・加茂渡愛を好きになること
・加茂渡愛と結婚すること
・他人から感謝されること
・浮気をしないこと
・他人を虐めないこと
躯倶留隊
・渡愛と試合して負けたら呪力を使わず筋肉痛になるまで訓練
禪院蘭太
・渡愛と試合をして負けたら3日間呪力無しで訓練参加
「・・・」
「・・・」
禪院甚壱は、困惑していた。
少し前から禪院家に来た加茂渡愛が、こちらをじっと見つめていたからである。
「おっきい・・・」
幼子である彼女からしてみれば自らの倍近くはある身長に胴ほどの太さの筋肉がついた男はそれはそれは大きく見えるだろう。
だが甚壱は知っている、この子供は大きさなど当てにならないということを。
この家に来た初日に躯倶留隊を全員伸した上でそのまま蘭太と直哉を下した、術式も使わずに。
術式持ちである事は直哉と彼女自身が公言している、隠す必要もないが、内容を言うほどでもないという2人の言葉は文字通りの意味なのだろう、少なくとも戦闘向きではないのは確か。
それでも、躯倶留隊を含めた禪院家に居る戦闘部隊は壊滅させられている。
その事実に話を聞いた甚壱は空を仰ぎ見ることになったのは記憶に新しい。
「何か用か」
「ん〜」
それでも、甚壱は困惑するしかない。
「肩車、してもらえませんか!」
そこらにいるただの子供にしか見えない笑顔で、自らに要求してくるのだから。
ーーーーー
「あっははははは!!!」
根負けした甚壱の様子に直哉は腹を抱えて爆笑している。
いくら幼児相手といえども恥は恥、肩車をしている筋肉モリモリの傷だらけの男は尊厳など感じられないだろうが、それでも人目を憚らず爆笑されるのは心に来る。
「甚壱君にはほんとに似合わんのやね、その姿」
直哉の言う通りである、少なくとも子育てなどした事も見たこともない、それらは女中のやる事だ。
【縛りに違反しました、縛りの内容は【他人を虐めない事】違反した直哉様は渡愛様による罰が執行されます】
「え」
頭に居る幼子が拳を振り下ろす、その動作と同時に直哉の頭から黒い火花が迸る。
頭を押さえて転がる直哉を見て甚壱は自らの術式と似たような事を行う娘に驚いていた。
「直哉ーちっちゃーい」
「そんだけ高みから見てたらそうやろなぁ!?」
直哉ですら生意気な子供くらいにしか見えないのだからこの幼子は面白くもある。
「甚壱君、この阿呆に目にもの見せてくれん?なんかの任務で援護したるからさ!」
「あー!直哉ずるい!私だって任務に行きたいのに!」
婚約者を仕事場に連れていくことになるのは良いのだろうかと、禪院らしくない考えが浮かぶ程に場違いな空気を、甚壱は悪くないとも思うのだった。
黒閃を叩き込まれている直哉と、己の髪を掴んで振り回す幼子の二人は、禪院家を変える可能性があるのかもしれない。
それはそれとして。
甚壱は訓練場に立っていた、渡愛の縛りによって全ての炳と戦わなければならなくなっている事を本人から言われた為である。
勝負であれば何でもいいらしいのだが禪院家は呪術師の家系、そういった勝負は戦闘であってこそだろう。
黒閃で暴れまわる様は既に見たことがある、建物も人も何もかもが黒い稲妻で吹き飛ばすさまは弟の様な暴力の化身とも言える。
弟を相手にするつもりで相手をしなければ、対処することすらできない。
「いったいわホンマ、何発ぶち込んでくんねん渡愛は・・・号令かけるでー、準備はええかー?」
「良いよー!」
「何時でも良い。」
術式を発動する準備は既にしている、覚悟も終わった。
「よーい!」
始めの声と共に轟音が鳴り響く、渡愛の速度は黒閃の威力で底上げされ、体を前に押し出す衝撃で高速機動を成している。
見える、成長すれば肉体が耐えられる故に見えなくなるかもしれないが、今は、まだ見える。
目で追うな、相手のすべてを見て掴む。
渡愛は、甚爾ではない、まだ弟ほど並外れた存在ではない!
術式を発動する。横にフックを撃ち込んで渡愛は横に飛んでいく。
捉えられたことに驚きの表情を隠せていない渡愛は次の瞬間には目をキラキラと輝かせた。
本気で打ち込んだ筈だが全く気にもとめていない、呪力操作が完璧過ぎる。
「嫌になるな、才能というものは」
地面にしっかりと立ち、勢いを殺しきった渡愛は撹乱のために地面を蹴り、石礫の散弾を浴びせかけてくる、防げば近づき、避ければ回る択の押し付け。
だが、甚壱の術式は、それらを逆転させる事ができる術式である。
拳を腰から下に構え上へ突き上げるアッパーの構え、出現位置は、渡愛の顎の下。
「ふぎゅ!?」
炳ともなれば石の散弾などただの煙幕にしかならない、躯倶留隊であれば間違いなく有効打になり得るし、成長途中の直哉と蘭太もまた同様、だが俺にはそれは通じない。
「いたーい!!」
「痛くしている、来い」
渡愛は、涙目になりながらも元気に突撃してくる。
真正面から戦わなければ、やりようはいくらでもあるのだ。
暫く甚壱と渡愛の闘牛士と闘牛の様な荒々しいやり取りが続く。甚壱は呪力量に余裕がなくなり、汗が吹き出し息も荒くなってきている。
渡愛も全力で動き回っているため、黒い稲妻が不発になる事もそれなりに増えてきた。
現在の戦闘時間は2時間43分21秒、最多であり、仮にも禪院甚爾の兄である甚壱の、長い長い意地の成果であった。
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
「んーにゃー!」
双方ともに限界、埒が明かず、焦れったい気持ちになった渡愛は最後の一撃を叩き込む為に一度止まる。
「コレで最後ね!長いもん!!!」
「ふはは、まだまだ遠いな、渡愛よ」
甚壱に余裕はもはやない、全力を出しても普段の六割も出せれば上出来な程追い込まれている。
だがそれでも、相手の数倍は生きている人間としての意地はある。
最後まで張るのが男であろう。
「おーりゃー!」
轟音、見慣れてきた黒い稲妻が真っ直ぐに来る、甚壱はまだ一度も見せていない札をここで切った。
未来に置いて、逕庭拳と呼ばれることになる、打撃の後に追いつく呪力に当たることで発動する、二手の攻撃、の順番を逆転させた、甚壱だけの小手先の一撃である。
術式を発動する、拳の少し前に見てもわからないほどの薄皮1枚分遠くに術式による拳を置く、それによる効果は、すぐに現れる。
黒閃はそもそもが発動条件の厳しい現象だ。
それを意図的に崩された時、起こるのは必然の、黒閃の不発。
目を見開いた渡愛の目の前には、術式ではない拳があった。
「意地は、見せたぞ」
勝者、禪院甚壱、総戦闘時間2時間45分2秒、男の意地と経験の勝利であった。
この戦い以降、禪院甚壱は躯倶留隊から明確に支持され、当主争いにおいて、他よりも間違いなく一歩先に出ることになる。
誰よりも甚爾を知ってるから黒閃打てるだけの子供には負けられない甚壱の意地です、成長したら普通に逆転するのを実感していますがそれでも勝ちは勝ち、ナイスファイト。
直哉
「何やあの最後の奴は、黒閃が意図的にずらされとった?遠くて分からんかったな・・・まぁええわ、渡愛には説教やなぁ」
存外冷静、本人の気質を最大限利用されたので文句無し、侮りも油断もなかったうえでの勝負なので納得済みの直哉である。