マイペースとギャル   作:5734589

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今、回収する

 夜のしゃぶしゃぶ屋は、高校生には少しだけ背伸びだ。

 入口で名前を書いて、少し待つ。

 

「腹減った〜」

 

 ミオが言う。

 

「しゃぶしゃぶ久々」

「テンション上がる」

 

 りりは壁にもたれてスマホを見ている。

 マコトは、メニューの写真を眺めている。

 

「マコト、初?」

 

「初」

 

「え、まじ?」

「人生損してない?」

 

「今、回収する」

 

「言い方が冷静すぎ」

 

 呼ばれて、席に案内される。

 鍋が真ん中に置かれて、湯気が立つ。

 

「うわ、ちゃんとした鍋」

「火ついてる!」

 

「当たり前」

 

 りりが言う。

 

「マコト、だし選ぶ?」

 

「おすすめで」

 

「主体性どこ」

 

 肉が運ばれてくる。

 

「見て、ピンク」

「優勝」

 

 ミオ、ナナ、ユイが一斉にスマホを向ける。

 

「マコト、撮らないの?」

 

「記憶派」

 

「かっこつけた」

 

 肉を鍋に入れる。

 

「しゃぶしゃぶは」

 

 マコトが言う。

 

「うん」

 

「入れすぎないのが大事」

 

「急に講義」

「先生」

 

「火を通しすぎると硬くなる」

 

「詳し」

 

「理屈はわかる」

 

「実践は?」

 

 マコトは一枚だけ、慎重にくぐらせる。

 

「……今」

 

「早」

 

「それくらいでいい」

 

「食べる?」

 

「うん」

 

 箸を口に運ぶ。

 

「どう?」

 

 りりが聞く。

 

「……おいしい」

 

「感情こもってない」

 

「最大級」

 

「ほんとに?」

 

 マコトは少し考えてから言う。

 

「冬に向いてる」

 

「評価軸そこ」

 

 鍋が賑やかになる。

 

「ねえねえ」

 

 ユイがマコトを見る。

 

「マコトってさ、こういうとこ慣れてる?」

 

「慣れてない」

 

「でも落ち着きすぎじゃない?」

 

「うるさいのは嫌い」

 

「じゃあ今どう」

 

「……許容範囲」

 

「評価低」

 

 りりが肉を取って、マコトの皿に置く。

 

「食べな」

 

「ありがとう」

 

「野菜も食べて」

 

「命令形」

 

「健康」

 

 ユイがにやにやする。

 

「りり、世話焼きじゃん」

「付き合ってる感」

 

「違う」

 

 りりが即答する。

 

「ね」

 

「うん」

 

 マコトも同時に言う。

 

「でもさ〜」

 

 別の子が言う。

 

「この距離感、逆に謎」

 

「謎でいい」

 

 りりが言う。

 

「完成させない」

 

「なにそれ哲学?」

 

「マコトの影響」

 

 マコトは少しだけ目を逸らす。

 

「責任転嫁しないで」

 

 肉が減って、野菜が増える。

 鍋の音が、一定になる。

 

「マコト」

 

 ミオが言う。

 

「また来よ」

 

「……誘われたら」

 

「消極的肯定」

 

「高校生でしゃぶしゃぶ、あり?」

 

「あり」

 

「理由」

 

「今日、ちゃんと楽しい」

 

「即答じゃん」

 

 りりが少しだけ笑う。

 

「でしょ」

 

 店を出ると、夜は冷たい。

 

「寒っ」

「コート意味ある?」

 

「ある」

 

 マコトが言う。

 

「中が温かいから」

 

「それ好きだよね」

 

「持続性」

 

 駅へ向かう道。

 ミオ、ナナ、ユイは前を歩く。

 

 りりとマコトは、少し後ろ。

 

「どうだった?」

 

 りりが聞く。

 

「しゃぶしゃぶ?」

 

「全部」

 

 マコトは少し考える。

 

「……悪くない」

 

「それ、最高評価だよ」

 

「知ってる」

 

 湯気はもうない。

 でも、体の奥はまだ温かい。

 

 高校生の夜ご飯としては、十分すぎるくらいに。

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