集合時間、早朝。
眠そうな顔が並ぶ。
「無理」
「まだ夢」
「京都遠い」
「でも行く」
マコトが言う。
「修学旅行だから」
「正論つら」
新幹線に乗る。
座席は自然に固まる。
「寝る?」
「寝ない」
「嘘」
マコトはすぐ目を閉じる。
「秒」
「早」
京都に着くと、一気に人が増える。
「暑」
「人」
「修学旅行生多」
「うちらも」
寺、寺、また寺。
「説明、頭入らない」
「鹿の方が覚えてる」
奈良で鹿に囲まれる。
「ねえ!」
「来ないで!」
「煎餅ない!」
マコトの背後に鹿。
「……いる」
「いるね」
「助けて」
「無理」
写真撮られる。
「マコト、顔固」
「鹿怖い」
「意外」
「距離感わからない」
宿に着く。
「部屋、一緒だって」
「五人?」
「修学旅行感」
畳の部屋。
「荷物どこ置く?」
「端」
「マコト端好きだよね」
「落ち着く」
風呂上がり。
「ねえ」
「なに」
「今日どうだった?」
「鹿」
「それだけ?」
「それだけ」
「薄」
布団を敷く。
「誰から寝る?」
「マコト」
「確定」
電気を消す。
暗い。
「修学旅行さ」
ミオが言う。
「告白とかあるらしいよ」
「またその話」
「ロマンじゃん」
「疲れる」
りりが言う。
「あたしは、ない」
「即答」
「マコトは?」
「ない」
「理由」
「静かに寝たい」
「それ好き」
しばらく沈黙。
「でもさ」
誰かが言う。
「こうやって同じ部屋なの、いいよね」
「うん」
「昼は騒がしいけど」
「夜、落ち着く」
マコトが言う。
「このメンツ、ちょうどいい」
一瞬、静かになる。
「それ」
「嬉しい」
「言われると照れる」
外から、夜の音。
遠くで、誰かの笑い声。
修学旅行の夜は、
特別なことが起きなくても、ちゃんと記憶に残る。
その部屋は、
たぶん、ずっと思い出す場所になる。
――――――――――
二日目の夜。
夕食も風呂も終わって、自由時間。
「売店行く人〜」
「行く」
「マコトも?」
「飲み物切れた」
廊下は静かで、少しひんやりしてる。
「一人で平気?」
「平気」
「じゃ、先戻ってるね〜」
ミオが手を振って去る。
マコトは自販機の前で立ち止まる。
小銭を探してると、
「……あの」
声。
振り返ると、同じ学年の男子。
名前は知ってる。クラスは違う。
「どうしたの」
「えっと」
一度、息を吸う。
「好きです」
一瞬、時間が止まる。
「修学旅行の前から」
「静かで」
「でも、ちゃんと話すと面白くて」
「それが」
最後まで言わせる。
マコトは、少し考える。
「ありがとう」
「でも、ごめん」
即答。
「今は、誰とも付き合う気ない」
「……そっか」
男子は苦笑いする。
「急にごめん」
「大丈夫」
「変に思わないで」
「思わない」
「じゃ」
去っていく背中。
マコトは、飲み物を買うのを忘れてたことに気づく。
「……買うか」
部屋に戻る。
襖を開けた瞬間。
「おかえり〜」
「遅かったね?」
りりが言う。
「……なにかあった?」
マコト、一瞬黙る。
「告白された」
空気が爆発する。
「は!?」
「え!?」
「誰!?」
「待って情報量!」
りりが布団から起き上がる。
「誰から」
「同級生」
「どんな人」
「普通」
「普通ってなに!」
「イケメン?」
「知らない」
「知らないで断ったの!?」
「断った」
「即?」
「即」
「即断マコト!」
ナナが笑う。
「強」
「修学旅行イベント無視」
「ロマン破壊者」
りりが腕を組む。
「で?」
「で、なに」
「なんで断った」
「今は、そういう気分じゃない」
「気分て」
「犬?」
「犬関係ない」
「でも犬いそう」
「万能すぎ」
布団に倒れ込む。
「マコトさ」
りりが言う。
「自覚ないけど」
「なに」
「結構、罪」
「なにが」
「静かにモテるやつ」
「一番めんどい」
「本人無自覚」
マコトは天井を見る。
「揶揄ってる?」
「愛」
「雑」
電気を消す。
「ねえ」
「なに」
「告白されるの、どんな感じだった?」
「静かだった」
「マコトらしい」
誰かが笑う。
布団の中で、マコトは思う。
修学旅行は、予定外のことが起きる。
でも、それを茶化してくれる人がいるのは、
悪くなかった。