひたすら甘やかすことで修羅場を回避するしかなくなった~ヘラったヒロインには飴が効く~   作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!

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第18話『ヘラったヒロインたち』

 ――ピンポーン。

 

 昨晩寝れなかったのと、今朝の拉致監禁が重なって俺の疲労はピークに達していた。

 心愛を抱いたまま眠ってしまったらしく、目が覚める頃には空の色は薄くなっていた。

 

 ――ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!

 

 インターホンの音だ。まどろみの意識が一気に覚醒する。腕の中の心愛も、不愉快そうに閉じていた瞼を上げた。

 

「ん……なに……?」

 

 ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!

 

「うるさいなぁ……せっかくお兄ちゃんといい雰囲気だったのに……」

 

 心愛の唇がむくれたように尖る。

 この流れ、完全にデジャヴだ。

 夜美先輩か、あるいは依織か……どいつもこいつも、人の安らぎを破壊することにかけては天才的だ。

 心愛は俺の腕からするりと抜け出すと、ベッドの上に座り直した。

 

「どうせまた、あの女だよ」

「あの女?」

「お兄ちゃんにキスした泥棒猫」

 

 依織のことを言っているのだろう。

 

「無視しよ? どうせろくな用事じゃないよ」

「そうだな……」

 

 賛成だ。誰であれ、今の俺にまともな対応ができる自信はない。精神的にも肉体的にも、俺はもう限界だった。

 だが、俺たちのささやかな希望は、すぐに打ち砕かれることになった。

 

 ガンッ! ガンガンガンガンガンガンッ!

 

「うわっ……」

 

 今度は玄関のドアを無遠慮に引く音だ。

 鍵を壊さんばかりの勢いで、放置していたら窓ガラスまで割りそうな剣幕だ。

 俺はため息を吐きながらベッドから腰を上げた。逃げられないなら、観念するしかない。

 

「ちょっと出てくるよ」

 

 瞬間、心愛の目が据わった。ハイライトが消えている。

 マズい。またヘラりかけている。

 

「……私も行く」

「えっ」

「お兄ちゃんひとりに任せられない。私も一緒に行く」

 

 ベッドから下りた心愛が、自分が先導するように部屋の外へと繰り出す。 

 ふたりで玄関に向かう。その間にもインターホンと扉揺すりは続いていた。

 途中でモニターを確認すると、そこには予想通りの人物と、予想外の人物が映っていた。

 

「依織と……天宮?」

 

 なんでこのふたりが一緒に?

 疑問を解消する間もなく、心愛が勇み足でリビングを抜けていく。

 

「私がガツンと言ってやるんだから」

 

 心愛は躊躇なく鍵に手をかけた。

 

「ちょ、心愛! すぐに開けたりしたら――」

 

 止める間もなく開錠。

 途端、扉が即座に後ろへと引かれた。

 

「要!」

「青鳥!」

 

 開口一番、依織と天宮の声が重なる。

 扉を引いていたのは天宮だったらしい。入室の許可もしていないのに家に侵入した天宮は、心愛の横をすり抜けて俺に詰め寄ってきた。

 

「どういうことなの!? 依織とキスしたって本当!?」

 

 えっ。なんでそのこと知ってるの。

 あの場に天宮はいなかったのに。

 

「要。教えてあげなよ、本当のこと。来夢ちゃんってば、何度言っても信じてくれなくて」

 

 ああ、なるほど。依織が教えたのか。

 余計なことを……ほとんど嫌がらせじゃないか。

 

「するはずないよね!? 青鳥がそんなこと!」

「えっと……」

 

 矢継ぎ早に繰り出される天宮の追及に、俺はしどろもどろになってしまう。言葉が喉に詰まって、上手く声にならない。

 そんな中、心愛が俺を庇うようにふたりとの間に割って入った。

 

「お兄ちゃんは誰にも渡しません。私と結婚するんですから」

 

 知らしめるように、心愛が俺の腕にしがみつく。

 俺に義理の妹がいることは、天宮も依織も知っている。だからこそ、その爆弾発言に驚嘆したらしい。

 

「は……!?」

「結婚……!?」

 

 玄関の空気が一瞬で凍りつく。

 驚いたのは俺も同じだった。

 

「いや! しないって!」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。義理のきょうだいでも結婚したケースはたくさんあるから。法律的にもなにも問題ない。ちゃんと調べたもん」

 

 裏取りまでしているらしい。マジだ。

 

「どういうこと、要」

 

 暗く据わった目と共に、依織が前に出てくる。

 

「なんで心愛ちゃんまで要に好意向けてるの? おかしいよね? 普通じゃないよね?」

「普通じゃないのは依織もだけど……」

「説明して。ちゃんと説明して。わたしたち、キスまでしたんだよ? 誓いのキスまでしたんだよ? それってつまり結婚するってことだよね? わたし、青鳥依織になれるんだよね?」

 

 また依織の質問責めが始まってしまった……。

 そしてそれには心愛が反応した。

 

「ふざけないでください。あなたが義理の姉になるとか絶対に嫌です」

 

 ギッと眉根を寄せて、心愛が依織を拒絶する。

 

「お兄ちゃんに勝手にキスして……泥棒猫が」

「わたしは要の幼馴染だよ。誰よりもずっと昔から、要のことを見てきたの」

「見てただけじゃん。私はお兄ちゃんと一緒に暮らしてる。毎日お兄ちゃんのことお世話してる。朝も夜も、ずーっと一緒」

 

 心愛が勝ち誇ったように笑う。

 依織の眉がピクリと歪んだ。

 

「――青鳥! ちゃんと自分の言葉で答えてよ! キスしたのは本当なの……!?」

 

 それまで様子を窺っていた天宮が、痺れを切らしたように叫ぶ。

 

「来夢ちゃんは黙ってて。今は心愛ちゃんと大事な話をしてるの」

「黙ってられるわけないでしょ! あたし、青鳥のこと……!」

「自分が蚊帳の外なのまだわかってないの? これはもう、わたしと心愛ちゃんの一騎打ちなの。要はわたしと結婚するんだから」

「しねえよ!」

 

 思わずツッコミを入れてしまった。

 俺の否定に、依織が「え?」と目を丸くする。

 

「でも……キス、したじゃない……」

「あれは依織が無理やり……!」

「無理やりじゃない! だって要、避けなかった! 舌入れるのも許してくれた……! だからわたしたちは――」

 

 ゆらゆらと、依織が前に手を伸ばす。

 指先が俺の袖に触れた瞬間、

 

「お兄ちゃんに気安く触らないで!」

 

 心愛が依織の手を叩き落とした。

 

「次この前みたいなことしたら殺してやるっ……!」

 

 依織に対して殺害予告。だが、依織は引くどころか口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

「……へえ。脅されると、余計に頑張りたくなっちゃうな」

 

 依織が一歩前に踏み出す。心愛との距離が詰まって、本当に殺し合いでも始めそうな緊迫した雰囲気が漂う。

 一方の天宮は、依織の斜め後ろで拳を握り締めていた。俺から視線を逸らすことなく、こちらを睨みつけている。

 

 ――泥沼化してしまった。

 

 誰かひとりならまだ対処のしようもあったかもしれないが、今回は3人だ。

 夜美先輩や心愛に効いた『飴』も、他の女がいる状況では100%逆効果になるだろう。

 だったらもう――。 

 

「っ……!」

 

 打つ手なし。逃げるしかなかった。

 あとのことなんてなにも考えていない。

 ただ、俺はとにかくその場から逃げ出したくて、取る物もとりあえず駆け出した。

 

「待ってよお兄ちゃん!」

「どこ行くの要?」

「青鳥!」

 

 背後から声が飛んでくるが、俺は振り返らない。

 かかとを踏んだまま靴を履き、ドアを押して外へと飛び出す。

 

「――あら、青鳥くん」

 

 そして俺は絶望とエンカウントした。

 玄関先には、夜美先輩が立っていた。

 

「まだインターホンも押していないのに出迎えてくださるなんて……やはり私たちは通じ合っているのですね」

 

 うっとりと微笑んでいる。

 どうして夜美先輩がここに……。

 綾倉家を出てから、まだ半日も経っていないのに。

 いけない。今はそんなことを考えている場合じゃなかった。

 

「――ッ!」

 

 先輩をフル無視して、その横を通り抜けようとする。だが、すれ違いざまに手首を掴まれてしまった。

 

「ちょっと。私を置いてどこへ行くつもりですか?」

「いやほんと、マジで急いでて!」

 

 振りほどこうとするが、先輩の力は意外に強い。

 

「青鳥!」

「要!」

「お兄ちゃん!」

 

 その一瞬の隙に、3人が追いついてしまった。

 ああ……終わった。

 

「青鳥くん。どういうことですか、これは。妹さんはともかく、どうして彼女たちがここに?」

 

 俺の手首を掴む先輩の握力が痛いほど増す。

 声には不快感が滲んでいた。

 

「詳しくお話を聞かせてもらいましょうか」

 

 依織、天宮、心愛が、左右と前方を阻むように立つ。後方には夜美先輩。

 四方をヘラった女たちに囲まれている。

 逃げ場はもう、どこにもなかった。

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