マイペースとギャル   作:5734589

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割り込みじゃなくて、覚悟の話

 昼休みのチャイムが鳴ると同時に、教室が動き出す。

 机を押す音、椅子の足が床をこする音。全部が重なって、少しうるさい。

 

「購買、行く?」

 

 りりが言う。

 

「行く」

 

 マコトは即答だった。

 

 廊下に出ると、人の流れが一気に速くなる。

 二人はそれに乗らず、端を歩く。

 

「今日さ」

 

「なに、マコト」

 

「パン、残ってるかな」

 

「残ってるでしょ」

 

「人気のやつはすぐ消える」

 

「執着あるんだ」

 

「お腹空いてる」

 

「正直」

 

 購買前はすでに列ができていた。

 りりはためらわず最後尾に並ぶ。

 

「マコト、なに狙い」

 

「メロンパン」

 

「王道だね」

 

「りりは?」

 

「まだ決めてない」

 

「決めないで来たの」

 

「見てから決める派」

 

「それで迷うでしょ」

 

「迷う時間も込み」

 

 列が進む。

 ガラスケースの中のパンが、少しずつ減っていく。

 

「あ」

 

 マコトが小さく声を出す。

 

「メロンパン、残り一個」

 

「取る?」

 

「……取る」

 

「なら急ぎな」

 

「割り込まないよ」

 

「割り込みじゃなくて、覚悟の話」

 

 マコトは少しだけ前に詰める。

 順番が来て、メロンパンを手に取る。

 

 ほっとした顔。

 

「よかったね」

 

「うん」

 

「顔に出てる」

 

「出てない」

 

「出てる」

 

 りりはケースを眺める。

 

「焼きそばパンと、クリームパンで迷う」

 

「りり、甘党?」

 

「気分」

 

「今日は?」

 

「しょっぱい気分」

 

「じゃあ焼きそば」

 

「でも甘いのも捨てがたい」

 

「半分こすれば」

 

「……それ、最初から言えばよかったじゃん」

 

「今思いついた」

 

「雑」

 

 りりは焼きそばパンを一つ、クリームパンを一つ取る。

 

「分ける?」

 

「いいの?」

 

「一個ずつ食べると多い」

 

「合理的」

 

 会計を済ませて、教室に戻る。

 席に着く前に、りりがパンを割る。

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 マコトはクリームパンを一口かじる。

 

「……甘」

 

「顔」

 

「今度こそ出てない」

 

「出てる」

 

 焼きそばパンを一口食べて、りりが言う。

 

「マコト、選ぶの遅いけど」

 

「うん」

 

「決めたら迷わないよね」

 

「後悔したくないから」

 

「メロンパンで?」

 

「メロンパンで」

 

 少し笑う。

 でも声は出さない。

 

「りりはさ」

 

「なに」

 

「どっちも選ぶの、ずるい」

 

「選べない時は、増やす主義」

 

「強い」

 

「マコトもそのうち覚えるよ」

 

「なにを」

 

「一個に決めないやつ」

 

 チャイムが鳴る。

 二人は急いで食べるわけでもなく、最後の一口をかじった。

 

 購買のパンは、ただの昼ごはんだ。

 でも、その選び方だけで、

 今日も二人はちゃんと並んでいる気がした。

 

 

 放課後のファミレスは、夕方と夜の間にある。

 部活帰りの声と、仕事終わりの疲れが、同じ空間に溜まっている。

 

 りりとマコトは、窓際の席に通された。

 四人掛けなのに、向かい合って座る。

 

「ここ、静か」

 

 りりが言う。

 

「ファミレスにしては」

 

「うるさすぎるよりいい」

 

「同意」

 

 メニューを開く。

 写真が多くて、選択肢が多い。

 

「マコト、決まった?」

 

「まだ」

 

「さっきから開いてるページ同じじゃん」

 

「悩んでる」

 

「なにで」

 

「ドリンクバー付けるか」

 

「付けな」

 

「そんな簡単に?」

 

「だって長居するでしょ」

 

「……読むな」

 

 店員を呼んで注文する。

 りりは軽め、マコトは結局ドリンクバー付き。

 

「で」

 

 りりがストローをかじりながら言う。

 

「今日は、なんで来た」

 

「帰るの、もったいなくなった」

 

「わかる」

 

「目的ないとダメ?」

 

「ダメじゃない」

 

「ならいい」

 

 ドリンクバーで取ってきた飲み物を、マコトが一口飲む。

 

「……微妙」

 

「なに入れたの」

 

「全部」

 

「全部?」

 

「全部」

 

「それ失敗するやつ」

 

「今わかった」

 

 りりは笑わない。

 でも、目はちょっと面白そう。

 

「交換する?」

 

「いいの」

 

「飲めないほどじゃないでしょ」

 

「まあ」

 

 二人はグラスを入れ替える。

 りりは何も言わず飲む。

 

「……甘」

 

「でしょ」

 

「でも嫌いじゃない」

 

「そういうとこだよ」

 

「なに」

 

「マコトの」

 

「雑」

 

 料理が来るまで、特に話すことはない。

 スマホを見るでもなく、外を見る。

 

「ねえ」

 

 りりが言う。

 

「なに」

 

「ファミレスってさ」

 

「うん」

 

「時間、薄くなるよね」

 

「わかる」

 

「家ほど落ち着かないし」

 

「外ほど気張らない」

 

「中途半端」

 

「ちょうどいい」

 

 料理が運ばれてくる。

 りりは箸を取って、少し食べる。

 

「味どう」

 

「普通」

 

「それ一番信用できる」

 

「褒めてる?」

 

「かなり」

 

 マコトはポテトを一本取る。

 

「りりさ」

 

「なに」

 

「こういうとこ、友だちと来る?」

 

「来る」

 

「でも今日は?」

 

「マコトだった」

 

「理由」

 

「友だちだし」

 

「……即答じゃないのに」

 

「慣れた」

 

 ドリンクをおかわりする。

 氷の音が小さく鳴る。

 

 周りの席から笑い声が聞こえる。

 誰かの誕生日らしい。

 

「楽しそう」

 

 マコトが言う。

 

「うん」

 

「羨ましい?」

 

「別に」

 

「わたしも」

 

 夜が近づいて、店の外が暗くなる。

 

「そろそろ出る?」

 

「もうちょい」

 

「了解」

 

 時計は見ない。

 会計のタイミングも決めない。

 

 ただ、同じ席で、

 同じ時間を溶かしていく。

 

 ファミレスは、目的地じゃない。

 帰り道の途中にある、

 どこでもない場所。

 

 でも今日は、

 そこに二人でいる理由が、

 ちゃんとあった。

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