マイペースとギャル   作:5734589

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鹿

 集合時間、早朝。

 眠そうな顔が並ぶ。

 

「無理」

「まだ夢」

「京都遠い」

 

「でも行く」

 

 マコトが言う。

 

「修学旅行だから」

 

「正論つら」

 

 新幹線に乗る。

 座席は自然に固まる。

 

「寝る?」

 

「寝ない」

 

「嘘」

 

 マコトはすぐ目を閉じる。

 

「秒」

 

「早」

 

 京都に着くと、一気に人が増える。

 

「暑」

「人」

「修学旅行生多」

 

「うちらも」

 

 寺、寺、また寺。

 

「説明、頭入らない」

 

「鹿の方が覚えてる」

 

 奈良で鹿に囲まれる。

 

「ねえ!」

 

「来ないで!」

 

「煎餅ない!」

 

 マコトの背後に鹿。

 

「……いる」

 

「いるね」

 

「助けて」

 

「無理」

 

 写真撮られる。

 

「マコト、顔固」

 

「鹿怖い」

 

「意外」

 

「距離感わからない」

 

 宿に着く。

 

「部屋、一緒だって」

 

「五人?」

 

「修学旅行感」

 

 畳の部屋。

 

「荷物どこ置く?」

 

「端」

 

「マコト端好きだよね」

 

「落ち着く」

 

 風呂上がり。

 

「ねえ」

 

「なに」

 

「今日どうだった?」

 

「鹿」

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

「薄」

 

 布団を敷く。

 

「誰から寝る?」

 

「マコト」

 

「確定」

 

 電気を消す。

 

 暗い。

 

「修学旅行さ」

 

 ミオが言う。

 

「告白とかあるらしいよ」

 

「またその話」

 

「ロマンじゃん」

 

「疲れる」

 

 りりが言う。

 

「あたしは、ない」

 

「即答」

 

「マコトは?」

 

「ない」

 

「理由」

 

「静かに寝たい」

 

「それ好き」

 

 しばらく沈黙。

 

「でもさ」

 

 誰かが言う。

 

「こうやって同じ部屋なの、いいよね」

 

「うん」

 

「昼は騒がしいけど」

 

「夜、落ち着く」

 

 マコトが言う。

 

「このメンツ、ちょうどいい」

 

 一瞬、静かになる。

 

「それ」

 

「嬉しい」

 

「言われると照れる」

 

 外から、夜の音。

 

 遠くで、誰かの笑い声。

 

 修学旅行の夜は、

 特別なことが起きなくても、ちゃんと記憶に残る。

 

 その部屋は、

 たぶん、ずっと思い出す場所になる。

 

――――――――――

 

 二日目の夜。

 夕食も風呂も終わって、自由時間。

 

「売店行く人〜」

 

「行く」

 

「マコトも?」

 

「飲み物切れた」

 

 廊下は静かで、少しひんやりしてる。

 

「一人で平気?」

 

「平気」

 

「じゃ、先戻ってるね〜」

 

 ミオが手を振って去る。

 

 マコトは自販機の前で立ち止まる。

 小銭を探してると、

 

「……あの」

 

 声。

 

 振り返ると、同じ学年の男子。

 名前は知ってる。クラスは違う。

 

「どうしたの」

 

「えっと」

 

 一度、息を吸う。

 

「好きです」

 

 一瞬、時間が止まる。

 

「修学旅行の前から」

 

「静かで」

 

「でも、ちゃんと話すと面白くて」

 

「それが」

 

 最後まで言わせる。

 

 マコトは、少し考える。

 

「ありがとう」

 

「でも、ごめん」

 

 即答。

 

「今は、誰とも付き合う気ない」

 

「……そっか」

 

 男子は苦笑いする。

 

「急にごめん」

 

「大丈夫」

 

「変に思わないで」

 

「思わない」

 

「じゃ」

 

 去っていく背中。

 

 マコトは、飲み物を買うのを忘れてたことに気づく。

 

「……買うか」

 

 部屋に戻る。

 

 襖を開けた瞬間。

 

「おかえり〜」

 

「遅かったね?」

 

 りりが言う。

 

「……なにかあった?」

 

 マコト、一瞬黙る。

 

「告白された」

 

 空気が爆発する。

 

「は!?」

「え!?」

「誰!?」

 

「待って情報量!」

 

 りりが布団から起き上がる。

 

「誰から」

 

「同級生」

 

「どんな人」

 

「普通」

 

「普通ってなに!」

 

「イケメン?」

 

「知らない」

 

「知らないで断ったの!?」

 

「断った」

 

「即?」

 

「即」

 

「即断マコト!」

 

 ナナが笑う。

 

「強」

 

「修学旅行イベント無視」

 

「ロマン破壊者」

 

 りりが腕を組む。

 

「で?」

 

「で、なに」

 

「なんで断った」

 

「今は、そういう気分じゃない」

 

「気分て」

 

「犬?」

 

「犬関係ない」

 

「でも犬いそう」

 

「万能すぎ」

 

 布団に倒れ込む。

 

「マコトさ」

 

 りりが言う。

 

「自覚ないけど」

 

「なに」

 

「結構、罪」

 

「なにが」

 

「静かにモテるやつ」

 

「一番めんどい」

 

「本人無自覚」

 

 マコトは天井を見る。

 

「揶揄ってる?」

 

「愛」

 

「雑」

 

 電気を消す。

 

「ねえ」

 

「なに」

 

「告白されるの、どんな感じだった?」

 

「静かだった」

 

「マコトらしい」

 

 誰かが笑う。

 

 布団の中で、マコトは思う。

 

 修学旅行は、予定外のことが起きる。

 でも、それを茶化してくれる人がいるのは、

 悪くなかった。

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