ヒーローと探偵 作:タルマヨ
「……アカン、やっぱり外には繋がらへんわ! 工藤、どないなっとんねんこれ!」
平次が苛立ちを露わにし、何度もスマホを叩くが、画面には非情な『圏外』の文字。アンテナは死んだように沈黙したままだ。
「落ち着け、服部。……このバリヤー、ただの電波障害じゃねえ。物理的に空間を隔離してやがるんだ」
出口を目指した群衆が見えない壁に激突し、紫色の紋様とともに走る放電に焼かれ、次々と地面に転がっている。
「な、なんやこれ! 出られへんやんか!」
「助けて! 誰か開けてよ!」
日常のすぐ隣に現れた異界の檻。園子が青ざめた顔でバリヤーから後退るのを、小五郎が苦々しく見据えていた。
「よせ、園子! 下手に触るとあの連中みたいに弾き飛ばされちまうぞ! クソッ、電話も通じねえんじゃ目暮警部殿に連絡もできやしねえ……!」
「お父さん、落ち着いて! ……和葉ちゃん、そっちは大丈夫?」
「アカン、アタシのスマホも全滅や! ……蘭ちゃん、あそこ見て!」
和葉が指差した先。噴水広場のアスファルトを突き破り、赤黒い触手がのたうち回っていた。全長約12メートル。大型トラックと同等の質量を持つその触手は、逃げ惑う大人を無視し、小さな子供たちを正確に狙い定めて鎌首をもたげる。
「ひ、ひぃぃっ! な、なんだよあのデカい腕!」
「た、助けてください! コナン君、灰原さん!」
元太が腰を抜かし、光彦が震える声で叫ぶ。
「……ッ! こいつ、子供だけを狙ってやがるのか!?」
「せや……さっきから狙われとんのはガキばっかりや! 和葉、蘭の姉ちゃん! 園子ちゃんもや! 子供ら連れて早う逃げ! 建物の中や!」
平次が木刀を構える。その時、一本の触手が、驚異的な速さで歩美に向かって一直線にしなった。
「きゃあああ!!」
「歩美!」
間一髪、コナンが歩美を突き飛ばす。だが今度はコナンと灰原がターゲットとして認識された。
「……っ!」
灰原が息を呑む。彼女の足元に粘液を纏った触手が迫る。
「灰原、伏せろ! ……蘭姉ちゃん、みんなを連れて建物の中へ! 早く!」
「でも、コナン君は!?」
「僕は平次兄ちゃんと一緒に残る! 歩美ちゃんたちをお願い!蘭姉ちゃん!」
「アタシらもついてる! 蘭ちゃん、園子ちゃん! ここは男連中に任せて、ひとまず子供ら守ったって! 行くよアンタら!」
「わ、分かったわよ! ほら、ガキ共こっち来なさい! 離れるんじゃないわよ!」
園子が震える手で元太と光彦の襟首を掴み上げる。
「い、痛ぇよ! 放せよ園子姉ちゃん!」
「そうです、僕たちだって戦えます!」
「四の五の言わずに来なさい!」
震える足で園子が二人を促し、和葉が歩美を抱き上げる。蘭たちは子供たちを連れてセンターハウスへと走り出した。
その頃。阿笠邸の工作室。
圭人のスマホに、灰原からの緊急通信が繋がった。彼女が事前に仕込んでおいた、阿笠邸のサーバーを経由する特殊な通信回線だ。
「……! 志保さんか? もしもし!」
スピーカーから、爆発音と共に灰原の冷静だが緊迫した声が響く。
『星野君、聞こえる……? スカイランドが、紫色のバリヤーに閉じ込められたわ。電波も物理的な移動も遮断されている……』
「皆、無事か!? コナンたちは!」
『……工藤君なら今、服部君と一緒に囮になって時間を稼いでいるわ。地中から巨大な触手を持った怪獣が現れて……子供たちを捕食しようとしている。このままじゃ時間の問題よ。……悪いけど、お願いできるかしら?』
「分かった。……志保さん、そこを動くな。俺が今すぐぶち破りに行く!」
圭人は通信を切り、横にいた博士に叫んだ。
「博士! スカイランドだ。イチたちが閉じ込められた!」
「なんじゃと!? あのバリヤー、ワシのセンサーにも異常な高周波として検知されておる!」
「説明は後だ、博士! ビートルを出してくれ! 中の皆を救い出すには、まずこの壁をぶち破るしかない。試作の中和装置で行ける!?」
「ワシの計算が正しければ、逆位相の波をぶつければ一時的に結合を弱められるはずじゃ。だが、莫大な電力が必要になる!」
「ビートルのバッテリーを限界まで使おう! 俺が中和のポイントを見極める!」
数分後。ゲート前に滑り込むビートル。
圭人の瞳に、禍々しく発光する巨大なドームが映る。
「……!! ガギ……あいつ、やりたい放題しやがって……!」
(待ってろ、志保さん、皆……! 今すぐこのバリヤーを壊してやる!)
「……よし、セット完了じゃ! 圭人君、紋様の中心を狙うのじゃぞ!」
「了解、博士! 行くぞ!!」
装置から放たれた一撃がバリヤーを貫く。結合が瓦解し、巨大な亀裂が走った。
「壊れたぞ……! 行くぞ、博士!!」
光の塵となって霧散するバリヤー。
しかし、園内にいるコナンや平次、建物に逃げ込んだ蘭たちに、その事実はまだ伝わっていない。彼らの目に見えているのは、さらに地上へと這い出そうとする巨大な魔神――ガギの本体と、縦横無尽に暴れ狂う12メートル級の触手だけだった。
「……クソッ、きりがないぞ!」
コナンが伸縮サスペンダーを構え、迫る触手を辛うじて回避する。その背後には、恐怖で身を固くする灰原がいた。
センターハウスの窓越しにその光景を見ていた蘭が、悲鳴に近い声を上げる。
「コナン君! 服部君!」
「……ダメだ、このままじゃあいつら……!」
小五郎が拳を握りしめ、丸腰で飛び出そうとしたその時。
広場に立ち込める土煙を切り裂き、一台の黄色いビートルが、猛烈な排気音と共にゲートを突き抜けてきた。