――最初に言っておく。
これは幸せな話じゃない。
これは恋愛じゃない。
これは救いじゃない。
これは。
神が俺を殺しに来た話だ。
しかも精神的に。
俺は日本にいた。
いつも通り平和を装った日常。
コンビニでコーヒーを買って。
スマホでハー○ルンのコメント欄を見て。
「更新待ってます!」とか言われて。
胃が痛くなって。
普通に死にそうになっていた。
「……なんで俺の人生、こうなるんだろ」
その瞬間。
スマホが震えた。
連絡帳。
嫌な予感。
俺はゆっくり画面を見る。
通知。
【アルセウス:集合】
俺は叫んだ。
「やめろ!!!!!!!!!!!!!!」
だが、神は聞かない。
光。
転移。
強制召喚。
俺の世界は白く染まった。
次に目が覚めた時。
俺は広いホールに立っていた。
豪華な床。
高い天井。
謎の神殿っぽい空間。
中央に玉座。
そして。
その玉座に座っている白い馬。
アルセウス。
『零』
俺は言った。
「……何の用だよ」
アルセウスは淡々と言った。
『お前に問題がある』
俺は言った。
「お前が原因だろ」
アルセウスは無視した。
『お前の人生は戦いばかりだ』
『ならば』
『別の試練を与える』
俺は嫌な予感しかしなかった。
「……試練って言うな」
アルセウスは言った。
『恋愛だ』
俺は固まった。
「……は?」
アルセウスは続けた。
『お前は誰かを守るばかりで』
『誰かに愛されることを拒んでいる』
俺は叫んだ。
「余計なお世話だ!!!!!!」
アルセウスは言った。
『だから用意した』
俺は言った。
「何を」
アルセウスは言った。
『候補者たちだ』
俺は思った。
(終わった)
光が走る。
次々に転移が起きる。
見覚えのある顔が、ホールに現れた。
まず。
ハルカ。
「……え?ここどこ!?」
次。
ヒカリ。
「え、零!?なんで!?」
次。
トウコ。
「は!?ふざけんな!!」
次。
メイ。
「え、なにこれ!?面白そう!!」
次。
セレナ。
「……ここ、どこですか?」
次。
ミヅキ。
「えっ、神殿!?すご……」
次。
ユウリ。
「……え、は?なんで私が?」
次。
アオイ。
「ちょっとちょっと!!なにこの状況!?」
次。
ショウは風邪を引いてるからいない。
よし。
俺は一瞬安心した。
……いや、安心してる場合じゃない。
俺は思った。
(揃った。終わった)
全員が俺を見る。
空気が固まる。
俺は言った。
「……いや、違うんだ」
ハルカが言った。
「え、零!?久しぶりじゃん!!」
ヒカリが言った。
「零、説明して」
トウコが言った。
「おい、どういうことなのこれ」
メイが言った。
「え、なに!?修羅場!?修羅場!?」
セレナが言った。
「……八雲さん、これは……?」
ユウリが言った。
「アンタ、まさか」
アオイが言った。
「ちょっと待って、情報量多すぎ!!」
ミヅキが言った。
「え、私たち呼ばれたってこと?」
俺は頭を抱えた。
「……誰か俺を殺してくれ」
アルセウスが言う。
『これより』
『八雲零・恋愛適性試験を開始する』
俺は叫んだ。
「試験とか言うな!!!!!!!!」
アルセウスは続ける。
『この中から一人』
『お前の伴侶を選べ』
俺は固まった。
「……は?」
ハルカが言った。
「伴侶!?」
ヒカリが言った。
「……は?」
トウコが言った。
「はぁぁぁぁ!?」
メイが言った。
「やば!!ガチのやつだ!!」
セレナが顔を赤くした。
「……そんな、急に……」
ミヅキが笑った。
「神様、ノリ軽くない?」
ユウリが冷たく言った。
「……ふざけてるの?」
アオイが言った。
「は!?何それ!?」
俺はアルセウスに叫んだ。
「お前、世界を作った神がやることかこれ!!!!」
アルセウスは平然と言った。
『世界は暇だ』
俺は叫んだ。
「暇なら寝ろ!!!!!!!!」
そして。
地獄が始まった。
【第一試練:デートイベント】
ホールの床が光る。
空間が変わる。
ミアレの街並み。
カフェ。
夕日。
オシャレすぎる。
俺は言った。
「……あ、カロス」
アルセウスが言う。
『デートを成功させろ』
俺は叫んだ。
「成功って何だよ!!!!」
すると。
全員が一斉に俺の腕を掴んだ。
ハルカ「じゃあ私!」
ヒカリ「私が先でしょ!」
トウコ「は?順番決めろ!」
メイ「じゃんけんしよ!」
セレナ「……わ、私は……」
ミヅキ「楽しくなってきた!」
ユウリ「はぁ……」
アオイ「やば、ほんとに始まった」
俺は叫んだ。
「やめろ!!!!腕がもげる!!!!」
【第二試練:料理イベント】
次の瞬間。
空間が変わる。
なぜかキッチン。
巨大な調理台。
材料が山ほど。
アルセウスが言う。
『料理を作れ』
俺は言った。
「俺、そんなに料理できねぇよ」
トウコが腕を組んだ。
「は?できないの?」
ヒカリが言った。
「零、包丁持ったら危ないタイプでしょ」
ハルカが言った。
「私できるよ!」
セレナが小さく言った。
「……私も」
ユウリが言った。
「私がやる。任せて」
アオイが言った。
「え、私料理サンドイッチ以外苦手なんだけど!」
ミヅキが言った。
「まぁまぁ、なんとかなるよ!」
俺は思った。
(待て、全員女子力高いの怖い)
そして始まる。
包丁の音。
火。
鍋。
煙。
そして――
メイが爆発させた。
「えへ☆」
俺は叫んだ。
「えへ☆じゃねぇ!!!!」
【第三試練:嫉妬イベント】
アルセウスが言う。
『次』
空間が変わる。
なぜか夕暮れの浜辺。
海。
夕日。
恋愛ゲームの背景そのもの。
俺は呟いた。
「……露骨すぎる」
すると。
ハルカが俺の隣に来て腕を組む。
「ね、零さんってさ。誰が一番好き?」
俺は言った。
「お前ら全員友達だろ」
ヒカリが即座に言う。
「友達って言った!」
トウコが言う。
「逃げたな」
ユウリが言う。
「……ふーん」
セレナが言う。
「……零さん……」
アオイが言う。
「うわ、空気重っ」
ミヅキが言う。
「これが修羅場かぁ……」
俺は叫んだ。
「やめろ!!!!!!!!!!」
【第四試練:告白イベント】
アルセウスが言った。
『最後だ』
俺は言った。
「最後?やっと終わるのか?」
アルセウスは淡々と告げる。
『全員に告白させる』
俺は固まった。
「……は?」
アルセウスは言った。
『そして、お前は一人選べ』
俺は叫んだ。
「神!!!!!お前は!!!!!!」
アルセウスは言った。
『黙れ』
俺は黙った。
神の圧、強い。
全員が並ぶ。
真顔。
緊張。
空気が重い。
俺は胃が痛かった。
まず、ハルカ。
「零!」
「私はさ、ずっと一緒に冒険してて……楽しかった!」
「だから……好き!」
次、ヒカリ。
「零って、頼りないのに頼れるんだよ」
「意味わかんないけど」
「……好き」
次、トウコ。
「……正直ムカつく」
「でも、お前がいないと調子狂う」
「だから……好きだ」
次、メイ。
「零くを!私はね!」
「なんかもう、零くんといると面白い!」
「好き!たぶん!」
次、セレナ。
「……八雲さんは」
「優しくて、強くて」
「でも無理をしてて」
「……放っておけません」
「好きです」
次、ミヅキ。
「れいってさ、闇深いよね」
「でも、それが嫌じゃない」
「……好きだよ」
次、ユウリ。
「……言うの、嫌なんだけど」
「でも、あなたが倒れるの見たくない」
「だから……好き」
最後、アオイ。
「え、こういうの恥ずいんだけど!」
「でもさ、零ってなんか放っとけないじゃん!」
「好き!以上!」
俺は固まった。
胃が死んだ。
息が止まった。
心臓が爆発しそうだった。
俺は呟いた。
「……いや、待て」
「俺、何もしてねぇぞ」
全員が一斉に言った。
「してる!!!!」
俺は叫んだ。
「してねぇ!!!!!!」
アルセウスが玉座から立ち上がった。
『選べ』
俺は震えた。
「……選べって」
『選べ』
俺は叫んだ。
「無理だろ!!!!!!!!!!!!」
アルセウスは淡々と言った。
『選ばねば』
『永遠にこのループを繰り返す』
俺は固まった。
「……は?」
アルセウスは言った。
『毎日デート』
『毎日料理』
『毎日修羅場』
『毎日告白』
『永遠に』
俺は絶望した。
「……地獄じゃん」
全員が言った。
「地獄だね」
意見一致した。
俺は泣きそうになりながら言った。
「……ちょっと待て」
「俺、神と口喧嘩して世界壊したことあるけど」
「この試練は無理だ」
アルセウスは言った。
『恋愛は戦争だ』
俺は叫んだ。
「神が言うな!!!!!!!!!!」
俺は深呼吸した。
そして、言った。
「……アルセウス」
『何だ』
俺は言った。
「俺は、選ばない」
アルセウスが目を細める。
『ほう』
俺は続けた。
「俺は誰か一人を選んで」
「他を傷つけるくらいなら」
「俺が傷つく」
全員が固まった。
アルセウスが沈黙した。
そして。
小さく笑った。
『……なるほど』
そして告げる。
『ならば』
『全員、お前を共有しろ』
俺は叫んだ。
「そういう意味じゃねぇ!!!!!!!!!!!!!!」
その瞬間。
全員が一斉に距離を詰めた。
ハルカ「え、共有ってあり!?」
ヒカリ「ちょっと待って神、天才?」
トウコ「はぁ!?ふざけんな!!」
メイ「うわ、この展開すご!!」
セレナ「……それは、ダメです……」
ミヅキ「え、面白くなってきた!
ユウリ「はぁ……地獄」
アオイ「いやいやいや無理無理!!」
俺は叫んだ。
「おい!!!!やめろ!!!!!!」
アルセウスは言った。
『決定だ』
俺は叫んだ。
「決定すんな!!!!!!!!!!」
その後。
俺は学んだ。
悪の組織も。
伝説も。
神も。
世界崩壊も。
全部、まだマシだった。
なぜなら。
敵は殴れば終わる。
でも。
女の子の好意は殴れない。
避けても追ってくる。
断っても泣かれる。
逃げても囲まれる。
優しくしても誤解される。
冷たくしても怒られる。
詰み。
完全に詰み。
俺は最後に空を見上げた。
雲の隙間。
金色の輪。
アルセウスが絶対笑っている。
俺は呟いた。
「……神よ」
「お前の試練、方向性が終わってる」
番外編12 完
(※八雲零はこの日、「恋愛イベント」が一番危険だと知った。世界滅亡より胃が死ぬ。)