マイペースとギャル   作:5734589

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心地の良いズレ

 翌日の昼休み、りりは教室の後ろの方で友達と輪になっていた。机を寄せて、コンビニの袋を広げて、スマホを回し見る。笑い声はあるけれど、必要以上に大きくはない。りりがいると、自然とそうなる。

 

「でさ、昨日のドラマ見た?」

「見た見た」

「主人公、あれはないわ」

 

 恋バナは、ギャルたちの得意分野だ。

 誰がどうで、どこが地雷で、何が無理か。判断は早い。

 

 りりはストローを噛みながら、少しだけ間を置いたあと、言った。

 

「ねえ」

 

「なに、りり」

 

「好きってさ、どっからだと思う?」

 

 一瞬、空気が止まる。

 それから、すぐに動き出す。

 

「え、急にどした」

「どっからって、最初からじゃない?」

「一目惚れとかあるし」

 

「それか、告白された瞬間でしょ」

「分かる。あれ境目じゃん」

 

 答えは軽快で、はっきりしている。

 迷いがない。

 

「でもさ」

 りりは続ける。

「気づいたら好き、ってパターンもなくない?」

 

「あるある」

「でもそれも、後から思えばって感じじゃない?」

「そうそう」

 

 りりは、少し首を傾けた。

 

「じゃあさ、相手が変わったらどうなる?」

 

「え?」

「性格とか、考え方とか」

 

「無理でしょ」

「別れる」

「だって別人じゃん」

 

 即答だった。

 迷う余地がないみたいに。

 

 りりは、その反応を否定しなかった。

 ただ、ストローを外して、ペットボトルを閉じる。

 

「追いついてないだけ、ってことは?」

 

「は?」

 

「どういうこと?」

 

「追いつくとかじゃなくない?」

「変わったら終わりでしょ」

 

 言葉は強いけれど、悪意はない。

 それが、この輪の心地よさでもあった。

 

 りりは、ふーん、と小さく言った。

 

「じゃあさ」

「好きって、相手の中に自分がどう置かれてるか気になることじゃない?」

 

 今度は、少し間があった。

 

「……なにそれ、むず」

「哲学?」

「りり、今日どうした?」

 

 誰かが笑う。

 りりも、少しだけ口角を上げた。

 

「いや、なんとなく」

 

「なんとなくで出る話題じゃないって」

「でも分かる気もする」

「自分が軽く扱われたら冷めるし」

 

「それはそう」

 

 話はまた、元のテンポに戻っていく。

 ドラマの展開、次のイベント、誰それの噂。

 

 りりはそれを聞きながら、ふと教室の前の方を見る。

 マコトは席で、ノートを開いていた。誰とも話していない。

 

 さっきの問いを、もしここで言ったら。

 たぶん、また半拍遅れて、ずれた答えが返ってくる。

 

 でもそれは、この輪には投げない。

 正解が早く返ってくる場所と、

 返ってくるまで待てる場所は、違う。

 

「りり、どしたの?」

 

「んー、別に」

 

 りりはそう言って、スマホを取った。

 画面には何も映していない。

 

 この話題は、ここでは少しだけ温度が高すぎた。

 でも、冷めるほどでもない。

 

 教室という同じ場所で、

 同じ昼休みで、

 同じ問いが、違う速さで流れていく。

 

 りりはそれを、面白いと思った。

 

 派手な世界と、静かな世界。

 どちらかを選ぶ気はない。

 

 ただ、ズレた答えが返ってくる場所を、

 ちゃんと覚えているだけだった。

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