――このルートは、軽い。
ノリがいい。
テンポがいい。
会話が止まらない。
ツッコミが追いつかない。
そして何より。
一緒にいると、何も考えられなくなる。
キョウヘイは、そういう男だ。
明るい。
うるさい。
調子がいい。
適当そうに見えて、実は観察眼が鋭い。
ふざけてるようで。
肝心なところで、絶対に外さない。
つまり。
俺にとっては――最悪の天敵。
「深刻な顔を許さない」タイプの。
イッシュ地方。
ヒウンシティ。
昼。
俺は人混みに揉まれて死にかけていた。
「……暑い……人多い……無理……」
ヒウンはでかい。
騒がしい。
ビルが高い。
熱気がすごい。
そして何より。
この街、やたらとイベントが起きる。
俺はアイスを食いながら、心の中で祈っていた。
(頼む、何も起きるな……)
その瞬間。
「おっ!!」
背後から、やたら元気な声。
嫌な予感がして振り返る。
そこにいたのは――
青い服の少年。
明るい顔。
やたら爽やかな笑顔。
そして、初対面のくせに距離が近い。
キョウヘイ。
俺は言った。
「……誰だよ」
キョウヘイは指差して言った。
「チャンピオン!!」
俺は言った。
「元な」
キョウヘイは即答した。
「関係ないっす!」
俺は思った。
(こいつ、話聞かねぇタイプだ)
キョウヘイは俺の隣に並び、当然のように歩き出した。
「いやー!生で見るとやっぱオーラやばいっすね!」
俺は言った。
「おい、勝手に歩くな」
キョウヘイは言った。
「え、だって一緒に歩く流れじゃないですか?」
俺は言った。
「そんな流れねぇよ」
キョウヘイは笑った。
「ありますあります!」
俺は思った。
(この男、勢いだけで生きてるな)
キョウヘイはアイスを見て言った。
「え、ヒウンアイス食ってるじゃん」
俺は言った。
「食ってるけど」
キョウヘイは目を輝かせた。
「俺も買います!」
俺は言った。
「知らねぇよ」
キョウヘイは言った。
「えー!奢ってくださいよー!」
俺は言った。
「……は?」
キョウヘイは笑った。
「チャンピオンっすよね?」
俺は言った。
「元だって言ってんだろ!!!!」
数分後。
俺の手には、なぜかもう一本ヒウンアイス。
キョウヘイが嬉しそうに食っている。
「うまっ!!」
俺は呟いた。
「……なんで奢ってんだ俺」
キョウヘイは言った。
「いやー、ありがとうございます!」
俺は言った。
「感謝すんな、納得いかねぇ」
キョウヘイは言った。
「納得しなくていいっす!」
俺は思った。
(会話が成立しない)
だが。
気づけば俺は笑っていた。
キョウヘイのテンポが速すぎて、悩む暇がない。
悩みを抱えた瞬間に。
別の話題が飛んでくる。
この男、脳内の会話速度が異常。
キョウヘイは言った。
「てか、零さんってさ」
俺は言った。
「呼び方やめろ」
キョウヘイは言った。
「零さんって絶対モテますよね?」
俺は言った。
「やめろ」
キョウヘイは言った。
「いやマジで!」
「なんかこう、人生経験の重みが顔に出てる!」
俺は言った。
「重みって言うな」
キョウヘイは言った。
「でも絶対女子に刺さるっすよそれ!」
俺は思った。
(刺さってんのは俺の心だよ)
ヒウンの橋の上。
風が吹く。
その瞬間。
俺のスマホが震えた。
連絡帳。
またまた嫌な予感。
俺は顔をしかめた。
「……来た」
キョウヘイが即座に覗き込んだ。
「え、なにそれ」
俺は言った。
「見るな」
キョウヘイは言った。
「え、なんすか?彼女から?」
俺は言った。
「違う」
キョウヘイは言った。
「修羅場?」
俺は言った。
「違う」
キョウヘイは言った。
「奥さん?」
俺は言った。
「いねぇよ!!!!」
キョウヘイは爆笑した。
「え、じゃあ何すか!」
俺は言った。
「……神」
キョウヘイは一瞬止まった。
「……え?」
俺は言った。
「だから、神」
キョウヘイは沈黙した。
数秒。
そして、真顔で言った。
「……どの神っすか?」
俺は言った。
「アルセウス」
キョウヘイは頷いた。
「うん」
「それはやばいっすね」
俺は思った。
(納得すんな)
俺がスマホを開く。
通知。
【アルセウス:召喚】
俺は吐きそうになった。
「……最悪」
キョウヘイは肩を叩いた。
「大丈夫っすよ」
俺は言った。
「何が」
キョウヘイは笑った。
「俺、結構運いいんで!」
俺は言った。
「根拠が薄すぎる」
キョウヘイは言った。
「でも今、ヒウンアイスうまいじゃないですか!」
俺は言った。
「それとこれとは別だろ」
キョウヘイは言った。
「別じゃないっすよ!」
「人生って、そういうもんです!」
俺は思った。
(こいつ、軽いのに変に説得力あるな)
その瞬間。
空が割れた。
ヒウンのビル街が揺れる。
人々が悲鳴を上げる。
アルセウス降臨。
俺は呟いた。
「……来たよ」
キョウヘイは目を輝かせた。
「うわ!!本物だ!!」
俺は叫んだ。
「テンション上げんな!!!!」
アルセウスが言う。
『零』
『またも愚かな旅を続けるか』
俺はため息を吐いた。
「愚かな旅って言うな」
その時。
キョウヘイが前に出た。
「ちょっといいっすか?」
俺は固まった。
「おい、待て」
アルセウスが沈黙する。
キョウヘイは笑顔で言った。
「神様って、暇なんすか?」
俺はまた吹きそうになった。
アルセウスが言う。
『……何?』
キョウヘイは言った。
「いや、だって」
「零さんの人生、ずっとイベント発生してるじゃないですか」
アルセウスが言う。
『運命だ』
キョウヘイは即答した。
「いや、それ運命じゃなくて」
「ただのスケジュール管理ミスっすよ」
俺は腹筋が死にかけた。
アルセウスが沈黙した。
キョウヘイは畳みかける。
「てか、神ならもっと余裕持ってくださいよ!」
「ほら、零さんもさ」
「休み必要っすよ?」
俺は言った。
「……お前、急に真面目になるな」
キョウヘイは笑った。
「真面目もできます!」
アルセウスが低く唸る。
『……面白い』
光が降りる。
スマホが震える。
連絡帳が更新される。
【キョウヘイ:息抜き】
俺は呟いた。
「……息抜き?」
キョウヘイはガッツポーズした。
「勝った!!!」
俺は言った。
「何に勝ったんだよ」
キョウヘイは言った。
「神に!!」
俺は言った。
「勝てるわけねぇだろ」
キョウヘイは笑った。
「でも今、神ちょっと引いてましたよ!」
俺は思った。
(確かに引いてたな)
夜。
ヒウンの屋上。
街の灯りが綺麗だった。
俺は缶コーヒーを飲みながら言った。
「……お前さ」
キョウヘイは言った。
「はい!」
俺は言った。
「なんであんなことできんだよ」
キョウヘイは少しだけ黙ってから言った。
「……零さんがさ」
「すげー苦しそうだったから」
俺は固まった。
キョウヘイは続ける。
「俺、こういう時」
「暗い顔されるの一番嫌なんすよ」
俺は言った。
「……お前、優しいのか馬鹿なのか分かんねぇ」
キョウヘイは笑った。
「両方っすね!」
俺は思った。
(即答すんな)
キョウヘイは俺の方を見て言った。
「でもさ」
「零さんって、強いのに」
「なんか一人で抱え込みすぎじゃないですか?」
俺は言った。
「……仕方ねぇだろ」
キョウヘイは言った。
「仕方なくないっすよ」
俺は言った。
「じゃあどうすんだよ」
キョウヘイは笑った。
「俺がいるじゃないですか」
俺は固まった。
この男。
ふざけてるのに。
言うべきところは、真顔で言う。
だから刺さる。
俺は呟いた。
「……うるせぇ」
キョウヘイは笑った。
「照れてる!」
俺は言った。
「照れてねぇよ!!!!」
このルートは、救い方が雑だ。
でもその雑さが。
俺の傷を、意外と塞いでしまう。
深刻になれない。
落ち込めない。
悩めない。
キョウヘイが全部笑い飛ばすから。
俺は思った。
(こいつ、最強の相棒かもしれねぇ)
そして。
このルートの結末は決まっている。
俺はいつか、笑えるようになる。
悩みながらでも。
呪われながらでも。
生きていける。
そんな気がするからだ。
キョウヘイルート 完
(※このルートの八雲零は、ヒウンの騒がしさとバカの勢いで、呪いを一回ぶん殴って黙らせる)