文化祭の打ち上げは、駅前のファミレスだった。
夜で、週末で、人が多い。テーブルをくっつけて、りりの友達たちとりり、そこにマコトがいる。
「つかさ〜」
ドリンクバーから戻ってきたミオが言う。
「聞いた?二組のみうとゆうた、文化祭で付き合ったらしいよ」
「え、まじ?」
「やっぱ文化祭マジックじゃん」
一気にざわつく。
「告白されたらしいよ、裏で」
「エモ〜」
りりはストローを噛みながら聞いている。
マコトは、パフェのスプーンをゆっくり動かしている。
「マコトさ」
不意に名前が飛ぶ。
「なに」
「そういうの、どう思う?」
全員の視線が、一瞬だけ集まる。
マコトは逃げないけど、急がない。
「……タイミングなんだと思う」
「え、冷静」
「夢ない〜」
「夢は、後からつくんじゃない?」
「なにそれ」
「名言っぽ」
笑いが起きる。
「じゃあさ」
ナナが身を乗り出す。
「マコトって、恋人とかいたことあるの?」
少しだけ、間が空く。
りりは何も言わない。ただ、マコトを見る。
「……ない」
「え、意外」
「絶対モテないタイプじゃないよね」
「モテないと思う」
「自己評価低」
マコトは肩をすくめる。
「必要だと思ったこと、あんまりなくて」
「それ、強」
「悟りじゃん」
「じゃあ、今は?」
その質問に、マコトは少し考えた。
「今は……」
一瞬、りりを見る。
すぐに視線を戻す。
「生活が埋まってるから」
「なにそれ」
「彼氏いらない期?」
「たぶん」
りりが、そこで口を挟む。
「マコト、変に突っ込まれるの嫌いだから」
「庇った?」
「りり優し〜」
「事実言っただけ」
「でもさ〜」
ナナがにやっとする。
「りりとマコトって、付き合ってないのに一緒にいすぎじゃない?」
空気が一瞬、止まる。
でも重くはならない。
「付き合ってないよ」
りりが即答する。
「ね」
「うん」
マコトも同じ速さで答えた。
「じゃあ何?」
「友だち」
「それで成立してるのがすごいんだけど」
マコトは少し考えてから言う。
「成立しない理由、ある?」
一拍置いて、
「……ないわ」
と誰かが言って、笑いが起きる。
「マコト、ほんと淡々としてるよね」
「逆に信頼できる」
「りりは?」
急に矛先が変わる。
「文化祭マジック、なかったの?」
「あたし?」
「告白とかさ」
「あったけど」
「え!」
「断った」
「早」
「今、ちょうどいいから」
「それ好きだね」
マコトが小さく頷く。
「ちょうどいい、強い」
「でしょ」
デザートが運ばれてくる。
話題は少しずつ散っていく。
誰かのスマホで写真を撮って、
誰かがストーリーに上げている。
マコトは、その輪の中で静かに座っている。
でも、もう浮いてはいない。
「マコト」
りりが小さく呼ぶ。
「なに」
「楽しい?」
「……うるさいけど」
「うん」
「嫌いじゃない」
「それなら合格」
打ち上げは、特別なことを決めないまま終わる。
誰が付き合ったかは、そのうちどうでもよくなる。
でも、
ここに一緒にいたって事実だけは、
たぶん、ちゃんと残る。
マコトはそれで十分だと思っていて、
りりも、たぶん同じだった。