夜。
駅前のファミレス。
マコトは、一人で席に座ってる。
テーブルの上には、大きなハンバーグ。
鉄板がじゅうじゅう言ってる。
「……熱」
ナイフを入れる。
肉汁。
「勝ち」
無言で食べる。
集中。
そのとき。
「……え?」
声。
顔を上げる。
ナナ。
制服じゃない、私服。
「マコト?」
最悪。
「こんばんは」
「一人?」
「見ての通り」
「それさ」
視線がハンバーグに落ちる。
「でかくない?」
「普通」
「普通の顔じゃない」
ナナは笑いを噛み殺して、向かいに座る。
「こういうの、食べるんだ」
「食べる」
「静かな顔で」
「うるさい」
マコトはフォークを置く。
「なにしてたの」
「友だちと解散した帰り」
「なるほど」
「で、マコトは?」
「……一人時間」
「渋」
「犬は?」
「家」
「想像つく」
ナナはメニューを見る。
「追加しよっかな」
「真似する?」
「する」
「やめて」
「無理」
料理が来る。
「マコトさ」
「なに」
「こういうとこ、りりに見せたい」
「だめ」
「絶対言う」
「言わないで」
「言う」
二人で食べる。
「美味しい?」
「美味しい」
「顔に出てる」
「出てない」
「出てる」
最後の一口。
マコトは満足する。
「完食」
「かっこよ」
「なにが」
「一人ファミレスで、でかハンバーグ」
「褒め言葉じゃない」
「最高の褒め言葉」
会計。
「じゃ、また」
「また」
店を出て、別れる。
マコトは少し思う。
誰かに見られても、
好きなものは好きでいい。
でも。
「りりに言うな」は、
たぶん守られない。
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翌日の昼休み。
マコトは席で本を読んでた。
「ねえ」
声が近い。
「……なに」
顔を上げると、りり。
距離が近い。
「昨日さ」
嫌な予感。
「ファミレス」
確定。
「一人で」
確定二。
「でっかい」
確定三。
「ハンバーグ」
終了。
「……誰から」
「本人」
「裏切り」
「笑ってた」
「笑うな」
りりは机に手をつく。
「ねえマコト」
「なに」
「めちゃくちゃ良くない?」
「なにが」
「一人でファミレス行って」
「黙々と」
「でっかいハンバーグ食べてるの」
「情報盛られてる」
「盛ってない」
三人も寄ってくる。
「聞いた聞いた」
「写真撮りたかった」
「静かな顔で肉切ってたんでしょ」
「やめて」
マコトは本を閉じる。
「普通の行動」
「普通じゃない」
「ギャップ」
「ギャップって言うな」
りりが腕を組む。
「あたしさ」
「うん」
「次、一緒に行く」
「拒否権」
「ない」
「一人時間が」
「一人じゃなくなるだけ」
「概念崩壊」
チャイムが鳴る。
「決定ね」
「勝手に」
「ハンバーグ」
「次はさらにでかいやつ」
「競わせるな」
りりは満足そうに戻っていく。
マコトは小さく息を吐く。
秘密は、共有されるとネタになる。
でも。
それを面白がってくれる相手がいるのは、
悪くなかった。
――――――――――
夕方。
駅前のファミレス。
「来た」
「例の場所」
「例のやつ」
五人で席に座る。
りりがメニューを開く。
「はい」
「どれ?」
「これ」
指差す先。
「メガハンバーグ」
「でっか」
「写真盛ってない?」
「盛ってない」
マコトはメニューを見る。
「……これ、前食べた」
「知ってる」
「目撃情報あり」
「単独犯行」
三人が笑う。
「じゃ、全員?」
「一人は頼まなきゃ」
「誰?」
全員の視線。
「……わたし」
「やっぱり」
「主役」
注文する。
待つ。
「マコトさ」
ミオが言う。
「一人で食べてたとき」
「うん」
「無言だった?」
「集中してた」
「想像つく」
りりが言う。
「あたし、その顔見たい」
「見せない」
「今から」
「今は人が多い」
「関係ない」
運ばれてくる。
「うわ」
「本物だ」
「鉄板音すご」
マコトの前。
「圧」
「勝てる?」
「完食する」
「宣言」
食べ始める。
静か。
「無言」
「集中入った」
「修行僧」
肉汁。
「……うま」
ぽろっと漏れる。
「今の!」
「聞いた!」
「レア!」
マコトは睨む。
「聞こえた」
「聞こえた」
りりが笑う。
「ね」
「なに」
「一人で食べてるときより」
「うん」
「楽しそう」
「気のせい」
「気のせいじゃない」
ユイが言う。
「こうやってさ」
「うん」
「一緒に同じの食べるの、いいね」
「イベント感」
「でっかいイベント」
マコトは最後の一口。
「……完食」
「拍手!」
「勝利!」
「次は誰?」
「もう無理」
会計前。
「また来よ」
「次は別の」
「いや、またこれ」
「縛りプレイ」
店を出る。
夜風。
マコトは思う。
一人で食べても美味しいけど、
笑われながら食べるのも、悪くない。
りりが肩をぶつけてくる。
「ごちそうさま、主役」
「言うな」