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放課後。
駅前。
マコトは一人で歩いてた。
本屋に寄る予定。
「……」
前から来る二人組。
見覚えのある後ろ姿。
「……りり?」
隣にいるのは、
背の高い女性。
雰囲気が似てる。
りりが気づく。
「あ」
「マコト」
「こんばんは」
自然に止まる。
「友だち?」
女性が言う。
「そう」
りりが即答。
マコトが軽く会釈する。
「こんばんは」
「同じクラスの、マコトです」
女性はにこっと笑う。
「あー」
「あなたが」
りりが嫌な顔をする。
「ちょ」
「ちょっと」
女性、続ける。
「りりがいつも家で褒めてる子?」
「ちょ!!」
「言うな!!!」
一瞬、時間が止まる。
「……褒めて?」
マコトが聞く。
「してない!」
「してる!」
「してない!」
「してるよ」
姉は楽しそう。
「落ち着いてて」
「静かで」
「ちゃんとしてるって」
「毎回言ってる」
「毎回!?」
「言ってない!!」
りり、耳まで赤い。
「やめて」
「ほんとやめて」
マコトは少し困る。
「……恐縮です」
「ねえ」
姉が言う。
「りりの姉です」
「いつもありがとう」
「いえ」
「こちらこそ」
りりが割って入る。
「もう行くから!」
「はいはい」
姉はマコトを見る。
「じゃ」
「またね」
「りりのこと」
「よろしく」
「……はい」
りり、引っ張る。
「行くよ!」
「待って!」
数歩離れてから、振り返る。
「……忘れて」
「何を」
「今の全部」
「無理」
「最悪」
二人は去っていく。
マコトはその場に少し残る。
知らないところで、
名前が出てくる関係になっていた。
それは、
思っていたより
くすぐったかった。
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昼休み。
教室の隅。
三人、りり、マコト。
パンを食べながら。
「そういえば」
マコトが言う。
りり、嫌な予感。
「昨日」
「なに」
「駅前で」
「……やめて」
「りりと」
「やめてって」
「お姉さんに会った」
空気が止まる。
「は?」
「姉?」
「まじ?」
三人、即反応。
りりは顔を伏せる。
「言うなって」
「事実」
マコトは淡々。
「挨拶したら」
「うん」
「『いつも家で褒めてる子?』って」
「やめろ!!!!」
机を叩く。
「最悪」
「最悪じゃない」
「最悪」
三人、爆笑。
「なにそれ!」
「可愛すぎ!」
「家で言ってるんだ!」
「言ってない!!」
「言ってるって!」
りりは耳まで赤い。
「違う!」
「盛られてる!」
マコトは首を傾げる。
「盛ってない」
「そのまま」
「お姉さんが言ってた」
「裏切り」
ナナが追撃。
「内容は?」
「何褒めてた?」
「気になる」
マコト、少し考える。
「落ち着いてる」
「静か」
「ちゃんとしてる」
りりが叫ぶ。
「言うな!!!」
「全部言うな!!!」
教室の何人かが見る。
「静かにしろ」
先生の声。
りりは机に突っ伏す。
「死ぬ」
「死なない」
マコトは言う。
「……悪いとは思ってない?」
「思え」
「でも」
「なに」
「ちょっと嬉しかった」
りり、顔を上げる。
「……は?」
三人、息を止める。
マコトは続ける。
「褒められるの、嫌じゃない」
沈黙。
次の瞬間。
「はいはいはい!!」
「尊い!」
「やばい!」
りりは顔を覆う。
「もうやだ」
「なんで言うの」
マコトは小さく笑う。
秘密は、
広げると騒がしくなるけど、
嫌な形では広がらなかった。
りりの耳は、
最後まで赤かった。