マイペースとギャル   作:5734589

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秋のある一日

 秋の空気は、校舎の中まで入り込んでくる。

 文化祭の日の朝、廊下はすでに匂いが混ざっていた。焼きそば、甘いもの、段ボールと絵の具。

 

 りりはクラスの教室で、看板の前に立っている。

 エプロンを腰に巻いて、腕を組んでいた。

 

「これ、曲がってない?」

 

「曲がってる」

 

 マコトが即答する。

 

「直す?」

 

「直さないと気持ち悪い」

 

「だよね」

 

 二人で脚立を動かす。

 誰かが写真を撮って、誰かが呼びかける声が飛ぶ。

 

「りり、接客入れる?」

 

「あとで」

 

「マコトは?」

 

「裏」

 

「裏似合う」

 

「よく言われる」

 

 準備がひと段落して、開場のアナウンスが流れる。

 

 人が入ってくる。

 クラスの出し物は、無難なやつだ。だからこそ、忙しい。

 

「いらっしゃいませー」

 

 りりの声は、少しだけ明るい。

 でも盛りすぎない。

 

 マコトは裏で会計をしている。

 お金を数えて、袋を渡す。正確で静か。

 

「マコト」

 

「なに」

 

「小銭足りる?」

 

「今は大丈夫」

 

「ならいい」

 

 昼過ぎ、交代で回る時間になる。

 

「一周する?」

 

 りりが聞く。

 

「行く」

 

 廊下は、朝より騒がしい。

 知らない学校の人、他クラスの友だち、全部が行き交う。

 

「どこ行く」

 

「決めてない」

 

「文化祭なのに」

 

「だから」

 

 展示室に入る。

 よく分からない研究発表。文字が多い。

 

「読む?」

 

「流す」

 

「同意」

 

 次はお化け屋敷。

 入口で止まる。

 

「入る?」

 

「……りりが行くなら」

 

「怖い?」

 

「苦手」

 

「じゃあやめよ」

 

「いいの?」

 

「無理させる理由ない」

 

 屋外に出る。

 風が少し冷たい。

 

「マコトさ」

 

「なに」

 

「文化祭、楽しい?」

 

 少しだけ間ができる。

 

「……忙しいのは、嫌いじゃない」

 

「楽しいとは言わないんだ」

 

「言わなくても、来てる」

 

「それ、あたしの言い方」

 

「学習した」

 

 ベンチに座る。

 紙コップの飲み物を分け合う。

 

「これ、微妙」

 

「文化祭の味」

 

「思い出補正込み」

 

「込みすぎ」

 

 ステージの方から音楽が聞こえる。

 歓声が上がる。

 

「見に行く?」

 

「遠くからでいい」

 

「同意」

 

 二人は動かない。

 でも、音はちゃんと聞いている。

 

 夕方が近づく。

 片付けの時間。

 

 教室に戻って、装飾を外す。

 朝より静かだ。

 

「終わったね」

 

 りりが言う。

 

「終わった」

 

「早かった」

 

「気づいたら」

 

 ゴミ袋をまとめて、外に出る。

 

 空は、秋の色をしている。

 

「ねえ、マコト」

 

「なに」

 

「文化祭の思い出ってさ」

 

「うん」

 

「派手なのじゃなくてもいいよね」

 

「むしろ、そっちが残る」

 

「だよね」

 

 校門の前で立ち止まる。

 

「また来年も」

 

 りりが言いかけて、止める。

 

「……うん」

 

 マコトはそれだけ返した。

 

 文化祭は特別な日だったはずなのに、

 二人に残ったのは、

 一緒に忙しかった時間と、

 名前を呼び合った回数だけだった。

 

 秋は、そういうものを、

 ちゃんと残していく。

 

 

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