女「はぁ、はぁ…」
私は逃げていた。
私の事を狙う奴から、必死に逃げていた。なぜ、私が追いかけられなくちゃならないのだろう。私はただ、復活したこの街を周りたかっただけなのに…。あれからずっと山に住んでたから、どうなってるのか見たいだけなのに。
すると、コツコツとだんだんと足音が近づいてくる。
オッサン「…おいおい、お嬢ちゃん?そろそろ疲れたろ…。大人しくオジサンと遊ぼうぜ?」
私を追いかけてきた男は、縄を手に私に近づいてくる。逃げなきゃ。と思ったが、もう私の足はヘトヘトで、もう歩く事すらままならなかった。
女「いや……たす…けて…!」
恐怖に溺れながら、必死に声を張り付かせるが。こんな掠れた声では、なんの意味もなさなくて、私はおとなしく男に口を塞がれた。
オッサン「へっへっへ、とうとうこの時が来たぜ〜。さあ嬢ちゃん、俺を楽しませてくれよ〜いひひひー!」
抵抗するも、男の手は1ミリも動かなくて、次には目隠しをされてしまい、視界を奪われてしまって、瞬く間に身動きが取れなくなってしまった。
オッサン「ふふふ、俺のスキルは“拘束”だからな。縛れる物があれば、瞬く間に拘束完了できる、捕縛に優れた最強の特殊スキルなんだぜー!」
もうダメだ。
そう思った瞬間のことだった。
??「ちょっとそこのおじさん?」
聞き覚えのない男の声が、近くで聞こえた。しかも、その言い方からして、その声の人は私を襲っている男性に言っていた。私は訳がわからず、思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
??「なぁおじさん、その女の子縛って何するつもりなんだ?さっさと離しなよ」
オッサン「あっ?なんだオメエ?離すわけねぇだろがよ。こんなに品質の良い上玉はなかなかいねぇからなぁ。離せって言われて、素直に応じるとでも思ったら大間違いだぜ小僧」
私を縛った男は、そう嘲笑しながら遠くから聞こえる男に向かってそう言った。
??「……そうか。なら、強硬手段に出るしかないな」
オッサン「強硬手段だとぉ〜?おい青ガキ、そんなちょっと鍛えただけの細々とした腕で、俺に勝てるとでも思ってるのか??言っとくが俺は、拘束のスキル以外にも、武道の心もあってなぁ、お前みたいなガキを背負い飛ばすぐらいの腕は持ってるんだぜ!」
??「だから?それがなんだよ、ごちゃごちゃ言ってないで来いよ、それとも僕からかかってくればいいのか?」
オッサン「ふははっ!!そりゃいいな!じゃあお前の言う通り、先手を譲ってやるぜ!」
??「いいんだな?それじゃあ、一発で終わらせるぞ」
その刹那、私を取り押さえていた男の手が鈍い音と共に離れると、ゴミ箱でも倒れたのか、大きな金属の音が辺りに反響した。私はなにが起きたのか分からず、なにも見えない視界の中で内心アタフタとする。
すると、近くからまた人を殴ったような鈍い音が反響する。
オッサン「ぐはっ!!な、なんだこいつ!?クソ強いぞ!たっ、たすけて〜〜!」
私を縛りつけた男はそう言ってバタバタと駆け足で逃げ出した。かすかに聞き取れる耳を頼りに、私は今の現状をなんとなく理解しようとするが、結局音だけでは何があったのか明確に分からずただ予想するしかできなかった。もう助かったのかな?もう大丈夫なのかな?
そんな事を考えていると、私を縛っていた縄が解かれ、奪われた視界が元に戻った。私はついに拘束から解放されたのだ。
??「大丈夫?」
私を助けてくれた男は、そう言って私に手を差し伸べる。
彼の顔が私の視界にはっきりと映り込む。
髪は少し暗そうな青色の長髪で、黒いリボンで髪を後ろに結んでいた。顔つきはとても優しく笑顔がとても似合う中性的な男性だった。
女「あっ、ありがとうございます!助けていただいて…」
??「気にするな、助けを呼ぶ声が聞こえた気がして来ただけだから」
女「それでも、助けてくれたのは本当です!本当にありがとうございます。見ず知らずの私を助けてくださるなんて、本当に何をお詫びしていいのやら」
??「いやいや、僕は別に何かを貰いたいがために君を助けたわけじゃないんだから。日本の情勢が戻っても、治安を取り締まれる組織が出来ても、まだこの国には危ない犯罪者がたくさんいる……だから君もなるべく気をつけて外出するんだよ」
彼はそう言うと、路地裏から出る道を歩き出した。そんな彼の背中に向けて、私は声を大にして呼び止めた。
女「あっ、待って下さい!」
??「んっ?なんだ、まだなにかあるのか?」
そう言って彼は私の方へと再度視線を向ける。私は勇気を持って、その人に言った。
女「あなたの名前は?」
しばしの沈黙の後、彼は少し悩んだ様な素振りを見せながら、やがてこう言った。
??「……神山宏、ヒーローになりたいただの技能力者さ」
宏「それじゃ、また縁があればどっかでね。お姉さん!」
そう言い残すと、青髪の少年は私に背を向けながらまっすぐと表に出る道へと歩いていき、その場から姿を消したのだった。
女「宏、なんていい名前でしょう。あなたのことは決して忘れません。でも、んーー??なんだろう?あの人がつけてたリボン、何処かとても見覚えがあるんだけど。どこで見たんだったかしら??」
と、私は誰もいなくなった路地裏で立ち尽くしながらそんな事を真剣に考えるのだった。
□□□宏視点
……スキル。
それは、ここ数十年の間に日本にだけ現れた異能な技能。主にこの力には二種類あり、努力やセンス、才能などの自身の戦闘センスで目覚める“通常スキル”と……希少かつ異次元な力を引き出す“特殊スキル”の二つ。なぜこんな力が生まれたのか、どうして日本だけなのかは知らないが、僕らが生まれた時にはもうこれは普通にあった。
そして今日も僕は、その犯罪者となりうる人間を倒し、助けた。
宏「……いつまで経っても、悪人はいなくならないんだな」
僕がいるのは、埼玉県の首都さいたま市南区の人ごみの少ない都会。
その街の中のベンチに腰掛けながら、悟ったようにそんな事を呟いていた。
??「おっ?また、人助けでもしてきたのか?」
突如背後から、金髪の魔法使いコスプレイヤーが、箒にまたがりながらふわふわと飛んでいた。
宏「真奈か、どうしたんだよこんなところまで……?」
こいつの名前は石田真奈。コスプレイヤーのような格好をしているが、これでも僕と同じ技能力者の一人であり、僕の家族だ。
真奈「誰がコスプレイヤーだ馬鹿野郎、私はれっきとした魔法使いですー!」
なんでわかるんだよ、エスパーかよ。
宏「それは、すまない」
真奈「ならいいんだ!」
宏「……それで、どうしたんだよ?」
真奈「どうしたんだよじゃないよ!お前が急にどっか行くから、仕方なくお前を探しにきてたんだよ!」
宏「あーー………、えーっとぉ……ごめんなさい」
真奈「どうせまた、人助けでもしてたんだろ?別にそれを攻めるつもりはねえけどさ。あんまり心配させないでくれよ。助けに行った結果戻ってこないなんてことになんてなってほしくないから」
宏「そうだよな。ごめん、今度は気をつけるよ」
真奈「よし!なら帰ろうぜ!てか、腹が減ったぜ。今日の夕ご飯はなんなんだ?」
宏「カレーにしようかと思ってるけど、なにかリクエストがあったりするか?」
真奈「私は、宏の料理ならなんでも美味いから、別にどれになっても大丈夫だけどな。あぁそうだ、また新しい魔法が完成したからさ、見てくれないか?今度のやつは結構自信作なんだぜ!お前もきっと驚くぞ」
宏「へー、そいつは楽しみだ。じゃあ、早く帰ろうか………一緒に」
真奈「おぅ!」
そうして僕たちは、帰路を進んだ。
宏「………にしても……」
僕は、浮遊する箒にまたがる彼女の方を見る。
宏「いいよな、お前は空飛べて……僕も空飛んでみたいよ」
真奈「もしかしてお前、魔法使いになりたいのか?だったら歓迎するぜ!」
宏「いやちげーよ。ただ、お前みたいに空を自由に飛べたらなって思っただけだ。すまないけど、僕に魔法は合わない」
真奈「そっ、そうか……。まあ、気が向いたらいつでも頼め!いつでも教えてやるからさ!」
と言って、真奈は残念がっていた顔を一瞬で明るく変えて、そんな事を僕に言うのだった。
□□□
力というものは恐ろしい。スキルというものが人に与えられたあの日から、人は犯罪に手を染める者が多くなった。その後、それなりに治安が良くなったところで、とある大きな事件が起きた。それは、関東全域が花火のような流星群に包まれて崩壊した事件だ。特に東京の土地は大きく破壊され、大都市と呼ばれていた渋谷区などは、崩壊し海の一部と化してしまった。
それでも、僅かに残ったビルなどの建造物が形を残しているものの、もうそこに住んでいる人は誰一人としていない。それから15年の間に、政府本部もこの埼玉に移りこの国を取り締まるための新たな組織も結成され、コツコツと昔の関東地域を取り戻していった。
スキルは確かに恐ろしいが、逆に利点もあった。スキルにより、農業や食糧、建築や復興、地球温暖化などの問題が解決したのだから。たとえこんな世の中になろうと多少の利点はあったのだ。だから今の僕たちは、この今を生きている。
明日の平和と食糧と生活。その全てから守られたこの日本で、僕と真奈はいつも通りの毎日を送っていくのだ。
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