## 墜ちる星
星の海は、断末魔の悲鳴で満ちていた。
軌道学園都市クレイドル。
子供たちの「家」であり、管理された「牢獄」でもあった巨大なリングは、無惨に引き裂かれていた。
アラクネの侵蝕と内部爆発により、第3プラントを含むブロックが崩落。重力に引かれ、巨大な墓標となって大気圏へと沈んでいく。
『こちら救助班! 第3区画の生存者、応答せよ!』
『ダメだ、高度維持できない! 居住区が落ちるぞ!』
『生存反応なし! ……くそっ、これじゃ全滅だ!』
飛び交う怒号と、ノイズ混じりの通信。
無数のデブリがダイヤモンドダストのように輝く中、ボロボロになったモリビトが一機、力なく漂っていた。
ワタルは意識を失っていた。
ひどい顔だった。
右目からは血の涙が流れ、苦悶の表情で固まっている。まるで悪鬼のようだ。
だが、その左腕だけは、まだしっかりとナギを抱きしめていた。
「う……ん……」
ナギが薄く目を開けた。
目の前には、自分を守って変わり果てた少年の顔があった。
血まみれで、かわいそうだった。
生きている。
わずかに息はしている。
大丈夫だろうか。
「ワタル……?」
返事はない。
ナギは、血で汚れた彼の頬に、自身の額を押し当てた。
手ですることさえ、もう彼女には許されていない。
失われた腕の代わりに、ただ体温だけを伝えようとするように。
温かい。けれど、痛々しいほどに熱い。
涙が溢れてきた。
「……ごめんね、……ごめんね」
ナギは泣きながら、動かないワタルの身体に顔を埋めた。
「わたしが……わたしのせいで……っ!」
その時だ。
ワタルの左腕が、ビクリと反応し、ギュッと彼女を抱きしめた。
気絶しているはずなのに。
意識なんてないはずなのに。
「……す、な」
ナギは息を呑んだ。
かすれた声が、唇からこぼれ落ちる。
「はな……すな……」
ワタルは夢の中でもなお、彼女を守ろうとしていた。
拒絶されても、ボロボロになっても、この手だけは放すつもりはなかった。
「…………っ!」
ナギはしゃくりあげ、震えた。
首を左右に振っているのか、ワタルの身体に頬をこすりつけようとしているのか。ただ、嗚咽した。
ふと、無線《ノイズ》が途絶えた。
救助班の声も、警報音も消え、真空の静寂だけが降りてきた。
代わりに、機体の底から、ゴォォォォ……という胎動のような重低音が響き始めた。
大気圏突入の摩擦音だ。
窓の外、漆黒の宇宙が、血のような紅蓮に染まり始めていた。
それは、あの夜、プールの底から二人で見上げた地球の輝きと同じ色だった。
「————あ」
ナギが、うわ言のように漏らした。
0.1Gの羊水。
この鉄の棺桶は、二人を包む揺り籠となり、燃え盛る火の海《ファイア・オーシャン》へと堕ちていく。
どこまでも深く、どこまでも赤く。
あの日の、プールの底へ。
(つづく)