昼休みの教室は、騒がしさが均一だ。笑い声も、愚痴も、机を叩く音も、全部が同じ高さで漂っている。誰かの声だけが際立つことは、あまりない。
りりは窓側の席で、弁当箱を開けていた。派手な髪色は陽に当たって明るいが、本人の動きは少ない。背筋を伸ばしたまま、箸を運ぶ。周囲と話す様子はない。
少し離れた席で、マコトがパンを食べている。黒髪で、表情は薄い。最初の頃と同じように見えるが、変わったことが一つだけあった。りりが近くにいることを、もう気にしなくなっている。
女子が数人で集まって、スマホを覗き込んでいた。
「これ見て、やばくない?」
「最悪なんだけど」
マコトはパンの袋を畳みながら、ぼそっと言う。
「でもそれ、昨日よりマシじゃない?」
誰も拾わない。
けれど今回は、りりが反応した。
「マコトさ」
名前を呼ばれても、マコトは驚かない。視線を上げて、
「なに」
もう敬語は使わない。
「今の、どういう意味」
「字面のわりに炎上してないって意味」
少し考えてから、
「というか、騒ぐほどでもなくない?」
「ふーん」
りりはそれだけ言って、マコトの机に肘をついた。距離は近いが、触れない。前なら緊張していた距離だが、マコトはパンの袋を丸めてゴミ箱に投げただけだった。
「りりってさ」
「なに」
「派手なくせに、騒がしいの嫌いだよね」
言い方は率直で、遠慮がない。
りりは少しだけ目を細めた。
「別に」
「別に、って顔じゃない」
「マコトも、人のことよく見てる割に黙ってるよね」
「喋ると浮くから」
「今は?」
「今は……まあ、浮いてもいい」
マコトはそう言って、肩をすくめた。以前なら言わなかった言葉だ。
沈黙が落ちる。
でも、それは気まずいものではない。周囲の雑音が、二人の間を勝手に埋めてくれる。
りりが弁当箱を閉じる。
「ねえ」
「なに」
「さっきのズレ方、ちょっと雑だった」
「そう?」
「もう少し丁寧に言えば、みんな分かったかも」
マコトは一瞬考えてから、
「でも、別に分かってもらわなくてよくない?」
その言い方は、少しだけ棘があった。
りりはそれを不快に思うでもなく、
「確かに」
とだけ返した。
チャイムが鳴る。
りりは立ち上がりながら、
「じゃ、また気になったら話しかけるわ」
と言う。
「はいはい」
軽い返事。最初の頃の緊張はもうない。
りりが席に戻ったあと、マコトは教科書を取り出しながら思う。
このギャルは、優しくない。
でも、勝手にいなくならない。
雑に扱っても、離れない。
だから、こちらも遠慮しなくていい。
昼休みのざわめきの中で、二人の距離は、少しずつ、雑に、確かに縮んでいた。