マイペースとギャル   作:5734589

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今が途中だから

 冬の帰り道は、昼よりも正直だ。

 日が落ちるのが早くて、空気が一気に冷える。

 

 りりとマコトは並んで歩いていた。

 マフラーを巻いて、肩をすくめている。

 

「寒」

 

 りりが言う。

 

「思ったより」

 

「手、死ぬ」

 

「ポケット使えば」

 

「スマホ持ってる」

 

「詰んでる」

 

 駅へ向かう途中、街灯の下で白いものが落ちてくる。

 

「あ」

 

 りりが足を止める。

 

「雪?」

 

「雪だね」

 

 マコトは空を見上げる。

 小さくて、軽い。

 

「積もらなさそう」

 

「でも降ってる」

 

「それ重要?」

 

「雰囲気」

 

 二人は歩きながら、雪を見る。

 音が少しずつ減っていく。

 

 車の音も、人の声も、遠くなる。

 

「ねえ、マコト」

 

「なに」

 

「雪降るとさ」

 

「うん」

 

「帰りたくなくならない?」

 

「……なる」

 

「理由」

 

「今が途中だから」

 

「途中、好きだよね」

 

「終わりより」

 

「始まりより?」

 

「たぶん」

 

 息が白くなる。

 りりは手袋をはめていない。

 

「りり、手冷たい?」

 

「冷たい」

 

「貸す?」

 

「なにを」

 

 マコトが片方の手袋を外す。

 

「片方だけ?」

 

「左右で温度違っても死なない」

 

「理屈」

 

 りりは少しだけ迷ってから、手を出す。

 

「……ありがと」

 

「どう?」

 

「生き返る」

 

 二人の間の距離が、少しだけ縮む。

 でも、触れない。

 

「雪、好き?」

 

 マコトが聞く。

 

「嫌いじゃない」

 

「理由」

 

「静かになるから」

 

「同じ」

 

 足音が、雪に吸われる。

 

「今日さ」

 

 りりが言う。

 

「なに」

 

「なんもなかったね」

 

「うん」

 

「でも、記憶に残りそう」

 

「そういう日、ある」

 

 駅の明かりが見えてくる。

 雪は、まだ降っている。

 

「マコト」

 

「なに」

 

「明日、積もってたらどうする?」

 

「転ばないように歩く」

 

「現実的」

 

「りりは?」

 

「写真撮る」

 

「手、かじかんでるのに」

 

「それも込み」

 

 駅に着く。

 改札の前で立ち止まる。

 

「手袋、返す」

 

「いい」

 

「でも」

 

「また貸すから」

 

 りりはそれを聞いて、少しだけ笑った。

 

「じゃあ、明日も寒いね」

 

「そうだね」

 

 電車の音が近づく。

 雪は、まだ音を消している。

 

 特別な言葉はない。

 でも、冬の帰り道は、

 ちゃんと二人を包んでいた。

 

次の日

  朝から降っていた雪は、帰り道までちゃんと残っていた。

 踏むと、きゅっと音がする程度に積もっている。

 

「積もってる」

 

 りりが言う。

 

「思ったより」

 

 マコトは足元を見ながら歩く。

 

「滑る?」

 

「油断したら」

 

「じゃあ油断しよ」

 

「やめて」

 

 でも、りりは一歩、わざと雪の深いところに足を入れる。

 白い粉が、靴の横に跳ねる。

 

「ほら」

 

「……やったね」

 

 マコトも、同じように踏み込む。

 少しだけ、強めに。

 

「マコト、対抗心ある?」

 

「今、芽生えた」

 

「遅」

 

 二人は歩道の端に寄る。

 誰も踏んでいない雪が、まだ残っている。

 

 りりがしゃがんで、雪を掬う。

 

「冷た」

 

「手袋は?」

 

「あるけど、外した」

 

「なんで」

 

「触りたかった」

 

「理由が小学生」

 

「今さら」

 

 りりは雪を丸める。

 完璧な形じゃない。

 

「投げる?」

 

「投げない」

 

「じゃあ置く」

 

 りりはそれを、道の縁石にそっと置く。

 

「なにそれ」

 

「途中の雪だるま」

 

「未完成すぎ」

 

「完成させる気ない」

 

 マコトは少し考えてから、同じように雪を丸める。

 

「じゃあ、隣に置く」

 

「増えた」

 

「共同制作」

 

「雑」

 

 風が吹いて、粉雪が舞う。

 二人の足跡が、並んで残る。

 

「ねえ」

 

 りりが言う。

 

「なに」

 

「雪合戦しないの?」

 

「したら帰れなくなる」

 

「それ、理由として弱い」

 

「制服濡れる」

 

「現実的」

 

 マコトは道端の雪を軽く蹴る。

 りりの靴の近くに、少しだけ飛ぶ。

 

「今の、攻撃?」

 

「事故」

 

「じゃあ事故返し」

 

 りりも、同じように蹴る。

 今度はマコトのコートの裾に、少し付く。

 

「……りり」

 

「なに」

 

「狙った?」

 

「さあ」

 

 マコトは、しばらくその雪を見てから、手で払う。

 

「楽しい?」

 

「うん」

 

「即答」

 

「雪の日は、許されてる感じする」

 

「なにが」

 

「無駄なこと」

 

 マコトは、それを聞いて頷いた。

 

「じゃあ、少しだけ」

 

「なに」

 

「無駄しよ」

 

 二人はしばらく、雪を踏むだけの時間を過ごす。

 投げない、壊さない、完成させない。

 

 ただ、触って、残して、歩く。

 

 駅が見えてくる。

 

「名残惜しい?」

 

 りりが聞く。

 

「……うん」

 

「明日には溶けるかもね」

 

「それも込み」

 

 改札の前で、足を止める。

 

「りり」

 

「なに」

 

「今日のこれ」

 

「うん」

 

「思い出って呼んでいい?」

 

「呼ばなくても残るでしょ」

 

「確かに」

 

 電車の音が近づく。

 雪は、二人の足跡だけを残して、静かに待っていた。

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