マイペースとギャル   作:5734589

12 / 34
秋のある一日2

 文化祭の打ち上げは、駅前のファミレスだった。

 夜で、週末で、人が多い。テーブルをくっつけて、りりの友達たちとりり、そこにマコトがいる。

 

「つかさ〜」

 

 ドリンクバーから戻ってきたミオが言う。

 

「聞いた?二組のみうとゆうた、文化祭で付き合ったらしいよ」

 

「え、まじ?」

「やっぱ文化祭マジックじゃん」

 

 一気にざわつく。

 

「告白されたらしいよ、裏で」

「エモ〜」

 

 りりはストローを噛みながら聞いている。

 マコトは、パフェのスプーンをゆっくり動かしている。

 

「マコトさ」

 

 不意に名前が飛ぶ。

 

「なに」

 

「そういうの、どう思う?」

 

 全員の視線が、一瞬だけ集まる。

 マコトは逃げないけど、急がない。

 

「……タイミングなんだと思う」

 

「え、冷静」

「夢ない〜」

 

「夢は、後からつくんじゃない?」

 

「なにそれ」

「名言っぽ」

 

 笑いが起きる。

 

「じゃあさ」

 

 ナナが身を乗り出す。

 

「マコトって、恋人とかいたことあるの?」

 

 少しだけ、間が空く。

 りりは何も言わない。ただ、マコトを見る。

 

「……ない」

 

「え、意外」

「絶対モテないタイプじゃないよね」

 

「モテないと思う」

 

「自己評価低」

 

 マコトは肩をすくめる。

 

「必要だと思ったこと、あんまりなくて」

 

「それ、強」

「悟りじゃん」

 

「じゃあ、今は?」

 

 その質問に、マコトは少し考えた。

 

「今は……」

 

 一瞬、りりを見る。

 すぐに視線を戻す。

 

「生活が埋まってるから」

 

「なにそれ」

「彼氏いらない期?」

 

「たぶん」

 

 りりが、そこで口を挟む。

 

「マコト、変に突っ込まれるの嫌いだから」

 

「庇った?」

「りり優し〜」

 

「事実言っただけ」

 

「でもさ〜」

 

 ナナがにやっとする。

 

「りりとマコトって、付き合ってないのに一緒にいすぎじゃない?」

 

 空気が一瞬、止まる。

 でも重くはならない。

 

「付き合ってないよ」

 

 りりが即答する。

 

「ね」

 

「うん」

 

 マコトも同じ速さで答えた。

 

「じゃあ何?」

 

「友だち」

 

「それで成立してるのがすごいんだけど」

 

 マコトは少し考えてから言う。

 

「成立しない理由、ある?」

 

 一拍置いて、

「……ないわ」

と誰かが言って、笑いが起きる。

 

「マコト、ほんと淡々としてるよね」

「逆に信頼できる」

 

「りりは?」

 

 急に矛先が変わる。

 

「文化祭マジック、なかったの?」

 

「あたし?」

 

「告白とかさ」

 

「あったけど」

 

「え!」

 

「断った」

 

「早」

 

「今、ちょうどいいから」

 

「それ好きだね」

 

 マコトが小さく頷く。

 

「ちょうどいい、強い」

 

「でしょ」

 

 デザートが運ばれてくる。

 話題は少しずつ散っていく。

 

 誰かのスマホで写真を撮って、

 誰かがストーリーに上げている。

 

 マコトは、その輪の中で静かに座っている。

 でも、もう浮いてはいない。

 

「マコト」

 

 りりが小さく呼ぶ。

 

「なに」

 

「楽しい?」

 

「……うるさいけど」

 

「うん」

 

「嫌いじゃない」

 

「それなら合格」

 

 打ち上げは、特別なことを決めないまま終わる。

 誰が付き合ったかは、そのうちどうでもよくなる。

 

 でも、

 ここに一緒にいたって事実だけは、

 たぶん、ちゃんと残る。

 

 マコトはそれで十分だと思っていて、

 りりも、たぶん同じだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。