マイペースとギャル   作:5734589

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冬のある一日2

大晦日は、時間が変な速さで進む。

 急いでいるわけでもないのに、気づくと夜になっている。

 

 マコトは自分の部屋にいた。

 机の上には、終わらせきれなかったノートと、スマホ。

 

 テレビはつけていない。

 カウントダウンは、たぶん聞こえる。

 

 ペンを置いて、窓を見る。

 外は静かで、寒い。

 

「もうすぐか」

 

 誰に言うでもなく、呟く。

 

 スマホが震える。

 

【りり:年越し何してる?】

 

 少し間を置いて、返す。

 

【マコト:部屋。りりは?】

 

 返事はすぐ来る。

 

【りり:母の実家。親戚いてうるさい】

 

【マコト:想像できる】

 

 向こう側の音が、なんとなく浮かぶ。

 

【りり:逃げたい】

 

【マコト:無理だね】

 

【りり:冷たい】

 

【マコト:事実】

 

 マコトは椅子にもたれる。

 

【りり:去年何してたか覚えてる?】

 

 少し考える。

 

【マコト:覚えてない】

 

【りり:だよね】

 

【マコト:今年は覚えてる】

 

 既読がつくまで、少し間がある。

 

【りり:それ、ずるい】

 

 遠くで、花火みたいな音がする。

 テレビの向こうの世界。

 

【りり:あと何分】

 

【マコト:3】

 

 マコトは時計を見る。

 

【りり:カウントしよ】

 

【マコト:ここで?】

 

【りり:ここで】

 

 画面越しに、同じ時間を見る。

 

【マコト:2】

 

【りり:1】

 

 少しだけ、間。

 

【りり:あ】

 

【マコト:あけた】

 

 年が変わる。

 

 何かが劇的に変わる感じはしない。

 でも、線は引かれた。

 

【りり:あけましておめでとう】

 

【マコト:おめでとう】

 

【りり:今年もよろしく】

 

【マコト:こちらこそ】

 

 マコトはスマホを置く。

 深呼吸を一つ。

 

 机の上のノートを閉じる。

 

 一方で、りりは別の部屋にいた。

 リビングの笑い声から少し離れて。

 

 スマホの画面は暗くなっている。

 でも、胸のあたりは静か。

 

「来年も、まあいい年でしょ」

 

 独り言みたいに言って、

 また賑やかな方へ戻る。

 

 同じ夜、同じ年明け。

 場所は違う。

 

 でも、

 同じ瞬間を知っているということが、

 ちゃんと二人をつないでいた。

 

新年が明けて、正月二日。

 元日ほどじゃないけど、神社はまだ人が多い。

 

「人、いるね」

 

 りりが言う。

 

「想定内」

 

「嫌そう」

 

「嫌ではない」

 

「じゃあ?」

 

「覚悟してる」

 

「強」

 

 二人はコートを着て並んで歩く。

 りりはいつもより少しだけ落ち着いた色の服。

 

「マコト、初詣いつぶり?」

 

「毎年」

 

「意外」

 

「行かない理由がない」

 

「理由派だもんね」

 

 境内に入ると、空気が変わる。

 冷たくて、澄んでいる。

 

「寒」

 

「手袋」

 

「してる」

 

「じゃあ耐えて」

 

「雑」

 

 賽銭箱の前に並ぶ。

 前の人の背中を見ながら、少しずつ進む。

 

「何お願いする?」

 

 りりが小さく聞く。

 

「言ったら叶わない」

 

「それ迷信」

 

「効くから」

 

「信じるタイプ?」

 

「都合のいいところだけ」

 

「賢」

 

 順番が来る。

 鈴を鳴らして、手を合わせる。

 

 マコトは目を閉じる。

 りりも、同じように。

 

 願い事は、言葉にしない。

 

 少しだけ、長い。

 

「長くない?」

 

 りりが言う。

 

「そう?」

 

「あたし三秒」

 

「短」

 

「欲が少ない」

 

「嘘」

 

 二人で横に逸れる。

 

「おみくじ」

 

 りりが指差す。

 

「引く?」

 

「引く」

 

 ほぼ同時に引いて、開く。

 

「……吉」

 

 りりが言う。

 

「同じ」

 

「平和」

 

「期待値通り」

 

 内容を読む。

 

「恋愛、焦るなって」

 

「仕事、動くなって」

 

「正月から否定されてる」

 

「現状維持推奨」

 

「それ好きでしょ」

 

 境内を出て、屋台の並ぶ方へ。

 

「甘酒ある」

 

「飲む?」

 

「少し」

 

 紙コップを二つもらって、手に持つ。

 

「熱」

 

「気をつけて」

 

「マコト、おばあちゃん」

 

「事実」

 

 湯気が上がる。

 

「正月ってさ」

 

 りりが言う。

 

「うん」

 

「区切り感あるけど、実感ない」

 

「同じ」

 

「でも今日、来てよかった」

 

「理由」

 

「言語化できない」

 

「それでいい」

 

 人混みを抜けて、鳥居の外に出る。

 少し静かになる。

 

「今年さ」

 

 りりが言う。

 

「なに」

 

「去年とそんな変わんない感じでいこ」

 

「賛成」

 

「大きいことしない」

 

「小さいの積む」

 

「それ」

 

 りりは息を吐く。

 

「じゃあ、帰る?」

 

「うん」

 

 歩き出す。

 

 後ろで、鈴の音が鳴る。

 

 新しい年は、もう始まっている。

 でも二人は、急がない。

 

 並んで歩く速さだけ、

 今年も変えずに。

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