放課後の昇降口は、人が多い。
マコトは靴を履き替えて、外に出た。
「ねえ」
背後から声。
「今日さ、部活——」
途中で止まる。
「……あ、ごめん」
振り返ると、見覚えのない子。
制服は同じだけど、上履きの色が違う。
「なに?」
つい、タメ口で返す。
「え、同じクラスじゃないよね?」
「違う」
「学年は?」
「一つ上」
一瞬、空気が止まる。
「え」
「え」
後輩が目を見開く。
「うそ、同級生だと思った」
「よく言われる」
「まじか……」
気まずい間。
「……すみません」
「いいよ」
マコトは少し笑う。
「なに用?」
「いや、えっと」
「部活?」
「そう。先輩だと思わなくて」
「今もそう見えてる」
「見えてる」
「ならいい」
後輩は少し安心した顔をする。
「マコト先輩って言えばいい?」
「無理しなくていい」
「じゃ、マコトで」
「それは一応だめ」
「線引きむず」
二人で少し笑う。
「ギャルの友だちいるよね?」
突然。
「いる」
「やっぱ」
「なにその確認」
「雰囲気で」
「犬飼ってそう」
「当たってる」
「え」
「芝犬」
「情報量多」
チャイムが鳴る。
「あ、すみませんでした」
「気にしないで」
「また話していいですか」
「敬語なら」
「努力します」
去っていく背中。
マコトは小さく息を吐く。
「……同級生は無理ある」
でも、たまにズレる立場も悪くなかった。
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放課後の校舎は、音が間延びしてる。
マコトは購買帰りで、廊下を歩いてた。
曲がり角の向こう。
声が、低めに聞こえる。
「……好きです」
一瞬、足が止まる。
見覚えのある後ろ姿。
ナナ。
向かいに立ってるのは、先輩。
上履きの色でわかる。
マコトは、咄嗟に距離を取る。
柱の影。
聞くつもりはない。
でも、聞こえる。
「前から、ずっと」
「文化祭のときとか」
「話しかけたかった」
ナナは、腕を組んでる。
姿勢が崩れてない。
「……ありがとです」
声は軽い。
「でも、ごめんなさい」
即答。
先輩が少し驚く。
「誰か、いるとか?」
「うーん」
少し考える間。
「今は、ないけど」
「じゃあ——」
「でも、付き合う感じじゃない」
言い切る。
「そっか」
先輩は苦笑い。
「急に呼び止めて、ごめん」
「大丈夫です」
「これからも、普通でいい?」
「全然」
空気がほどける。
先輩が去る。
ナナは、その場で一度だけ深呼吸する。
マコトは、出るタイミングを失う。
「……」
気配に気づかれる前に、
静かに戻ろうとした、そのとき。
「あ」
目が合う。
「あ」
ナナが言う。
「見てた?」
「通りかかった」
「だよね」
変に取り繕わない。
「気まずい?」
「ちょっと」
「でもまあ」
肩をすくめる。
「こういうの、ある」
「強い」
「慣れてるだけ」
少し歩き出す。
「りりには?」
「言う」
「即?」
「あとで」
「反応、うるさそう」
「うるさい」
二人で少し笑う。
「マコトさ」
「なに」
「変に同情しないの、助かる」
「必要ないと思った」
「正解」
昇降口が近づく。
「じゃ、また」
「また」
別れる。
マコトは靴を履き替えながら思う。
好きって言葉は、言われる側にも覚悟がいる。
それを、
あの子はちゃんと知ってた。