マイペースとギャル   作:5734589

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冬のある一日

 クリスマスの夜は、音が少ない。

 街は光っているのに、住宅街に入ると急に静かになる。

 

「ここ」

 

 マコトが立ち止まる。

 

「マコトんち、初」

 

「そうだね」

 

「緊張する?」

 

「わたしが?」

 

「うん」

 

「……少し」

 

「珍し」

 

 りりは笑って、インターホンを見る。

 

「押していい?」

 

「家族いないけどね、どうぞ」

 

 家の中は暖かかった。

 大きくはないけど、整っている。

 

「お邪魔しまーす」

 

「どうぞ」

 

 靴を脱いで、並べる。

 それだけで、もういつもと違う。

 

「ケーキ」

 

 マコトが冷蔵庫を指す。

 

「買ったの?」

 

「小さいの」

 

「かわいい」

 

「量が適正」

 

「ギャル的には足りない」

 

「知ってる」

 

 二人でケーキを切る。

 不揃い。

 

「マコト、こういうとき几帳面なのかと思った」

 

「ケーキは例外」

 

「なんで」

 

「均等にすると、責任が生まれる」

 

「なにそれ」

 

「切った人の」

 

「哲学やめて」

 

 テレビはつけない。

 BGMもない。

 

 窓の外で、どこかの家のイルミネーションが瞬いている。

 

「クリスマスっぽいこと、した?」

 

 りりが聞く。

 

「今してる」

 

「ケーキだけ?」

 

「十分」

 

「欲低」

 

「りりは?」

 

「まあまあ」

 

「まあまあって」

 

「雰囲気だけ欲しいタイプ」

 

「それも今」

 

 ケーキを食べ終わって、皿を洗う。

 自然に分担する。

 

「泊まるの、変じゃない?」

 

 りりが言う。

 

「変?」

 

「クリスマスだし」

 

「同性だし」

 

「そうだけど」

 

 マコトは少し考えてから言う。

 

「特別な日に、特別じゃない過ごし方するの、好き」

 

「マコトっぽ」

 

「りりも、嫌じゃないでしょ」

 

「嫌だったら来てない」

 

 風呂は順番。

 りりが先。

 

「パジャマ、これでいい?」

 

「うん」

 

「地味」

 

「寝るだけ」

 

「でもクリスマス」

 

「寝るのは同じ」

 

 りりはパジャマに着替えて戻ってくる。

 

「マコト、いつもより静か」

 

「家だから」

 

「外より?」

 

「外より、素が出る」

 

「じゃあ、今が本体?」

 

「たぶん」

 

 次はマコト。

 りりは布団の上でスマホをいじる。

 

 戻ってきたマコトは、髪が少し湿っている。

 

「髪、乾かさないの?」

 

「自然乾燥派」

 

「風邪ひくよ」

 

「たぶん大丈夫」

 

「信用低」

 

 二人で布団を敷く。

 並べる。

 

「一緒でいい?」

 

「いい」

 

 電気を消す。

 間接照明だけ残す。

 

 少しだけ、距離が近い。

 

「ねえ」

 

 りりが言う。

 

「なに」

 

「今日さ」

 

「うん」

 

「なんか安心する」

 

「理由は?」

 

「わかんない」

 

「それでいい」

 

 外で、遠くの鐘の音がする。

 どこかの教会か、ただの演出か。

 

「メリークリスマス」

 

 りりが小さく言う。

 

「……メリークリスマス」

 

 マコトの声も小さい。

 

 特別なことは起きない。

 でも、特別な日を一緒に過ごしたという事実だけが、

 静かに積もる。

 

 雪みたいに。

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