ヒーローと探偵 作:タルマヨ
光の継承者(前編)
米花町二丁目、阿笠邸の朝は、胃の腑を揺さぶるような乾いた爆発音と共に幕を開けた。
リビングで読みかけの参考書を閉じた星野圭人は、溜息すらつかずに立ち上がった。ほどなくして、リビングの扉が勢いよく開き、顔を煤で汚した阿笠博士が、焦げた白衣をはためかせて現れる。
「いやあ、大成功まであと一歩……いや、あと半歩なんじゃがな!」
「その『半歩』で、この家が更地にならなきゃいいけど」
キッチンから、冷淡だが透き通った声が響いた。コンロの前に立ち、手際よくフライパンを振っているのは灰原哀だ。彼女が淹れたコーヒーの香りが、爆発の煙を押し返すように部屋に広がっていく。圭人は無言で彼女の隣に立ち、皿を並べるのを手伝い始めた。
「手伝うよ、志保さん」
「ええ、お願い。……それより博士、今すぐその煤を落としてきなさい。それから血圧を測ること。爆発のショックで上がってるかもしれないわよ」
「わ、わかっとるよ。哀くんは相変わらず厳しいのう……」
博士が慌てて洗面所へ向かう足音を聞きながら、圭人は灰原から受け取った皿をテーブルに運び、自分の椅子に腰を下ろした。ほどなくして、向かいに座る灰原が、じっと自分の胸元を押さえている圭人の様子に気づき、眉をひそめる。
「……どうかしたの? 星野くん。さっきからずっと、左胸を押さえているけれど。博士の爆発で動悸でもしたかしら」
「……いや、そうじゃないんだ。ただ、朝からずっと……」
圭人は言葉を切り、自分の胸の鼓動を確認するように指先に力を込めた。そこには、肉体的な不調とは異なる、もっと根源的な「叫び」のような脈動があった。
「……何かが、街に滲み出しているような嫌な予感がするんだ。志保さん、さっきの新聞の『神隠し』の記事、あれは……」
「ええ、私も気になっていたわ。目撃証言によれば、被害者は抵抗する間もなく『影に溶けるように』消えたそうよ。まるで、この世界の理から外れた何かに呑み込まれたみたいにね」
灰原は新聞の不審者情報の欄を指先でなぞりながら、声を潜めた。
「昨夜から続くこの違和感。……博士が解析しているあの超古代の石箱(ケース)と、何か関係があるんじゃないかしら」
「……ああ。俺の鼓動と共鳴してやがる。放っておけない気がするんだ」
「……そう。あまり一人で抱え込まないで。あなたまでその『何か』に呑み込まれたら、この家の朝のコーヒーが一人分余ってしまうわ」
皮肉交じりの、けれど確かな心配が込められた彼女の言葉に、圭人はわずかに口角を上げた。
「……ああ。お代わりを貰うまでは、消えるわけにはいかないな」
圭人は最後の一口を飲み干すと、席を立った。玄関へ向かう廊下、そこには博士が地下室から持ち出してきた石箱が厳重に安置されていた。一瞬、指先がピリリと痺れるような感覚が走る。
(……来ているんだな。俺を呼ぶ何かが)
その「運命」を振り払うように、圭人は強く鞄を握り直し、光の射す外の世界へと踏み出した。
◆
帝丹高校の教室は、昼休みの喧騒に包まれていた。
窓際の席に座る圭人の耳には、教室内で交わされる断片的な会話が、まるで遠い異世界の出来事のように響く。
「ねえ蘭、また新一君から連絡なし? もう、あいつ何考えてんのかしらね」
「いいのよ園子。事件が難しいって言ってたし……。それに、生きてさえいてくれれば、それでいいから」
鈴木園子の呆れたような声に、毛利蘭は寂しげな、けれどどこか悟ったような笑みを返していた。そのやり取りを、圭人は視線を窓の外に向けたまま聞いていた。
(……生きてるさ。すぐ傍で、汗をかきながらな)
彼女たちのすぐ側で、小学生の姿に身をやつし、命懸けの「鬼ごっこ」を続けている親友。圭人だけが知る工藤新一――イチの真実。その過酷な戦いに、自分もまた「光」という形で足を踏い入れようとしている。
「……随分と、遠くを見ているんだね。視線の先に、キミを呼ぶ『何か』でもいるのかい?」
不意に頭上から降ってきた声。見上げると、ブレザーのポケットに手を突っ込んだ世良真純が、面白そうに目を細めて立っていた。
「……真純さん、何か用か?」
「いや。キミのその、無駄のない筋肉のつき方と、周囲への異常なまでの警戒心。……とてもただの高校生が出せるオーラじゃないと思ってね。ボクのジークンドーと、一度本気で手合わせしてみる気はないかい?」
世良は圭人の机に軽く手をつき、距離を詰めてくる。その鋭い視線は、圭人の喉元や重心の置き方を値踏みするように這った。
「キミのその『正体』……。拳を合わせれば、ボクが求めている答えが見える気がするんだ。キミも、隠し事には慣れているようだしね」
「悪いが、俺は平和主義者でね。……それに、今の俺には君と遊んでいる余裕はないんだ」
圭人は視線を逸らさず、静かに、けれど明確な拒絶を込めて返した。
「……フン、つれないね。まあいい、その化けの皮、ボクが剥がしてやるよ。いつかね」
世良はそう言い残して去っていったが、彼女の直感は、圭人の中に眠り始めた「異質な力」を、確かに嗅ぎ取っていた。
◆
放課後、街が不気味な紫色の夕闇に包まれる頃。圭人は胸の鼓動に突き動かされるように、商店街の裏路地へと駆け込んでいた。
突き当たりにあるゴミ捨て場の影に、小さな人影を見つける。
「……やっぱり、オメーも来たか。圭人」
江戸川コナンだ。彼は野次馬や警官から隠れるように、壁の焦げ跡を調べていた。圭人は周囲に誰もいないことを確認し、コナンの隣に屈み込む。
「なぁ、イチ……。ここだけ空気が凍りついてる。何があった?」
「見てろ」
コナンが指差した先。コンクリートの壁が、熱で溶けたのではなく、まるで「吸い取られた」かのように丸く抉れていた。そこには、数時間前までここにいたであろうホームレスの荷物だけが、主を失って転がっている。
「争った跡も、逃げた足跡もねえ。鑑識が来る前に俺が調べた限りじゃ、指紋一つ残ってねえんだ。だが……この抉れた部分から、妙な磁場が出てやがる。科学(ロジック)じゃ説明がつかねえ……まるで、異次元の化け物にでも喰われたみたいにな」
コナンの言葉が終わるか終わらないかのうちに、路地の奥がぐにゃりと歪んだ。
空間そのものが熱を帯びた陽炎のように揺れ、その中心から「影」が染み出してくる。
「……! 伏せろ、イチ!」
圭人がコナンを突き飛ばした直後、影が爆発的に膨れ上がった。ガラクタやドラム缶が紙細工のように吹き飛ぶ衝撃の中、現れたのは、不気味な唸り声を上げる異質の存在だった。実体があるようでない、泥のような闇を纏った怪物。
さらに驚くべきことが起きた。怪人の足元、地中から突き上げるようにして、阿笠邸にあったはずの「石箱」が姿を現したのだ。石箱は怪人が発する闇に共鳴するように、禍々しい紫の光を放っている。
「……まさか、あいつがあの箱を呼んだのか!?」
コナンの叫びをよそに、圭人の意識は石箱に吸い寄せられた。鼓動が最高潮に達し、身体が勝手に走り出す。
「圭人、よせ! 離れろ!」
「うおおおぉぉ!」
闇を振り払い、圭人が石箱の表面に触れた瞬間――世界が真っ白な光に染まった。
石箱が弾け飛び、その中から黄金の光を放つ神器が圭人の右手に飛び込んでくる。白銀の翼を閉じた、変身アイテム――スパークレンス。
「これ……は……」
手にした瞬間、失われていたはずの太古の記憶が、濁流となって圭人の脳内を駆け巡った。守るべき人々の笑顔、そして、闇を切り裂く「光の戦士」の姿。
怪人が腕を振り上げ、コナンへと襲いかかろうとする。
「やめろぉぉぉ!」
圭人は迷わずスパークレンスを高く掲げた。
その両翼が黄金に輝きながら力強く展開され、光の奔流が路地裏を飲み込んだ。
闇が切り裂かれ、光の中に一人の戦士が屹立する。
赤、紫、そして白銀のラインが月夜に美しく、力強く輝く。人間に近いサイズでありながら、放つ威圧感は圧倒的だ。
「な、なんだ……。今の光は……。圭人、なのか……?」
呆然と見上げるコナンの前で、「光の戦士 ティガ」は静かに拳を構えた。
胸のクリスタルが、命の鼓動と同じリズムで青く輝く。
圭人の意識と一体となったその瞳が、眼前の闇を鋭く射抜いた。
圭人の変身するティガの設定
■ 基本仕様
身長: 1m90cm(圭人は1m80cm)
飛行能力: 不可
戦闘アクション: 超常的な跳躍や高低差を活かした、立体的かつダイナミックなアクションを行う。
活動時間:3分
変身解除: 光の粒子となってその場から消滅する。
■ 各タイプの特徴と必殺技
マルチタイプ
配色: 銀・赤・紫
特徴: スピードとパワーのバランスに優れた基本形態。
必殺技: ゼペリオン光線
スカイタイプ
配色: 紫・銀
特徴: 飛行はできないが、スピードと跳躍力に特化している。
必殺技: ランバルト光弾
パワータイプ
配色: 赤・銀
特徴: パワーと重量感のある打撃に特化している。
必殺技: デラシウム光流