――このルートは、理屈だ。
感情じゃない。
勢いでもない。
ノリでもない。
ただ、淡々と進む。
淡々と進むのに。
一番戻れない。
コウキは、静かに人を追い詰める。
言葉は少ない。
態度は冷たい。
でも、目だけは嘘をつかない。
シンオウの雪みたいに冷たくて。
シンオウの山みたいに動かなくて。
シンオウの湖みたいに深い。
そして。
気づけば俺は、その「深さ」に沈んでいる。
シンオウ地方。
トバリシティ。
夜。
俺はポケモンセンターの前で、壁にもたれていた。
「……またかよ」
スマホが震える。
連絡帳。
通知。
悪の組織。
神。
呪い。
全部が、俺を呼ぶ。
俺はスマホを見ずに、ため息だけ吐いた。
「……俺は何なんだよ」
その時。
「……うるさい」
背後から声がした。
男の声。
低い。
淡々としてる。
俺は振り返った。
そこにいたのは、少年。
短髪。
鋭い目。
無駄のない立ち方。
そして、異様に落ち着いた雰囲気。
コウキ。
俺は言った。
「……誰だよ」
コウキは言った。
「コウキ」
俺は言った。
「それだけ?」
コウキは言った。
「十分だろ」
俺は思った。
(こいつ……会話する気あるか?)
コウキは俺のスマホを一瞬だけ見て、目を細めた。
「……連絡帳?」
俺は言った。
「見るな」
コウキは言った。
「隠すな」
俺は言った。
「……は?」
コウキは淡々と続けた。
「隠すほど、危険なものなんだろ」
俺は言った。
「……危険だよ」
コウキは頷いた。
「じゃあ放置するな」
俺は固まった。
その正論。
まっすぐ過ぎて痛い。
コウキは続ける。
「危険なら、対策しろ」
俺は言った。
「対策できないから困ってんだろ」
コウキは言った。
「できる」
俺は言った。
「できねぇよ」
コウキは言った。
「できる」
俺は思った。
(こいつ、同じ言葉で殴ってくるタイプだ)
コウキは言った。
「……お前」
俺は言った。
「お前って言うな」
コウキは言った。
「じゃあ、八雲零」
俺は固まった。
「……なんで知ってんだよ」
コウキは言った。
「有名だから」
俺は言った。
「……どこで」
コウキは言った。
「シンオウで知らない奴いない」
俺は思った。
(嫌だなそれ)
コウキは淡々と続けた。
「お前、チャンピオンだったんだろ」
俺は言った。
「……元な」
コウキは言った。
「元でも同じだ」
俺は言った。
「違うだろ」
コウキは言った。
「違わない」
俺は思った。
(こいつ……口数少ないのに刺してくる)
翌日。
俺はなぜかコウキと行動していた。
理由は簡単。
断る暇がなかった。
コウキは言った。
「まず、飯」
俺は言った。
「……は?」
コウキは言った。
「お前、顔色悪い」
俺は言った。
「大丈夫だ」
コウキは言った。
「大丈夫じゃない」
俺は言った。
「……根拠は」
コウキは言った。
「俺の経験」
俺は思った。
(こいつ、意外と重い人生歩んでるな)
飯を食った後。
コウキは言った。
「次、ポケモンの回復」
俺は言った。
「もう回復してる」
コウキは言った。
「心が回復してない」
俺は固まった。
心。
その単語が、こいつの口から出るのが意外すぎた。
コウキは言った。
「……戦うなら」
「まず自分を整えろ」
俺は言った。
「お前、何者だよ」
コウキは言った。
「普通のトレーナー」
俺は言った。
「嘘つけ」
コウキは言った。
「嘘じゃない」
俺は思った。
(こいつ、普通の皮被った異常者だ)
夕方。
テンガン山の麓。
風が冷たい。
俺は言った。
「……ここ、懐かしいな」
コウキは言った。
「ギンガ団の事件、ここだ」
俺は言った。
「知ってるのか」
コウキは言った。
「当たり前だろ」
俺は思った。
(こいつ、感情ないようで全部覚えてる)
コウキは俺を見て言った。
「お前」
俺は言った。
「なんだよ」
コウキは言った。
「後悔してるか」
俺は固まった。
突然すぎる。
でも。
俺は答えられなかった。
コウキは淡々と続けた。
「お前の目」
「後悔で埋まってる」
俺は言った。
「……見えるのかよ」
コウキは言った。
「見える」
俺は思った。
(こいつ、心読むタイプか?)
その時。
スマホが震える。
連絡帳。
嫌な予感。
俺は顔をしかめた。
「……来た」
コウキは言った。
「見ろ」
俺は言った。
「……お前、怖くないのか」
コウキは言った。
「怖い」
俺は驚いた。
コウキは続けた。
「怖いから、見ろ」
俺は思った。
(この理屈、強すぎる)
俺はスマホを開いた。
通知。
【アルセウス:呼び出し】
俺は吐きそうになった。
「……最悪」
コウキは言った。
「逃げるな」
俺は言った。
「逃げたい」
コウキは言った。
「逃げたいなら逃げろ」
俺は固まった。
「……は?」
コウキは言った。
「でも、逃げるなら」
「俺も連れて行け」
俺は息を止めた。
コウキは続ける。
「一人で逃げるのは」
「ただの自殺だ」
俺は思った。
(こいつ……重いこと言うな)
空が割れる。
テンガン山が震える。
アルセウスが現れる。
俺は呟いた。
「……またお前かよ」
アルセウスが言う。
『零』
『選べ』
『神になるか、呪いに沈むか』
俺は笑った。
「選ばせるの好きだな」
その時。
コウキが前に出た。
「……アルセウス」
アルセウスが沈黙する。
コウキは言った。
「お前、暇か?」
俺は吹きそうになった。
アルセウスが言う。
『……何?』
コウキは淡々と続ける。
「こんなことしても」
「誰も幸せにならない」
アルセウスが言う。
『それでも運命だ』
コウキは言った。
「運命じゃない」
「お前の気分だ」
俺は思った。
(こいつ、口喧嘩強すぎる)
コウキは続けた。
「零は壊れかけてる」
「それでも試すなら」
「俺も相手をする」
俺は固まった。
コウキが俺の隣に立つ。
それだけで。
背中が軽くなった。
アルセウスが言う。
『……面白い』
光が降りる。
スマホが震える。
連絡帳が更新される。
【コウキ:共闘】
俺は呟いた。
「……共闘?」
コウキは言った。
「当然だ」
俺は言った。
「……お前、なんでそこまで」
コウキは少しだけ目を細めた。
「俺も」
「一人は嫌だから」
俺は息を止めた。
こいつ。
冷たいようで。
孤独の痛みだけは知ってる。
夜。
テンガン山の麓。
俺は言った。
「……お前、俺のこと嫌いじゃないのか」
コウキは言った。
「嫌いなら来ない」
俺は言った。
「それだけ?」
コウキは言った。
「それだけで十分だ」
俺は思った。
(こいつの言葉、少ないのに重い)
コウキは言った。
「零」
俺は言った。
「……なんだよ」
コウキは言った。
「お前は強い」
「でも強い奴ほど、折れる」
俺は黙った。
コウキは続けた。
「折れる前に」
「俺を使え」
俺は笑った。
「……言い方」
コウキは言った。
「事実だ」
俺は息を吐いて、少しだけ肩の力を抜いた。
「……分かったよ」
コウキは頷いた。
「それでいい」
このルートは、恋愛じゃない。
友情でもない。
師弟でもない。
ただ。
戦友。
理屈で繋がった、冷たい絆。
でもその絆は。
誰より熱かった。
俺は思った。
(このルート、戻れねぇな)
なぜなら。
こいつが隣にいると。
俺は「逃げる理由」を失うからだ。
コウキルート 完
(※このルートの八雲零は、シンオウの冷たさに救われて、もう一度“戦う理由”を拾う)