翌日の昼休み、りりは教室の後ろの方で友達と輪になっていた。机を寄せて、コンビニの袋を広げて、スマホを回し見る。笑い声はあるけれど、必要以上に大きくはない。りりがいると、自然とそうなる。
「でさ、昨日のドラマ見た?」
「見た見た」
「主人公、あれはないわ」
恋バナは、ギャルたちの得意分野だ。
誰がどうで、どこが地雷で、何が無理か。判断は早い。
りりはストローを噛みながら、少しだけ間を置いたあと、言った。
「ねえ」
「なに、りり」
「好きってさ、どっからだと思う?」
一瞬、空気が止まる。
それから、すぐに動き出す。
「え、急にどした」
「どっからって、最初からじゃない?」
「一目惚れとかあるし」
「それか、告白された瞬間でしょ」
「分かる。あれ境目じゃん」
答えは軽快で、はっきりしている。
迷いがない。
「でもさ」
りりは続ける。
「気づいたら好き、ってパターンもなくない?」
「あるある」
「でもそれも、後から思えばって感じじゃない?」
「そうそう」
りりは、少し首を傾けた。
「じゃあさ、相手が変わったらどうなる?」
「え?」
「性格とか、考え方とか」
「無理でしょ」
「別れる」
「だって別人じゃん」
即答だった。
迷う余地がないみたいに。
りりは、その反応を否定しなかった。
ただ、ストローを外して、ペットボトルを閉じる。
「追いついてないだけ、ってことは?」
「は?」
「どういうこと?」
「追いつくとかじゃなくない?」
「変わったら終わりでしょ」
言葉は強いけれど、悪意はない。
それが、この輪の心地よさでもあった。
りりは、ふーん、と小さく言った。
「じゃあさ」
「好きって、相手の中に自分がどう置かれてるか気になることじゃない?」
今度は、少し間があった。
「……なにそれ、むず」
「哲学?」
「りり、今日どうした?」
誰かが笑う。
りりも、少しだけ口角を上げた。
「いや、なんとなく」
「なんとなくで出る話題じゃないって」
「でも分かる気もする」
「自分が軽く扱われたら冷めるし」
「それはそう」
話はまた、元のテンポに戻っていく。
ドラマの展開、次のイベント、誰それの噂。
りりはそれを聞きながら、ふと教室の前の方を見る。
マコトは席で、ノートを開いていた。誰とも話していない。
さっきの問いを、もしここで言ったら。
たぶん、また半拍遅れて、ずれた答えが返ってくる。
でもそれは、この輪には投げない。
正解が早く返ってくる場所と、
返ってくるまで待てる場所は、違う。
「りり、どしたの?」
「んー、別に」
りりはそう言って、スマホを取った。
画面には何も映していない。
この話題は、ここでは少しだけ温度が高すぎた。
でも、冷めるほどでもない。
教室という同じ場所で、
同じ昼休みで、
同じ問いが、違う速さで流れていく。
りりはそれを、面白いと思った。
派手な世界と、静かな世界。
どちらかを選ぶ気はない。
ただ、ズレた答えが返ってくる場所を、
ちゃんと覚えているだけだった。