マイペースとギャル   作:5734589

10 / 34
変わるのが、ちょっと面倒なだけ

 席替えの日は、朝から教室の空気が落ち着かない。

 机の配置は同じなのに、人の気配だけが変わっている。

 

「席替えするって」

 

 りりが言う。

 

「知ってる」

 

 マコトは黒板を見たまま答えた。

 

「嫌?」

 

「どっちでも」

 

「それ、嫌寄りじゃない?」

 

「変わるのが、ちょっと面倒なだけ」

 

「正直」

 

 担任がくじの箱を持って入ってくる。

 名前が呼ばれて、番号が決まっていく。

 

 りりは前の方。

 マコトは少し後ろ。

 

「……遠くない?」

 

 りりが小さく言う。

 

「教室内だよ」

 

「そうだけど」

 

 くじが進むたびに、周りが騒ぐ。

 誰と隣か、窓側か廊下側か。小さいことで盛り上がる。

 

「次、マコト」

 

 名前を呼ばれて、マコトが前に出る。

 紙を引いて、少しだけ間が空く。

 

「……二列目、廊下側」

 

 りりの席と、斜め後ろ。

 触れないけど、見える距離。

 

「近」

 

 りりが言う。

 

「近いね」

 

「運いいじゃん」

 

「りりが?」

 

「わたしが」

 

 机を運ぶ音が教室に広がる。

 配置が変わって、景色も変わる。

 

 マコトは新しい席に座って、前を見る。

 りりの後ろ姿がある。

 

 振り向けば、目が合う距離。

 

「ねえ」

 

 りりが振り返る。

 

「なに、マコト」

 

「前、見えづらくない?」

 

「マコトが小さい字書かなければ」

 

「努力する」

 

「嘘」

 

「ばれる?」

 

「顔」

 

 少し笑う。

 声は出さない。

 

 授業が始まる。

 先生の声と、チョークの音。

 

 マコトはノートを取りながら、時々前を見る。

 りりはちゃんと前を向いている。サボらない。

 

 休み時間。

 

「席、どう?」

 

 りりが聞く。

 

「悪くない」

 

「即答じゃないのに?」

 

「慣れた」

 

「それ好きだね」

 

「便利」

 

「確かに」

 

 後ろから、誰かが言う。

「りり、マコトと近いじゃん」

 

「うん」

 

「仲良いよね」

 

「普通」

 

 マコトは、その会話を聞いているけど、口を出さない。

 

「マコト」

 

 りりが振り返る。

 

「なに」

 

「席、替えてほしかった?」

 

「……どっちでもって言った」

 

「今は?」

 

 少しだけ考える。

 

「今は、これでいい」

 

「そっか」

 

 りりはそれ以上聞かない。

 満足したみたいに前を向く。

 

 チャイムが鳴る。

 授業が再開する。

 

 席は変わった。

 でも、距離は変わっていない。

 

 名前を呼べば届くし、

 振り向けば、ちゃんといる。

 

 それで十分だと、

 二人とも、もう知っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

後ろの席。

 

 窓側。

 学級委員。

 

 真面目。

 眼鏡。

 提出物は三日前に出すタイプ。

 

(……今日も近い)

 

 前の席。

 りりとまこと。

 

「ねえ」

 

 りりが身を乗り出す。

 

「この問題」

 

「わたし」

 

「意味わかんない」

 

「ここ」

 

 まことがノートをずらす。

 

「それは」

 

「前提が違う」

 

「えー」

 

「説明して」

 

「……仕方ない」

 

 距離。

 

 肩が、触れるか触れないか。

 

(触れてない……触れてないけど……!)

 

 学級委員、ペンを握りしめる。

 

(この距離感……)

 

(百合……)

 

(いや)

 

(公式には友情)

 

(でも)

 

 りりが小声で笑う。

 

「マコト」

 

「真面目すぎ」

 

「そういうとこ好き」

 

 まこと、一瞬止まる。

 

「……今の」

 

「軽率」

 

「軽率じゃん」

 

「本音」

 

(今のは)

 

(今のは)

 

(告白では???)

 

 学級委員、視線をノートに落とす。

 

(違う)

 

(落ち着け)

 

(幻覚を見てはいけない)

 

 消しゴムが落ちる。

 

「あ」

 

 りり。

 

 同時に、まことも手を伸ばす。

 

 指が触れる。

 

 一瞬。

 

 二人、固まる。

 

「……」

 

「……」

 

 りりが先に言う。

 

「ごめん」

 

「わたし取る」

 

「……どうぞ」

 

 学級委員、深呼吸。

 

(今の)

 

(今の間)

 

(何)

 

(空気が)

 

(甘い)

 

 チャイム。

 

「昼だー!」

 

 りりが立ち上がる。

 

「マコト」

 

「一緒行こ」

 

「うん」

 

 二人、並んで出ていく。

 

 背中。

 

 自然。

 

(……ああ)

 

 学級委員は思う。

 

(これは)

 

(完成形)

 

(未成立なのに完成してる百合)

 

(供給過多)

 

 ノートの端。

 

 小さく書く。

 

「※前席尊いので集中できません」

 

 線を引いて消す。

 

(だめ)

 

(これは)

 

(心の中だけで)

 

 でも。

 

 明日も、

 明後日も、

 その後ろの席で、

 

 彼女はきっと、

 何度でも静かに確信する。

 

(やっぱり)

 

(好き同士だよね?)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。