チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

100 / 109
コウキルート編

――このルートは、理屈だ。

感情じゃない。

勢いでもない。

ノリでもない。

 

ただ、淡々と進む。

 

淡々と進むのに。

一番戻れない。

 

コウキは、静かに人を追い詰める。

言葉は少ない。

態度は冷たい。

 

でも、目だけは嘘をつかない。

 

シンオウの雪みたいに冷たくて。

シンオウの山みたいに動かなくて。

シンオウの湖みたいに深い。

 

そして。

気づけば俺は、その「深さ」に沈んでいる。

 

シンオウ地方。

トバリシティ。

夜。

 

俺はポケモンセンターの前で、壁にもたれていた。

「……またかよ」

 

スマホが震える。

連絡帳。

通知。

 

悪の組織。

神。

呪い。

 

全部が、俺を呼ぶ。

 

俺はスマホを見ずに、ため息だけ吐いた。

「……俺は何なんだよ」

 

その時。

「……うるさい」

 

背後から声がした。

 

男の声。

低い。

淡々としてる。

 

俺は振り返った。

そこにいたのは、少年。

 

短髪。

鋭い目。

無駄のない立ち方。

そして、異様に落ち着いた雰囲気。

 

コウキ。

 

俺は言った。

「……誰だよ」

 

コウキは言った。

「コウキ」

 

俺は言った。

「それだけ?」

 

コウキは言った。

「十分だろ」

 

俺は思った。

(こいつ……会話する気あるか?)

 

コウキは俺のスマホを一瞬だけ見て、目を細めた。

「……連絡帳?」

 

俺は言った。

「見るな」

 

コウキは言った。

「隠すな」

 

俺は言った。

「……は?」

 

コウキは淡々と続けた。

「隠すほど、危険なものなんだろ」

 

俺は言った。

「……危険だよ」

 

コウキは頷いた。

「じゃあ放置するな」

 

俺は固まった。

 

その正論。

まっすぐ過ぎて痛い。

 

コウキは続ける。

「危険なら、対策しろ」

 

俺は言った。

「対策できないから困ってんだろ」

 

コウキは言った。

「できる」

 

俺は言った。

「できねぇよ」

 

コウキは言った。

「できる」

 

俺は思った。

(こいつ、同じ言葉で殴ってくるタイプだ)

 

コウキは言った。

「……お前」

 

俺は言った。

「お前って言うな」

 

コウキは言った。

「じゃあ、八雲零」

 

俺は固まった。

「……なんで知ってんだよ」

 

コウキは言った。

「有名だから」

 

俺は言った。

「……どこで」

 

コウキは言った。

「シンオウで知らない奴いない」

 

俺は思った。

(嫌だなそれ)

 

コウキは淡々と続けた。

「お前、チャンピオンだったんだろ」

 

俺は言った。

「……元な」

 

コウキは言った。

「元でも同じだ」

 

俺は言った。

「違うだろ」

 

コウキは言った。

「違わない」

 

俺は思った。

(こいつ……口数少ないのに刺してくる)

 

翌日。

俺はなぜかコウキと行動していた。

 

理由は簡単。

断る暇がなかった。

 

コウキは言った。

「まず、飯」

 

俺は言った。

「……は?」

 

コウキは言った。

「お前、顔色悪い」

 

俺は言った。

「大丈夫だ」

 

コウキは言った。

「大丈夫じゃない」

 

俺は言った。

「……根拠は」

 

コウキは言った。

「俺の経験」

 

俺は思った。

(こいつ、意外と重い人生歩んでるな)

 

飯を食った後。 

コウキは言った。

「次、ポケモンの回復」

 

俺は言った。

「もう回復してる」

 

コウキは言った。

「心が回復してない」

 

俺は固まった。

 

心。

その単語が、こいつの口から出るのが意外すぎた。

 

コウキは言った。

「……戦うなら」

 

「まず自分を整えろ」

 

俺は言った。

「お前、何者だよ」

 

コウキは言った。

「普通のトレーナー」

 

俺は言った。

「嘘つけ」

 

コウキは言った。

「嘘じゃない」

 

俺は思った。

(こいつ、普通の皮被った異常者だ)

 

夕方。

テンガン山の麓。

風が冷たい。

 

俺は言った。

「……ここ、懐かしいな」

 

コウキは言った。

「ギンガ団の事件、ここだ」

 

俺は言った。

「知ってるのか」

 

コウキは言った。

「当たり前だろ」

 

俺は思った。

(こいつ、感情ないようで全部覚えてる)

 

コウキは俺を見て言った。

「お前」

 

俺は言った。

「なんだよ」

 

コウキは言った。

「後悔してるか」

 

俺は固まった。

 

突然すぎる。

でも。

 

俺は答えられなかった。

 

コウキは淡々と続けた。

「お前の目」

 

「後悔で埋まってる」

 

俺は言った。

「……見えるのかよ」

 

コウキは言った。

「見える」

 

俺は思った。

(こいつ、心読むタイプか?)

 

その時。

スマホが震える。

 

連絡帳。

 

嫌な予感。

 

俺は顔をしかめた。

「……来た」

 

コウキは言った。

「見ろ」

 

俺は言った。

「……お前、怖くないのか」

 

コウキは言った。

「怖い」

 

俺は驚いた。

 

コウキは続けた。

「怖いから、見ろ」

 

俺は思った。

(この理屈、強すぎる)

 

俺はスマホを開いた。

通知。

 

【アルセウス:呼び出し】

 

俺は吐きそうになった。

「……最悪」

 

コウキは言った。

「逃げるな」

 

俺は言った。

「逃げたい」

 

コウキは言った。

「逃げたいなら逃げろ」

 

俺は固まった。

「……は?」

 

コウキは言った。

「でも、逃げるなら」

 

「俺も連れて行け」

 

俺は息を止めた。

 

コウキは続ける。

「一人で逃げるのは」

 

「ただの自殺だ」

 

俺は思った。

(こいつ……重いこと言うな)

 

空が割れる。

テンガン山が震える。

アルセウスが現れる。

 

俺は呟いた。

「……またお前かよ」

 

アルセウスが言う。

『零』

 

『選べ』

 

『神になるか、呪いに沈むか』

 

俺は笑った。

「選ばせるの好きだな」

 

その時。

コウキが前に出た。

「……アルセウス」

 

アルセウスが沈黙する。

 

コウキは言った。

「お前、暇か?」

 

俺は吹きそうになった。

 

アルセウスが言う。

『……何?』

 

コウキは淡々と続ける。

「こんなことしても」

 

「誰も幸せにならない」

 

アルセウスが言う。

『それでも運命だ』

 

コウキは言った。

「運命じゃない」

 

「お前の気分だ」

 

俺は思った。

(こいつ、口喧嘩強すぎる)

 

コウキは続けた。

「零は壊れかけてる」

 

「それでも試すなら」

 

「俺も相手をする」

 

俺は固まった。

 

コウキが俺の隣に立つ。

それだけで。

 

背中が軽くなった。

 

アルセウスが言う。

『……面白い』

 

光が降りる。

スマホが震える。

連絡帳が更新される。

 

【コウキ:共闘】

 

俺は呟いた。

「……共闘?」

 

コウキは言った。

「当然だ」

 

俺は言った。

「……お前、なんでそこまで」

 

コウキは少しだけ目を細めた。

「俺も」

 

「一人は嫌だから」

 

俺は息を止めた。

 

こいつ。

冷たいようで。

 

孤独の痛みだけは知ってる。

 

夜。

テンガン山の麓。

 

俺は言った。

「……お前、俺のこと嫌いじゃないのか」

 

コウキは言った。

「嫌いなら来ない」

 

俺は言った。

「それだけ?」

 

コウキは言った。

「それだけで十分だ」

 

俺は思った。

(こいつの言葉、少ないのに重い)

 

コウキは言った。

「零」

 

俺は言った。

「……なんだよ」

 

コウキは言った。

「お前は強い」

 

「でも強い奴ほど、折れる」

 

俺は黙った。

 

コウキは続けた。

「折れる前に」

 

「俺を使え」

 

俺は笑った。

「……言い方」

 

コウキは言った。

「事実だ」

 

俺は息を吐いて、少しだけ肩の力を抜いた。

「……分かったよ」

 

コウキは頷いた。

「それでいい」

 

このルートは、恋愛じゃない。

友情でもない。

師弟でもない。

 

ただ。

戦友。

 

理屈で繋がった、冷たい絆。

 

でもその絆は。

誰より熱かった。

 

俺は思った。

(このルート、戻れねぇな)

 

なぜなら。

こいつが隣にいると。

 

俺は「逃げる理由」を失うからだ。

 

コウキルート 完

(※このルートの八雲零は、シンオウの冷たさに救われて、もう一度“戦う理由”を拾う)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。