「全力や、出し切って終わるでェ!!」
投射呪法を刻む。
加速する。
術式反転、その効果は1秒間を48フレームに分け、そのフレーム数が続く限り無限に1秒を引き伸ばす。
複利により1秒間の経過がどんどん遠のく、数秒と経てば直哉の認識では数百秒以上経過している。
その状態で投射呪法の順転を重ね掛けする。
加速の複利と減速の複利を同時に合わせることで直哉は1秒間に数倍以上の加速を獲得出来る。
「どうせついてくるやろ」
五条悟はこちらをしっかりと認識している。その指がこちらに向いてくるのが見える、少しずつ反応が追いついてきている。
「でも関係あらへんねん、最高速度で」
こちらに完全に照準が合わさった時、既に直哉は拳を繰り出していた。
「ぶち抜いたる!!!」
拡張術式、極の番、カレイドスコープ。
直哉の速度と精密性による空間のフリーズはまたたく間に五条悟を覆う。
「もう止まれへん!呪力も少ないんや!全部出しきったんでぇ!!」
五条悟は笑っている、手応えはある、火力も申し分ない、だと言うのに。
「腕ちぎり飛ばしたるわ!」
反応速度が異常なまでに早い。
「術式順転・蒼」
直哉の身体が引っ張られる、反転だけを重ね掛けしてフリーズを回避、その力を利用してさらに加速、大きく弧を描き加速を続ける。
「術式反転・赫」
赤い光が飛んでくる、受け止めるなど愚の骨頂、どうせ避けようとしても蒼で引き寄せてくるやろ、なら。
悪いな夏油君。
「おや、人気だね?」
夏油傑をフリーズさせようと触れた瞬間夏油傑もこの加速についてきおった、なんでやれんねんボケ。
赫が夏油傑に直撃する。
夏油傑の代わりに特級呪霊が一体消し飛んだ、その代わりに夏油傑は無事。
夏油傑の加速が終わる、また置いていかれた夏油傑を放置して五条悟へと向かう。
「九綱 偏光 烏と声明 表裏の間」
呪力が跳ね上がる、極の番?いや違う、俺の知らん拡張術式か?
何はともあれもう真正面、逃げられへんねん!
全力でぶち抜いたるわ!
「虚式《茈》」
消滅させる様な圧力の籠った壁が迫る。
もう避けられへん、食らったら間違いなく死ぬ、さっきまでの自信が一気に砕けるような音がする。
でも
「最強になるんは」
それは雑魚の思考だ。
「俺やァ!!!」
既に1秒で数千の加速を重ねられる今、これを凌ぐために全力で回す。
全ての呪力を使い、組み立てるのは黒閃だ。
思い描くのは伴侶の姿、その纏うような稲妻は火花と言うにはなり過ぎている。
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間
空間は歪み
呪力は黒く光る
それが連続するから電気を纏ったような音になる。
何十倍もの時間をかけて練り上げたその姿を直哉はこう名付けた。
「【黒雷】」
《茈》の当たるその瞬間に直哉は覚醒した。
《茈》を放った五条悟は息をつく、終わったのだと冷静な頭が少しぼんやりとして来るのを頬を叩いて気付けする。
「まだや」
血塗れで、ボロ雑巾のようになっても尚、目の前の男は立っている。
黒雷を発動した直哉は全力で《茈》に対してラッシュを叩き込んだ、直哉の体感では1時間以上殴り続け、その結果、ギリギリのところで命を繋いだ。
腕は両腕とも消し飛び、足も左脚がへし折れていても、直哉はしっかりと五条悟を見つめていた。
「まだや!!!」
黒い稲妻が地面を走る、血まみれの身体で真正面から突撃する直哉の頭突きが、五条悟に反応させる暇もなく顎に直撃する。
五条悟は、敗北した。
べしゃりと地面に倒れ込み2人はそのまま気絶した。
ーーーーー
その様子を満面の笑みで見ている男が居た。
「素晴らしいと思うよ、2人とも。」
拍手もしている、途中で赫を食らうも特級呪霊の数がいい加減底をついてきたので戦闘に割り込めなかった夏油傑である。
「なんだ、やらねぇのか?」
「フフ、僕も少し考えていたのさ。」
傷が回復した甚爾が唯一人立っている夏油を見て状況を把握しようとする。
「悟達は個の最強になった。」
夏油は静かにそうつぶやいた。
「単体戦力としての最強だ、彼等を止められるものは互いのみと言えるほどの高みに至ってしまった。」
夏油はまだその領域にいけていない。
「私ではその領域にはいけないのだろうと、そう思った」
「へぇ、ここまで戦えるお前がそう言うのか?」
夏油は甚爾に振り向いて両手を広げた。
「否だ」
甚爾はその様子をドン引きしながら無言になる。
「悟達が個の最強だというのなら」
「私は群の最強になる」
夏油と五条悟は実力が近い強者だった。
その道は交わって同じ道を歩んでいた。
夏油はそこから離れる事を選んだ。
「今なら使える、私の!群の最強としての力を!」
呪力が集まっていく、今まで取り込んできた呪霊たちのストックは切れている、それでも残った特級呪霊7体がそこに出現する。
「君も見ていてくれないか、術式の開示で出力を上げたい」
「・・・とりあえず見ておくが、何をするつもりだ?」
夏油はニヤリと笑った。
「特級呪具の作成さ、私だけのね」
夏油は取り出した特級呪霊達を一つの大きな黒い球体にし始めた。
「極の番、というものを、さっき禪院直哉は使っていたね、それはある種の奥義、領域とは違う一つの極致だ。」
術式の開示、の前段階の知識、それならば甚爾も把握している縛りとしての出力を高める為にあえて説明しているのだろう。
「私の極の番はうずまきという、これらは呪霊たちを今のように圧縮し、それを解放することによって呪霊たちの呪力で砲撃する技だった、悟の赫のような物だ。」
「だがそれでは足りない、あの《茈》を見て分かった。」
呪霊玉が小さくなっていく。
「だからコレは、私だけの最強に至るための極の番」
飴玉ほどに小さくなったそれを夏油は飲み込む。
「特級渦呪霊具【蠱呪ミサキ】」
飲み込んだ瞬間、夏油の身体からは絶え間なく呪力が迸る、その圧は先ほどの《茈》にも劣らない。
「私は今、捧げた特級呪霊7体の魂の情報を下ろし、極小の呪霊玉に転写している。」
「それが出来ると何が出来んだ?」
「呪力が育てば複製された特級呪霊が出来上がる。」
甚爾は今度こそ本当の意味でドン引きした、それはもはや呪詛師の領域ではなかろうかと。
「もちろん出来上がるまでには時間がかかるし出来上がったとしても術式を持っているとは限らない、術式は魂に刻まれているとは言え身体があるからね」
「だけどコレは発展途上だ、私はコレから領域を持つ呪霊と蠅頭以外を呑み込めなくなる」
それは呪霊操術においてはかなり重い縛り、呪霊操術の強みは取り込んだ呪霊の呪力がそのまま使えること、他の呪霊の呪力を使い回して強化することも可能な上、強化された呪霊はかなり強くなる、それこそ並の術師では術式持ちであっても苦戦するほどに。
「その代わり、取り込んだ呪霊は全て記録され、複製された個体ならば自由に取り出せるようになる。」
その言葉が示す事は。
「私はこの縛りを用いて、群の最強を目指す。」
特級呪霊を軍隊のように並べる、群れとしての強さの証明であった。
「・・・ここまでが僕の示す最強までのプランだ、どうかな?」
「・・・お前もしっかりイカれてるよ。」
「ありがとう、じゃあ渡愛ちゃんのところに行こうか」
そう、この2人、夏油が術式の改変をしている最中も死にかけている五条悟と禪院直哉を放置しているのである。
「だな、お前は五条悟の方持てよ、俺はこっち」
「腕やら何やらが取れてるソッチのほうが軽いでしょ、僕がそっちだ」
「は?」
「うん?」
どちらが軽い方を持つかでバチバチとぶつかる夏油傑と伏黒甚爾、どっちも掛け値なしのカスである。
「なおやー!治しに来たよー!」
「行く必要なくなったわ、そんじゃ暫く待っておこうぜ。」
「良いのかい?」
甚爾は肩をすくめる、自分が味わった事に比べたら既に他は些事である。
「じゃあ理子ちゃんよろしく!」
【任され・・・いやほんとに死んでおらぬよな!?】
足が3本のカラスから凄まじく聞き覚えのある少女の声がする、夏油は頭が痛くなってきていた。
【取り敢えず!はい!】
カラスから羽根が飛ばされ、2人に突き刺さる、するとゆっくりとだが千切れていた足やら腕やら頭やらが再生していくのが分かった。
2分もしない内に二人は無傷の状態で眠っており、呼吸なども安定していた。
「あー、あそこで一体何が起きたの?」
【うむ!生まれ変わったぞ!】
「違うよ!魂を移動させたの!」
【変わらぬであろうが!】
「変わるって!!!」
やかましい二人の声がさっきまでの戦いの興奮が静かになっていくのを感じた夏油傑は少し吹き出した後に倒れた。
「【急患ンンン!!!!】」
甚爾はため息混じりに一言呟いた。
「締まらねぇなこいつら・・・」
勝者なし、それでも最強は生まれた戦いだった。
五条の強化原作と同じじゃね?とか言ってはいけない、アレは五条がおかしいだけ、個としての最強がもう一人居るんだから我慢してくれ。
俺もきたで、こっち側って直哉に言わせたかったけどそんなこと言える状態じゃねえなってなってキャンセルされた。
夏油のやり方は呪霊操術使いなら多分みんな少なからずやってる、夏油の場合は特級呪霊相当以外使えない代わりに特級呪霊の手札がそのまま複製されるとこ。
同じ見た目なのに使い方も考え方も何もかも違う呪霊の集団とか特級連中以外はまず戦わないだろうなって。
あとここの夏油はうずまきで術式の抽出ができることにまだ気付いていません。
次からまた幕間かな・・・