ヒーローと探偵 作:タルマヨ
「待て、コナン! 無闇に突っ込むな!」
圭人が制止する間もなく、スカウト体の集団が機械的な無機質さで距離を詰め、元太たちに襲いかかる。
「離せよ、このデカブツ!」
元太が必死に抵抗するが、スカウト体の力は凄まじい。横から光彦が「元太君を放してください!」と体当たりを食らわせるが、金属の壁にぶつかったかのように弾き飛ばされてしまう。
「光彦君! 元太君!」
悲鳴を上げる歩美の背後にも、別の銀色の手が伸びる。
「……させねーよ!」
コナンがベルトのダイヤルを叩き、スイッチを押した。瞬時に膨れ上がったサッカーボールを、キック力増強シューズの最強出力で蹴り抜く。
「行っけぇ!」
放たれたボールは凄まじい電光を纏いながら、元太を掴んでいたスカウト体の胸部を直撃。強固な装甲をひしゃげさせ、敵を後方の壁まで吹き飛ばした。
「今のうちだ! オメーら、健一君を連れて走れ!」
コナンの怒号に、ようやく我に返った元太たちが健一を抱えるようにして駆け出す。
「追わせるかよ!」
圭人がその進路を塞ぐように、三体のスカウト体の間に割って入った。鋭い連撃を叩き込み、敵の注意を自分一人に引きつける。
「哀ちゃん! みんなを頼む!」
圭人が叫ぶと、灰原は一瞬だけ圭人の意図を察したように、強く頷いた。
「……ええ。無茶だけはしないで、星野君」
短く応じ、灰原はコナンを促して子供たちの後を追った。
圭人は一人、冷たい月の光が差し込む広場で、スカウト体の包囲網を見据える。
(……よし、これでいい)
圭人は身を翻し、完全に人目を遮る公会堂の資材置き場の死角へと飛び込んだ。
懐から取り出したスパークレンスが、圭人の決意に呼応して震える。
《もう、これ以上は好きにさせない!》
圭人がスパークレンスを掲げた瞬間、闇を切り裂くまばゆい光が溢れ出し、彼は
一方、公会堂から離れた公園。
「はぁ、はぁ……。ここまで来れば、大丈夫かしら……」
足を止めた灰原が、不気味に発光する公会堂を振り返る。
「……圭人お兄さんは!? 圭人お兄さんがまだあの中に!」
歩美が涙を浮かべて叫んだ。
「……。大丈夫だ、歩美ちゃん。あいつは……あいつなら、絶対になんとかしてくれる」
コナンは拳を固く握り、公会堂の空を見上げた。
その時、公会堂の窓という窓から、目を開けていられないほどの白い閃光が噴き出した。
「何だ!? 中で何が起きてるんだよ!」
元太が腕で顔を覆いながら叫ぶ。
公会堂内部。
光の速度で廊下を駆け抜けた圭人は、儀式の間へと突入していた。中央で脈動する金属球が、捕らえた町の人々の精神をデータとして吸収しようと、触手のようなエネルギー体を伸ばしている。
《そこまでだ!》
圭人が跳躍し、手刀から放たれた光の刃がエネルギーの触手を一閃した。
『ギギギ……侵入者……排除……』
金属球から発せられる不快な電子音とともに、室内のスカウト体が一斉に圭人へ飛びかかる。圭人はそれらを紙一重でかわしながら、正確な打撃で一体ずつ粉砕していく。
(人々を傷つけずに、この核だけを破壊する!)
圭人は精神を集中させ、右拳に光のエネルギーを収束させた。
《ハアッ!》
放たれた一撃が金属球の装甲を貫き、中核へと届く。瞬間、逆流した光のエネルギーが、データ化されかけていた人々の意識を強制的に肉体へと戻していく。
閃光とともに金属球は沈黙し、公会堂を覆っていた不気味な共鳴音が止んだ。
数分後。
公園で待機していたコナンたちの前に、肩で息をしながら圭人が姿を現した。
「圭人お兄さん!」
歩美が駆け寄る。
「……皆、無事か。公会堂の中にいた人たちも、もうすぐ目が覚めるはずだ。健一君のお父さんもな」
圭人の言葉に、健一の顔にようやく生気が戻った。
「本当……? お父さん、元に戻るの?」
「ああ。……あの中にいた『偽物』は、もういないよ」
圭人はコナンと灰原へ視線を送った。二人は言葉を交わさずとも、圭人が一人で何を成し遂げたのかを悟り、小さく頷き返した。
公会堂の重い扉が開き、意識を取り戻した大人たちが、ふらつきながら外へと出てきた。その中には、健一の父親の姿もあった。
「お父さん!」
健一が駆け寄り、その腰にしがみつく。父親は優しく健一の頭に手を置いた。
「……健一? 私は……何をしていたんだ?」
その光景を遠くから見守り、元太、光彦、歩美の三人は、安堵の溜息をつく。
「……良かった。健一君のお父さん、ちゃんと元に戻ったみたいだね」
歩美が微笑む。
「……圭人。中にはもう、何も残ってねーのか?」
コナンが周囲に聞こえない程度の小声で尋ねる。
「ああ。核を叩いた瞬間に自壊したよ。まるで、証拠を一つも残さないようにプログラムされていたみたいにな」
「……星野君、これを見て」
灰原が地面を指差す。そこには、一体のスカウト体が立っていた場所に、一握りの細かい銀色の砂だけが残されていた。
「ナノマシン。群体型の機械知性よ。今回の『侵略』は、ただの試験運用に過ぎなかった可能性があるわね」
圭人の表情が険しくなる。
《あいつらは、まだどこかに潜んでいるということか……》
「おい、圭人兄ちゃん! コナン! 灰原! 何やってんだよ、早く帰ってうな重食べようぜ!」
元太が元気よく手を振る。日常へと引き戻すその声に、圭人はわずかに表情を緩めた。
「……ああ、今行くよ」
平和を取り戻したはずの米花町。だが、夕闇に溶け込む街灯の影が、いつもより少しだけ深く見えた。