マイペースとギャル   作:5734589

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お昼休み

昼休みの教室は、騒がしさが均一だ。笑い声も、愚痴も、机を叩く音も、全部が同じ高さで漂っている。誰かの声だけが際立つことは、あまりない。

 

 りりは窓側の席で、弁当箱を開けていた。派手な髪色は陽に当たって明るいが、本人の動きは少ない。背筋を伸ばしたまま、箸を運ぶ。周囲と話す様子はない。

 

 少し離れた席で、マコトがパンを食べている。黒髪で、表情は薄い。最初の頃と同じように見えるが、変わったことが一つだけあった。りりが近くにいることを、もう気にしなくなっている。

 

 女子が数人で集まって、スマホを覗き込んでいた。

「これ見て、やばくない?」

「最悪なんだけど」

 

 マコトはパンの袋を畳みながら、ぼそっと言う。

「でもそれ、昨日よりマシじゃない?」

 

 誰も拾わない。

 けれど今回は、りりが反応した。

 

「マコトさ」

 

 名前を呼ばれても、マコトは驚かない。視線を上げて、

「なに」

 

 もう敬語は使わない。

 

「今の、どういう意味」

 

「字面のわりに炎上してないって意味」

 少し考えてから、

「というか、騒ぐほどでもなくない?」

 

「ふーん」

 

 りりはそれだけ言って、マコトの机に肘をついた。距離は近いが、触れない。前なら緊張していた距離だが、マコトはパンの袋を丸めてゴミ箱に投げただけだった。

 

「りりってさ」

 

「なに」

 

「派手なくせに、騒がしいの嫌いだよね」

 

 言い方は率直で、遠慮がない。

 りりは少しだけ目を細めた。

 

「別に」

 

「別に、って顔じゃない」

 

「マコトも、人のことよく見てる割に黙ってるよね」

 

「喋ると浮くから」

 

「今は?」

 

「今は……まあ、浮いてもいい」

 

 マコトはそう言って、肩をすくめた。以前なら言わなかった言葉だ。

 

 沈黙が落ちる。

 でも、それは気まずいものではない。周囲の雑音が、二人の間を勝手に埋めてくれる。

 

 りりが弁当箱を閉じる。

「ねえ」

 

「なに」

 

「さっきのズレ方、ちょっと雑だった」

 

「そう?」

 

「もう少し丁寧に言えば、みんな分かったかも」

 

 マコトは一瞬考えてから、

「でも、別に分かってもらわなくてよくない?」

 

 その言い方は、少しだけ棘があった。

 りりはそれを不快に思うでもなく、

「確かに」

とだけ返した。

 

 チャイムが鳴る。

 

 りりは立ち上がりながら、

「じゃ、また気になったら話しかけるわ」

と言う。

 

「はいはい」

 

 軽い返事。最初の頃の緊張はもうない。

 

 りりが席に戻ったあと、マコトは教科書を取り出しながら思う。

 このギャルは、優しくない。

 でも、勝手にいなくならない。

 

 雑に扱っても、離れない。

 だから、こちらも遠慮しなくていい。

 

 昼休みのざわめきの中で、二人の距離は、少しずつ、雑に、確かに縮んでいた。

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