――このルートは、夏だ。
暑い。
眩しい。
うるさい。
テンションが高い。
海が青い。
波がうるさい。
太陽が暴力。
そして何より。
ヨウが、太陽そのもの。
こいつといると、悩めない。
悩んでる暇がない。
悩んでると、無理やり引きずり出される。
そして気づけば。
笑ってる。
笑ってることに罪悪感すらなくなる。
つまり。
このルートは――危険だ。
俺の闇が焼かれて消える。
強制的に。
アローラ地方。
メレメレ島。
昼。
俺は海沿いの道で死にかけていた。
「……暑い……」
汗が止まらない。
日差しが痛い。
アローラ、南国すぎる。
俺は日陰に座り込み、おいしいみずを飲んだ。
「……なんでこんなとこ来たんだっけ」
その瞬間。
「アローラ!!」
背後から、爆音みたいな挨拶が飛んできた。
振り返る。
そこにいたのは、少年。
笑顔。
元気。
少し焼けた肌。
そして、完全に陽キャのオーラ。
ヨウ。
俺は言った。
「……誰だよ」
ヨウは笑った。
「ヨウ!!」
俺は言った。
「……いや、知らねぇ」
ヨウは言った。
「えっ!?うそ!」
「でも今、俺たち出会ったじゃん!」
俺は思った。
(理屈がアローラ)
ヨウは俺の隣にしゃがみ込んで言った。
「暑いよねー!」
俺は言った。
「暑い」
ヨウは言った。
「じゃあ海入ろ!」
俺は言った。
「は?」
ヨウは立ち上がって言った。
「海!!」
俺は言った。
「話飛びすぎだろ」
ヨウは笑った。
「大丈夫大丈夫!」
「アローラだし!」
俺は思った。
(アローラって万能ワードか?)
ヨウは俺の腕を掴んだ。
「ほら行こ行こ!」
俺は抵抗した。
「いや、俺は……」
ヨウは言った。
「え?泳げない?」
俺は言った。
「泳げるけどそういう問題じゃ」
ヨウは言った。
「じゃあ決定!」
俺は叫んだ。
「決定すんな!!!!」
数分後。
俺は海にいた。
意味が分からない。
波が冷たい。
でも気持ちいい。
ヨウは海に飛び込んで叫ぶ。
「うおおおおお!!!最高!!」
俺は呟いた。
「……こいつ、元気すぎる」
ヨウは泳ぎながら言った。
「ねえねえ、名前は!?」
俺は言った。
「八雲零」
ヨウは目を輝かせた。
「れい!かっこいい!」
俺は言った。
「呼び捨てすんな」
ヨウは笑った。
「いいじゃん!」
「アローラだし!」
俺は思った。
(またアローラ理論)
海から上がった後。
砂浜で休憩。
ヨウがタオルを投げてくる。
「はい!」
俺は受け取った。
「……ありがと」
ヨウは笑った。
「どーいたしまして!」
俺は思った。
(こいつ、礼儀あるな)
ヨウは座りながら言った。
「れいってさ」
「旅してるんだよね?」
俺は言った。
「……まあな」
ヨウは言った。
「じゃあさ!」
「アローラ案内してあげる!」
俺は言った。
「断る」
ヨウは言った。
「断らない!」
俺は言った。
「おい」
ヨウは笑った。
「よし決まり!」
俺は思った。
(こいつ、断るって概念がない)
その日。
俺はヨウに連れ回された。
マラサダ食わされる。
ポケモンバトルさせられる。
島スキャンさせられる。
ぬしポケモン見に行かされる。
リーリエの話題を振られる。
しまキングの話題を振られる。
しまクイーンの噂を聞かされる。
そして最後に。
夕焼けの海。
ヨウが言った。
「楽しかった?」
俺は言った。
「……まあな」
ヨウは笑った。
「よかった!」
俺は思った。
(こいつ、これだけで満足するのか)
その時。
俺のスマホが震えた。
連絡帳。
いつもの嫌な予感。
俺は顔をしかめた。
「……来た」
ヨウが覗き込む。
「なになに?」
俺は言った。
「見るな」
ヨウは言った。
「えー!」
俺は言った。
「えーじゃねぇ」
ヨウは少しだけ真顔になった。
「……れい」
俺は言った。
「何だよ」
ヨウは言った。
「それ、嫌なやつ?」
俺は固まった。
いつもふざけてるくせに。
こういう時だけ鋭い。
俺は言った。
「……嫌なやつだ」
ヨウは頷いた。
「そっか」
そして笑った。
「じゃあさ」
「俺がぶっ飛ばす!」
俺は言った。
「やめろ」
ヨウは言った。
「大丈夫!」
「俺、結構強いよ!」
俺は思った。
(この自信、どこから来るんだ)
空が割れる。
アローラの空が揺れる。
伝説が降りる。
アルセウス
……じゃない。
降りてきたのは。
ネクロズマ。
黒い光。
圧倒的な異物感。
俺は呟いた。
「……あー……来たな」
ヨウは目を輝かせた。
「うわ!!すげぇ!!」
俺は叫んだ。
「テンション上げんな!!!!」
ネクロズマが唸る。
世界が暗くなる。
ヨウが言った。
「れい、下がって!」
俺は言った。
「いや、お前が下がれ」
ヨウは笑った。
「だってさ」
「れい、疲れてるでしょ?」
俺は固まった。
ヨウは続けた。
「旅って楽しいけど」
「疲れる時もあるじゃん!」
俺は思った。
(こいつ、馬鹿みたいに優しいな)
ヨウがボールを投げる。
「行け!ジュナイパー!」
影が走る。
羽が舞う。
ネクロズマの光とぶつかる。
激しい。
眩しい。
でもヨウは笑ってる。
怖がってない。
いや、怖がってるはずなのに。
笑ってる。
それが強い。
俺は呟いた。
「……なんだよこの主人公」
戦いは終わる。
ネクロズマは退いた。
夕焼けが戻る。
ヨウは息を切らしながら笑った。
「はぁ……!」
「勝った!!」
俺は言った。
「……無茶すんな」
ヨウは言った。
「無茶じゃない!」
「アローラだし!」
俺は言った。
「それ便利すぎるだろ」
ヨウは笑った。
「便利なんだよ!」
夜。
海辺の焚き火。
ヨウが言った。
「れいってさ」
俺は言った。
「何だよ」
ヨウは真面目に言った。
「絶対、一人で抱え込むタイプだよね」
俺は固まった。
ヨウは続けた。
「でもさ」
「アローラって、みんなで何とかするじゃん?」
俺は言った。
「……まあな」
ヨウは笑った。
「だからさ!」
「れいも、みんなでやろ!」
俺は呟いた。
「……俺、呪われてるんだけど」
ヨウは即答した。
「呪い?うん、じゃあ一緒に呪われよ!」
俺は叫んだ。
「軽すぎる!!!!!!!!」
ヨウは笑った。
「軽い方がいいじゃん!」
「重いと沈むし!」
俺は思った。
(正論なの腹立つな)
ヨウは焚き火を見ながら言った。
「れい!」
俺は言った。
「……何」
ヨウは笑って言った。
「今日、生きててくれてありがと!」
俺は固まった。
まただ。
またその言葉。
でもヨウが言うと、悲しくならない。
重くならない。
ただ。
当たり前みたいに、心が軽くなる。
俺は小さく笑った。
「……お前、ほんと太陽だな」
ヨウは笑った。
「えへへ!」
「よく言われる!」
俺は呟いた。
「……俺、焼け死ぬぞ」
ヨウは言った。
「大丈夫!」
「焼けたら俺が冷やす!」
俺は思った。
(ずるいな、このルート)
優しさを「軽さ」で包んでくる。
泣く暇すらない。
救いが、勢いで押し寄せてくる。
このルートは、夏で終わる。
そして夏は、終わってもまた来る。
つまり。
俺はまた何度でも救われる。
太陽に。
アローラに。
そして、ヨウに。
ヨウルート 完
(※このルートの八雲零は、アローラの太陽に焼かれて、闇を持ったまま笑えるようになる)