クリスマスの夜は、音が少ない。
街は光っているのに、住宅街に入ると急に静かになる。
「ここ」
マコトが立ち止まる。
「マコトんち、初」
「そうだね」
「緊張する?」
「わたしが?」
「うん」
「……少し」
「珍し」
りりは笑って、インターホンを見る。
「押していい?」
「家族いないけどね、どうぞ」
家の中は暖かかった。
大きくはないけど、整っている。
「お邪魔しまーす」
「どうぞ」
靴を脱いで、並べる。
それだけで、もういつもと違う。
「ケーキ」
マコトが冷蔵庫を指す。
「買ったの?」
「小さいの」
「かわいい」
「量が適正」
「ギャル的には足りない」
「知ってる」
二人でケーキを切る。
不揃い。
「マコト、こういうとき几帳面なのかと思った」
「ケーキは例外」
「なんで」
「均等にすると、責任が生まれる」
「なにそれ」
「切った人の」
「哲学やめて」
テレビはつけない。
BGMもない。
窓の外で、どこかの家のイルミネーションが瞬いている。
「クリスマスっぽいこと、した?」
りりが聞く。
「今してる」
「ケーキだけ?」
「十分」
「欲低」
「りりは?」
「まあまあ」
「まあまあって」
「雰囲気だけ欲しいタイプ」
「それも今」
ケーキを食べ終わって、皿を洗う。
自然に分担する。
「泊まるの、変じゃない?」
りりが言う。
「変?」
「クリスマスだし」
「同性だし」
「そうだけど」
マコトは少し考えてから言う。
「特別な日に、特別じゃない過ごし方するの、好き」
「マコトっぽ」
「りりも、嫌じゃないでしょ」
「嫌だったら来てない」
風呂は順番。
りりが先。
「パジャマ、これでいい?」
「うん」
「地味」
「寝るだけ」
「でもクリスマス」
「寝るのは同じ」
りりはパジャマに着替えて戻ってくる。
「マコト、いつもより静か」
「家だから」
「外より?」
「外より、素が出る」
「じゃあ、今が本体?」
「たぶん」
次はマコト。
りりは布団の上でスマホをいじる。
戻ってきたマコトは、髪が少し湿っている。
「髪、乾かさないの?」
「自然乾燥派」
「風邪ひくよ」
「たぶん大丈夫」
「信用低」
二人で布団を敷く。
並べる。
「一緒でいい?」
「いい」
電気を消す。
間接照明だけ残す。
少しだけ、距離が近い。
「ねえ」
りりが言う。
「なに」
「今日さ」
「うん」
「なんか安心する」
「理由は?」
「わかんない」
「それでいい」
外で、遠くの鐘の音がする。
どこかの教会か、ただの演出か。
「メリークリスマス」
りりが小さく言う。
「……メリークリスマス」
マコトの声も小さい。
特別なことは起きない。
でも、特別な日を一緒に過ごしたという事実だけが、
静かに積もる。
雪みたいに。