終業式のあと、教室は半分だけ片付いている。
机の上は軽くなって、気持ちだけがまだ学校に残っている。
りりとマコトは、窓際の席に並んで座っていた。
コートはまだ着ていない。
「冬休みさ」
りりが言う。
「うん」
「予定ある?」
マコトは少し考える。
「……ない」
「即答じゃないのに?」
「確認した」
「なにを」
「本当にないか」
「慎重」
「虚無よりは」
りりはスマホを見ながら言う。
「あたしも、特にない」
「それで聞いたの?」
「暇つぶし」
「正直」
「マコトもでしょ」
「否定できない」
窓の外は曇っている。
冬休みがもう始まりかけている感じ。
「じゃあさ」
りりが顔を上げる。
「一回くらい、どっか行く?」
「どこ」
「決めてない」
「計画として弱い」
「今から立てるんじゃん」
マコトは頷く。
「条件ある?」
「混みすぎない」
「寒すぎない」
「高くない」
「地味」
「……楽しくなさそう」
「楽しいよ」
「どうやって」
「後でわかる」
そのとき、後ろから声が飛んでくる。
「なにそれ」
「誰と行く話?」
振り返ると、ミオ、ナナ、ユイが机を引きずってきていた。
「りり〜」
「なに」
「今、冬休みデートの話?」
「違う」
「即否定」
笑いながら、勝手に輪に入ってくる。
「マコトもいるじゃん」
「仲良いね〜ほんと」
「予定立ててただけ」
りりが言う。
「それがもう怪しいんだけど」
「で、どこ行くの?」
マコトが静かに口を開く。
「まだ白紙」
「え、珍し」
「マコト計画立てる側じゃん」
「相手が決めないタイプで」
「りりでしょそれ」
「決めないんじゃなくて、絞らないの」
「言い換えうま」
ユイが言う。
「じゃあさ、初売りとか」
「イルミとか」
「人多い」
マコトが即答する。
「却下早」
「寒い」
りりも言う。
「じゃあなに」
二人が同時に少し考える。
「……暖かい室内」
「……長居できるとこ」
声が被る。
「え、息合ってない?」
「偶然」
「条件一致しただけ」
三人はは笑う。
「じゃあ映画?」
「ボウリング?」
「騒がしい」
「疲れる」
「注文多いな〜」
「でもさ」
ユイが言う。
「マコト、恋人とか作らないの?」
少しだけ、空気が止まる。
でも重くならない。
「今はいい」
「りりといるから?」
「関係ない」
「関係あるでしょ」
りりが口を挟む。
「余計な理由つけないで」
「はいはい」
マコトは助け舟に感謝しない。
ただ、話を戻す。
「……冬休み」
「うん」
「一日、だらだらする日があればいい」
「それ」
りりが頷く。
「それでいい」
「地味すぎ」
「でもりりっぽ」
三人は立ち上がる。
「じゃ、うちらは派手な予定立てるわ」
「またね〜」
去り際に、振り返って一言。
「マコト、連れ回されてね」
「連れ回さない」
「並ぶだけ」
二人きりに戻る。
「騒がしくなったね」
マコトが言う。
「一瞬だけ」
「戻った」
「戻った」
窓の外を見る。
「じゃあ」
りりが言う。
「冬休みの予定」
「うん」
「だらだらする日、一日」
「確定」
「場所は?」
「決めない」
「じゃあ、当日決めよ」
「それが一番」
冬休みは、まだ白い。
予定も、空白も。
でも、
一緒に決めた、決めない予定だけが、
ちゃんと残っていた。