中間テスト返却の日。
教室の空気が、少し重い。
「返すぞー」
先生の声。
名前が呼ばれるたび、
ため息とか、小さな歓声とか。
「りり」
「はーい」
返ってきた答案。
りりは一瞬だけ見て、机に伏せる。
「……まあまあ」
「その言い方、高い」
「察して」
次。
「マコト」
「はい」
マコトは受け取って、静かに見る。
「……」
何も言わない。
昼休み。
五人で集まる。
「で」
ミオが切り出す。
「結果」
「公開タイム」
「りりから」
「やだ」
「絶対高い」
りりは観念して、点数を見せる。
「え」
「普通に良くない?」
「なにそれ」
「頭いいじゃん」
「やめて」
りりは言う。
「ちゃんとやっただけ」
「十分」
次。
「マコト」
「はいはい」
マコトは少し迷ってから、紙を出す。
「……え?」
一瞬、間。
「低くない?」
「りりより下じゃん」
「意外すぎ」
りりが覗き込む。
「マコト?」
「……」
「どうした」
「油断した」
「理由が雑」
「ファミレス行ってた?」
「関係ない」
ナナが言う。
「でもさ」
「うん」
「マコトって勉強できるイメージあった」
「ない」
「ある」
「静=頭いいの偏見」
りりは腕を組む。
「でもさ」
「なに」
「あたしより低いの、なんか」
「ショック?」
「逆」
「安心した」
「なにそれ」
「人間だった」
「失礼」
笑いが起きる。
「期末どうする?」
「勉強会」
「マコト、参加」
「拒否権」
「ない」
「既視感」
マコトは少しだけ苦笑する。
成績は、イメージを裏切る。
でも、そのズレを
笑って受け止める空気が、
もうできていた。
――――――――――
放課後。
駅前。
マコトは一人で歩いてた。
今日は特に目的なし。
「……」
ふと、ラーメン屋の前で足が止まる。
のれん。
券売機。
中を覗いて――
「……え」
見覚えのある後ろ姿。
ユイ。
カウンター席。
目の前には。
でかラーメン。
山。
もやし。
チャーシュー。
「……」
気づかれないように通り過ぎようとして、
「マコト?」
終わった。
「こんばんは」
「なにその距離感」
ユイは振り返る。
「ちょ、見た?」
「見た」
「やば」
「やばい」
「言わないで」
「言う」
「やめて」
マコトは店に入る。
「一人?」
「うん」
「でかくない?」
「前言撤回」
「何が」
「でかいもの食べるの、わたしだけじゃなかった」
「仲間」
「仲間」
ユイはスープを飲む。
「美味しい」
「顔に出てる」
「出てない」
「出てる」
マコトは券売機を見る。
「……普通で」
「逃げた?」
「今日は」
「逃げた」
ラーメンが来る。
「マコトさ」
「なに」
「ハンバーグの話」
「……はい」
「まだ言われてる?」
「定期的に」
「一生言う」
「知ってる」
二人で食べる。
音。
湯気。
「でもさ」
ユイが言う。
「こういうの、いいよね」
「なにが」
「一人で」
「誰にも見せない顔」
「……」
「でも」
「でも?」
「見られると、ちょっと恥ずい」
「わかる」
完食。
「ごちそうさま」
「完走」
「マラソンか」
店を出る。
「ねえ」
「なに」
「これ」
「なに」
「りりに言ったら殺されるかな」
「殺されない」
「じゃあ言う」
「やめて」
マコトは思う。
秘密は巡る。
回って、笑いになる。
今度は、
相手の番だった。