ヒーローと探偵 作:タルマヨ
銀砂の胎動(前編)
深夜の米花町を、一台の乗用車が滑るように走行していた。ハンドルを握るキャメルの表情は岩のように硬く、助手席に座るジョディは、手元のタブレット端末に映し出される解析結果を、信じられないものを見るような目で見つめていた。
「……信じられないわ。DNAも、血液反応も皆無だなんて」
ジョディが掠れた声で呟く。画面には、ベルウッドホテルの屋上で保護された給仕係の男——その体内から溢れ出した「銀色の砂」の拡大写真が映し出されていた。かつて人間であったはずの検体は、細胞の隅々までがこの無機質な結晶体に置換されている。
「ジョディさん、その……技術チームの最終的な結論は?」
キャメルがバックミラー越しに後部座席を伺う。そこには、暗闇の中で静かに目を閉じ、思考を巡らせるジェームズの姿があった。
「ええ。驚くべき結果よ、キャメル。この砂のような物質……その一つ一つが、ナノサイズの未知の寄生細胞だと判明したわ。しかも——」
ジョディが言葉を詰まらせ、後部座席のボスへと視線を送る。ジェームズがゆっくりと目を開いた。その眼光は、数多の凶悪事件を潜り抜けてきた彼ですら隠しきれない、本能的な戦慄に揺れている。
「私から説明しよう、ジョディ君。……キャメル、驚かずに聞いてくれ。その寄生細胞の組成は、現代科学が到達し得る代物ではなかった。地質学的なデータとの照合によれば、それは数万年前——超古代の地層に封印されていた、この地球の深淵に根ざす生命体だという結論に至った」
「数万年前……? 宇宙からの飛来物ではなく、この地球に、元からいたと仰るんですか、ボス」
キャメルの背筋に冷たいものが走る。自分たちが相手にしていたのは、新種のバイオテロなどではなく、眠りを解かれた古の「闇」そのものだったのだ。
「ああ。どうやら我々は、パンドラの箱を抉り開けてしまったらしい。……ジョディ君、至急、赤井君に連絡を。工藤邸にいる彼なら、この『古代の系譜』に何か心当たりがあるかもしれない」
ジェームズの指示に、ジョディは迷わずスマートフォンを取り出した。数回のコールの後、通信が繋がる。
「私よ、シュウ。……ええ、例の『銀色の砂』の解析が終わったわ。結論から言うけれど、これは私たちが考えていたような代物じゃないわ」
ジョディは、キャメルが運転する車の微かな振動を感じながら、通信の向こう側にいる男へ、戦慄すべき真実を一つずつ伝えていく。一通りの報告を終えた後、受話器の向こうから、低く、落ち着いた声が響いた。
『……古代の寄生生命体、か。やはり、そちら側の筋だったというわけか』
「シュウ? 何か知っているの?」
『確証はない。だが、この街で起きている事象の欠片が、ようやく一つの形を成し始めた……。ジョディ、そのデータは直ちにこちらへ転送しておいてくれ』
「わかったわ。……あ、それと、クールキッドや星野君にも伝えた方がいいかしら?」
『……ああ。ボウヤや彼には、私から直接話す。ちょうど、隣へ届ける予定のシチューが余っていてね』
赤井の言葉に、ジョディは少しだけ表情を和らげた。
「そう。わかったわ、シュウ。あちらの動きは任せるわね」
通話を終えたジョディが、深く息を吐き出す。
「シュウは、隣の阿笠邸へ向かうそうよ。あちらにいるクールキッドや星野君とも、この情報を共有する必要があると考えているみたい」
キャメルはアクセルを踏み込む足を無意識に強めた。背後に迫る見えない闇から逃れるように、車は夜の闇を切り裂いて加速していった。
◆
FBIからの戦慄すべき報告から一夜明けた、土曜日の昼下がり。
春の柔らかな日差しが降り注ぐ米花町二丁目の阿笠邸に、不意にインターホンの音が響いた。
「おや、昴君。どうしたんじゃ?」
玄関を開けた博士の前に、隣の工藤邸の住人、沖矢が鍋を手に立っていた。
「シチューを少し作りすぎてしまいましてね。宜しければ、皆さんで召し上がっていただけないかと思いまして」
「おお、それはありがたい。さあ、入ってくれ」
博士に招き入れられ、リビングに足を踏み入れた沖矢は、ソファに座っていた圭人と視線を合わせた。沖矢はいつものように目を細めた笑みを浮かべているが、その佇まいには、日常の隣人とは明らかに異なる鋭い気配が混じっていた。
「こんにちは、星野君。お邪魔しますよ」
「ああ……昴さん。いつもすみません」
圭人は立ち上がり、沖矢からずっしりと重い鍋を受け取った。その際、二人の間で言葉にならない緊張感が一瞬だけ走る。圭人は、目の前の男が「赤井」であることを知っており、沖矢もまた、この青年が「ティガ」の力を宿していることを確信に近い形で察していた。だが、二人がその核心に触れることはない。
キッチンへ鍋を運び終えた圭人がリビングに戻ると、沖矢は部屋をさりげなく見回していた。
「……おや。
「ああ、哀君なら、帝丹小学校の飼育当番でのぉ。歩美君たちと一緒に、学校の動物たちの世話をしに行っているんじゃよ」
博士の言葉に、沖矢は「そうですか」と短く応じた。
「実は博士。……コナン君にも、少々シチューを分けてあげたいと思いましてね」
「そうか。それなら、ちょうど毛利君のところにいるはずじゃ。ワシからコナン君に、今すぐ戻るよう連絡を入れよう」
博士がスマートフォンを手に取ろうとした時、圭人がそれを静かに制した。
「博士、コナンには俺から連絡しておくよ。……ただ、哀ちゃんには連絡しなくていいから。せっかく学校で子供達といるんだ、わざわざ呼び戻して騒ぎにする必要もないだろ」
圭人は、沖矢から漂う微かな「黒い気配」を敏感に感じ取っていた。それを灰原に浴びせたくないという直感が、理由を後付けさせていた。
「ああ、それもそうじゃな。哀君はああ見えて責任感が強いから、中途半端に呼び出すと逆に心配させてしまうかもしれん」
博士が納得したのを見届け、圭人はコナンへ手短にメッセージを送った。
数分後、毛利探偵事務所から駆けつけたコナンが阿笠邸のドアを勢いよく開けた。リビングに揃った面々と、沖矢の纏う空気を察したコナンは、表情を険しくして歩み寄る。
「……赤井さん。何か動きがあったの?」
コナンはソファの前に立ち、真っ直ぐに沖矢を見据えた。それに応じるように、沖矢は首元を覆うハイネックの襟元に指をかけた。チョーカー型変声機のスイッチを切る、無機質なクリック音。
次の瞬間、リビングに響いたのは、穏やかな大学院生のそれではない。低く、地を這うような鋭い「赤井」の本物の声だった。
「待たせたな、ボウヤ。……そして星野君。座ってくれ。昨夜、FBIから戦慄すべき報告が入った」
赤井の声に切り替わった瞬間、室内の温度が数度下がったかのような錯覚を覚える。赤井自身もソファの一角に腰を下ろし、冷徹な捜査官の眼差しで二人を見据えた。促されるように、コナンも圭人の隣に腰を下ろす。
中央に置かれたローテーブルを囲み、四人の視線が交差した。
「例の『銀色の砂』の解析が終わった。……結論から言う。あれは、我々が当初推測していたような生物兵器の類ではない」
赤井は一呼吸置き、最悪の事実を口にした。
「数万年前、この地球の深淵に封印されていた——古代の寄生生命体だ。今、それが目覚めようとしている」
「古代の寄生生命体……?」
コナンの呟きが、重苦しくリビングに響く。赤井は手元のタブレットをローテーブルの中央へ滑らせた。画面には、電子顕微鏡が捉えた、脈動する銀色のナノ細胞と、それが宿主のDNAを強引に書き換えていくシミュレーション映像が映し出されている。
「ああ。FBIの技術チームが導き出した結論は、現代の科学を嘲笑うようなものだった。この砂の粒子一つ一つが、宿主の細胞組織を糧にして増殖し、数万年前……人類が文明を築く以前の地球を支配していた『原始の闇』そのものへと変異させる触媒だという」
赤井は淡々と、だが一切の容赦なく事実を告げる。
「ただの擬態や置換じゃない。これは、生命そのものを根底から作り変える『侵食』だ。取り込まれた者は、もはや人間としての形を保つことすら許されん。……この映像を見てくれ」
赤井が画面を操作すると、砂に侵された細胞が、元の塩基配列を無視して異形の構造へと組み変わっていく様が映し出された。
「そんな馬鹿な……。数万年前の生命体が、今の今まで眠っていたというのかい、赤井君。それが事実なら、既存の生物学では説明がつかん。世界中の生態系が崩壊してしまうぞ!」
博士が震える手で茶わんを置き、食い入るように画面を見つめる。
「博士、理屈じゃないんだ。現実にベルウッドホテルで、あの『砂』を吐き出しながら霧散した男を俺達は見てる。あいつは、その『闇』の先兵……あるいは、適合に失敗した成れの果てだったってことだよ」
コナンが鋭い眼差しでタブレットの画面を見つめる。その隣で、圭人は自身の内に流れる力を静かに感じ取っていた。かつてこの星を守っていた光と、その対極にある滅びの闇。数万年前の戦いの記憶が、血脈を通じて警鐘を鳴らしている。
「……赤井さん。その寄生体は、今この瞬間も誰かを狙っているということですか? もし、その砂が街中に撒かれたら……」
圭人が赤井を真っ直ぐに見据えて問う。赤井はその真剣な眼差しを正面から受け止めた。
「ああ。奴らはただ無差別に襲っているわけではない。より強固な肉体、より高い知性を持つ『核』となる宿主を求めている形跡がある。星野君、君やボウヤのような特異な存在は、奴らにとって格好の標的になる可能性がある。……それだけではない。一度『変異』を完了した個体は、周囲の人間を効率よく狩るための擬態能力まで備える」
「……透明な侵略者ってわけか。最悪だな」
コナンが顔を顰めたその時、背後で点け放たれていたテレビの音声が、激しいノイズと共に切り替わった。
『……番組の途中ですが、緊急ニュースをお伝えします! 現在、米花水族館で正体不明の集団暴行事件、およびパニックが発生しています! 現場は極めて混乱しており……!』
アナウンサーの悲鳴に近い声に、全員の視線が画面へ釘付けにされた。
画面には、上空からのヘリ映像が映し出されている。閉館間際の米花水族館の広場は、逃げ惑う群衆で地獄絵図と化していた。
「あ、アイツ……!」
コナンの指差す先、カメラのピントが合った広場の中央で、様子のおかしい男に数人の警備員たちが囲まれている。だが、その男の動きは明らかに人間のものではない。皮膚の下で何かが蠢き、鈍い銀色の輝きが全身を覆っていく。
次の瞬間、警備員を掴んだ男の背中が割れ、そこから鋭い骨……ではなく、黒光りする硬質の甲殻と、アリの脚を思わせる鋭利な刺が突き出した。侵食を完了し、不気味な複眼を持つ「アリ型の異形(亜人ゾルブ)」の本性を現した姿だった。警備員は悲鳴を上げる間もなく、その昆虫のような異形の手によって一瞬で「銀色の砂」へと変えられ、霧散していった。
『う、うわあああ! なんだ、あの怪物は!? 来るな! こっちに来るな!!』
中継スタッフの絶叫と共に、映像が激しく乱れ、画面は砂嵐へと変わった。
「……始まったようだな」
赤井が静かに立ち上がる。その瞳には、すでに戦場の冷徹さが宿っていた。
「ワシの……ワシの発明品が少しでも役に立てばええんじゃが……! 二人とも、すぐに準備をするんじゃ!」
博士が狼狽しながらも、自分にできることを探そうと立ち上がる。圭人はその肩に手を置き、力強く頷いた。
「博士、後は任せて。……昴さん、俺達も行きましょう」
「ああ、承知している。……ボウヤ、準備はいいか?」
赤井の問いに対し、コナンはスケボーのホイールを一つ弾き、鋭い眼差しで玄関へと視線を向けた。圭人もまた、懐にあるスパークレンスの確かな感触を指先に刻む。
もはや言葉を交わす必要はなかった。二人は弾かれたように阿笠邸を飛び出し、地獄へと変貌しつつある米花水族館へと走り出した。
◆
穏やかな春の日差しが降り注ぐ土曜日の昼下がり。米花水族館広場の静謐は、一瞬にして凍りついた。
広場の中央で、一人の男が糸の切れた人形のように膝をついた。周囲の観客が声をかけようとした、その時だ。男の背中が内側から弾けるように割れ、肉を裂く嫌な音と共に、鈍く黒光りする甲殻が溢れ出した。
数秒後、そこには「人間」だった面影を辛うじて残す、身長180cmほどのヒューマノイドが立っていた。全身を覆うのは、アリの脚を思わせる鋭利な刺が幾本も突き出した硬質な外殻。だが、その佇まいは野蛮な獣ではなく、どこか冷徹な戦士を思わせる静謐さを纏っている。
「……脆いな。この時代の種も」
亜人ゾルブの口から漏れたのは、低く、重苦しく響く明確な言語だった。その複眼が、腰を抜かして動けない女性を捉える。
「……あ、あああ……」
悲鳴すら上げられない女性の指先に、ゾルブがゆっくりと手を伸ばす。その指先が触れた瞬間、女性の身体は指先から音もなく結晶化し、重力に従ってさらさらと足元へ崩れ落ちていった。
狂乱の叫びが上がったのは、その直後だった。
「怪物だ! 怪物が出たぞ!!」
一人が叫ぶと、広場は一気にパニックの渦へと叩き落とされた。人々は我先にと出口へ向かって走り出し、転んだ子供を親が必死に抱え上げる。だが、ゾルブは逃げ惑う群衆を逃がしはしない。
「逃げ惑うがいい。それが、かつてこの星を支配していた『闇』への、唯一の供物だ」
ゾルブが背中の刺を鞭のようにしならせ、空を薙ぐ。刺が触れるたび、犠牲者たちは絶叫を上げる間もなく銀色の砂へと変えられ、風に舞った。血の一滴すら流れない。ただ、物理法則を無視した侵食だけが、白日の下で無慈悲に繰り返されていく。
広場のあちこちに、持ち主を失った衣類と、その上に積み上がる「銀砂」の山。本来なら市民を守るべき盾となるはずの警察のサイレンは、まだ遥か遠く、街の喧騒に紛れて届かない。
助けを呼ぶ声は粉砕された通信機と共に消え、広場にはゾルブがタイルを踏み砕く重い足音と、獲物を品定めするように大顎を軋ませる、不気味な接触音だけが支配していた。
「……抵抗すら忘れたか。家畜の方が、まだ抗う術を知っている」
ゾルブの複眼が、植え込みの陰で震える親子を捉えた。一歩、また一歩とタイルを踏み砕きながら歩み寄る。その足音は一定のリズムを刻み、逃げ場のない死のカウントダウンのように広場に響く。
「……やめて、来ないで……!」
母親が子供を抱きしめ、枯れた声を絞り出す。ゾルブは無機質な大顎をわずかに震わせると、背中から生えた鋭利な刺をゆっくりと持ち上げた。
「……嘆く必要はない。お前たちも、等しく不朽の糧となるのだからな」
刺が振り下ろされようとしたその瞬間、遠くから空気を切り裂くサイレンの音が、急速に密度を増して近づいてきた。
「止まれ! 警視庁だッ!!」
広場の入り口に、数台のパトカーが猛スピードで滑り込み、タイヤの焦げる臭いを撒き散らして急停車した。
車を飛び出したのは、目暮、高木、佐藤ら捜査一課の面々。彼らが真っ先に目にしたのは、衣類だけが虚しく残された無数の「砂の山」と、その中心に立つ、見たこともない異形の影だった。
「……なんだ。あいつは一体……何なんだ……!?」
目暮が絶句する。現場に立ち込めるのは、血の臭いではない。何かが徹底的に分解された後に残る、無機質な金属臭。高木は銃を構える手さえ震え、目の前の光景を脳が拒絶していた。
「警部……! あれを見てください、あの砂……全部、人だったものじゃ……!」
佐藤の鋭い指摘に、目暮は奥歯を噛み締めた。ゾルブは警察の介入を気にする様子もなく、ゆっくりと首を巡らせて新手の「獲物」たちを値踏みする。
「……群れて現れたか。だが、その鉄の礫で、私を止められると思っているのか?」
ゾルブの冷徹な挑発が、静まり返った広場に響き渡る。目暮は震える声を押し殺し、決死の覚悟で拳銃の銃口を異形へと向けた。
「撃てッ! 一般人を避難させる隙を作るんだ! 全員、撃ち続けろ!!」
目暮の号令と共に、広場に乾いた銃声が連続して轟いた。
放たれた数多の弾丸は、正確に亜人ゾルブの胸部や頭部を捉えたはずだった。しかし、それらはゾルブの黒光りする硬質の甲殻を叩いては、虚しく火花を散らしてアスファルトに転がる。180cmほどのヒューマノイド体型を持つその異形は、眉一つ動かさず、ただ静かに弾丸の嵐をその身に受けていた。
「……愚かな。鉄の礫で、神の理を阻もうというのか」
ゾルブの複眼が、鈍い銀色の光を宿して目暮を見据える。その背中から生えた鋭利な刺が、一瞬、生き物のように蠢いた。
「警部、効いてません! まるで……!」
高木が悲鳴に近い声を上げる中、ゾルブは弾丸を跳ね返しながら、一歩、また一歩と警察の包囲網へ向かって歩を進める。その度に、タイルの砕ける重い音が死の足音のように広場に響き渡った。
警察の弾薬が尽きかけ、絶望が目暮たちの表情を支配しようとしたその時だった。
広場の入り口を封鎖するように、数台の漆黒の特殊装甲車がタイヤを鳴らして滑り込んできた。警察の無線を傍受していたのか、あるいは最初からこの場所を予見していたのか。車体に刻まれたのは、怪物対策室——MDRの紋章。
装甲車から降り立ったのは、紺色のスーツを隙なく着こなしたボブカットの女、一条恵美だった。彼女は混乱を極める目暮の前に歩み寄ると、立ち止まって懃懃に一礼した。
「……警視庁警備局、怪物対策室の一条です。目暮警部、ご苦労様です。ここからの指揮権は、当方に委託していただきます。一般人の誘導はそちらで」
かつての黒崎のような高圧的な指揮権奪取ではない。しかし、一条の言葉には一切の反論を許さぬ、底知れない冷徹さが宿っていた。彼女の視線は、目暮を見ることもなく、ただ一点、大顎を軋ませるゾルブの構造だけを冷徹に射抜いている。
「総員、展開。人命の保護と並行し、検体の完全確保に移行しなさい」
一条の静かな号令と共に、高度な訓練を受けた隊員たちが一斉に散開し、対怪物用に特化された高出力の麻酔銃、そして空気をも焦がす特殊熱線兵器のセーフティを解除した。
その光景を、ようやく現場付近に辿り着いたコナン、圭人、博士の3人が、駐車場側の規制線の向こうから厳しい表情で見つめていた。広場を占拠する漆黒の布陣と、初めて見る指揮官・一条恵美。
「……またあいつらか。あの女、何者だ?」
コナンが忌々しげに吐き捨てる。圭人は黙したまま、その地獄に等しい惨状と、組織の布陣を静かに瞳に焼き付けていた。
一方、広場を見下ろす時計塔の高所。赤井秀一はすでに狙撃ポイントを確保し、スコープ越しにこの全容を捉えていた。彼はFBIの通信で得た情報を反芻しながら、新責任者・一条の手腕、そしてMDRの武装が未知のゾルブにどこまで通用するのかを、冷徹に見定めていた。