Fire Ocean 大気圏焼却戦域   作:ウソカラマコト

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11 墜ちる星

## 墜ちる星

 

 

 星の海は、断末魔の悲鳴で満ちていた。

 

 軌道学園都市クレイドル。  

 子供たちの「家」であり、管理された「牢獄」でもあった巨大なリングは、無惨に引き裂かれていた。  

 アラクネの侵蝕と内部爆発により、第3プラントを含むブロックが崩落。重力に引かれ、巨大な墓標となって大気圏へと沈んでいく。

 

『こちら救助班! 第3区画の生存者、応答せよ!』

『ダメだ、高度維持できない! 居住区が落ちるぞ!』

『生存反応なし! ……くそっ、これじゃ全滅だ!』

 

 飛び交う怒号と、ノイズ混じりの通信。  

 無数のデブリがダイヤモンドダストのように輝く中、ボロボロになったモリビトが一機、力なく漂っていた。

 

 ワタルは意識を失っていた。

 ひどい顔だった。

 右目からは血の涙が流れ、苦悶の表情で固まっている。まるで悪鬼のようだ。

 だが、その左腕だけは、まだしっかりとナギを抱きしめていた。

 

「う……ん……」

 

 ナギが薄く目を開けた。

 目の前には、自分を守って変わり果てた少年の顔があった。

 血まみれで、かわいそうだった。

 生きている。

 わずかに息はしている。

 大丈夫だろうか。

 

「ワタル……?」

 

 返事はない。

 ナギは、血で汚れた彼の頬に、自身の額を押し当てた。

 手ですることさえ、もう彼女には許されていない。

 失われた腕の代わりに、ただ体温だけを伝えようとするように。

 温かい。けれど、痛々しいほどに熱い。

 涙が溢れてきた。

 

「……ごめんね、……ごめんね」

 

 ナギは泣きながら、動かないワタルの身体に顔を埋めた。

 

「わたしが……わたしのせいで……っ!」

 

 その時だ。 

 ワタルの左腕が、ビクリと反応し、ギュッと彼女を抱きしめた。

 気絶しているはずなのに。

 意識なんてないはずなのに。

 

「……す、な」

 

 ナギは息を呑んだ。

 かすれた声が、唇からこぼれ落ちる。

 

「はな……すな……」

 

 ワタルは夢の中でもなお、彼女を守ろうとしていた。

 拒絶されても、ボロボロになっても、この手だけは放すつもりはなかった。

 

「…………っ!」

 

 ナギはしゃくりあげ、震えた。

 首を左右に振っているのか、ワタルの身体に頬をこすりつけようとしているのか。ただ、嗚咽した。

 

 ふと、無線《ノイズ》が途絶えた。

 救助班の声も、警報音も消え、真空の静寂だけが降りてきた。

 

 代わりに、機体の底から、ゴォォォォ……という胎動のような重低音が響き始めた。

 大気圏突入の摩擦音だ。

 

 窓の外、漆黒の宇宙が、血のような紅蓮に染まり始めていた。

 それは、あの夜、プールの底から二人で見上げた地球の輝きと同じ色だった。

 

「————あ」

 

 ナギが、うわ言のように漏らした。

 

 0.1Gの羊水。

 

 この鉄の棺桶は、二人を包む揺り籠となり、燃え盛る火の海《ファイア・オーシャン》へと堕ちていく。

 どこまでも深く、どこまでも赤く。

 あの日の、プールの底へ。

 

 

(つづく)

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