チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第3話 心が痛い

時は経ちホウエン地方。

ゴールドと会ったり、ヒカリと遭遇したりと色々あった。

 

だがそんなこと今はどうでもいい。

 

暑い。

とにかく暑い。

 

湿気もあるし、日差しも強いし、何より空気が「南国」って感じで、肌にまとわりつく。

 

……俺が知ってるホウエンって、もっと爽やかなイメージじゃなかったっけ?

ゲームだとBGMとか綺麗でさ、海が青くてさ。

でも現実は違う。

 

「暑い……」

 

俺は死んだ目で空を見上げた。

太陽がギラギラしている。

そして俺の目の前には、海。

 

綺麗だ。

綺麗だが、暑さでそれどころじゃない。

 

俺は木陰を探しながら歩いていた。

ちなみに俺が今いるのは――ミシロタウン付近。

つまり、ホウエンのスタート地点。

 

……のはずだ。

だが、俺はここで一つ大きな問題に直面していた。

 

「……なんで俺、ホウエンにいるんだっけ」

 

記憶が曖昧だ。

確かジョウトでシルバーに絡まれて、バッジケース落として、アルセウスの通知にブチ切れて――。

そのあと、森を歩いてたら。

 

気付いたら。

海だった。

ワープにもほどがある。

 

俺はスマホを開いた。

呪いの連絡帳。

 

確認すると、案の定。

ジョウトで追加された「シルバー」がきっちり登録されている。

 

……いや、交換してないのに。

 

俺はため息をついた。

「ホウエンに来たってことは……次は、誰だ?」

 

ホウエン地方の主人公枠。

ハルカ。

ユウキ。

そしてライバル枠。

ミツル。

 

あとジムリーダー。

四天王。

チャンピオン。

――ダイゴ。

 

「……ダイゴか」

俺は少しだけテンションが上がった。

 

ホウエンチャンピオン。

石。

イケメン。

 

無駄にカリスマ。

メタグロス。

しかも、ポケモン界でもトップクラスに人気の男。

あのダイゴだ。

 

普通に会ってみたい。

……いや、待て。

会ってみたいけど。

 

会ったら会ったで、絶対ロクなことにならない。

今までの流れがそう言っている。

 

俺は頭を振った。

「いやいや、やめとけ」

 

「俺はもう、原作キャラと関わりたくない」

そう呟きながら歩く。

 

すると、遠くから声が聞こえた。

「――あっ!!」

 

女性の声。

明るくて、元気で、ハキハキしてる。

……嫌な予感。

俺はゆっくり振り返った。

 

そこにいたのは――。

赤いバンダナ。

ショートパンツ。

活発そうな笑顔。

そして肩にはアチャモ。

 

「……ハルカ」

俺は思わず名前を呟いた。

 

ハルカは目を輝かせた。

「え!?なんで私の名前知ってるの!?」

 

「……あ」

 

やってしまった。

 

俺は慌てて咳払いした。

「いや、えーと……雰囲気で」

 

「雰囲気で分かる!?」

 

無理がある。

 

俺は誤魔化すように笑った。

「君、有名そうだからさ」

 

「えへへ、そうかな!」

 

いや有名だよ。

原作主人公だもんな。

そりゃ有名だ。

 

俺は内心で泣いた。

 

ハルカは俺をじっと見て、首を傾げた。

「ねえ、あなた旅してるの?」

 

「……まあ、一応」

 

「へぇ!どこから来たの?」

 

俺は言葉に詰まった。

どこから来たのか。

 

ジョウト?

いや違う、そもそも俺は日本の宮城県から来た。

だがそんなこと言っても伝わらない。

 

俺が黙っていると、ハルカは突然、目を輝かせた。

「ねえねえ!バトルしようよ!」

 

「え?」

 

来た。

ホウエンでも来た。

この世界、会話の導入がバトルしかないのか?

 

俺は思わず後ずさった。

「いや、俺は別に――」

 

「お願い!私、強くなりたいんだ!」

ハルカはそう言って、モンスターボールを構える。

 

……目がガチだ。

主人公特有の圧がある。

 

俺はため息をついた。

「分かった、分かったから」

 

「よっしゃー!」

 

喜びすぎだろ。

俺はボールを一つ取り出した。

さて、何を出す?

 

ここはホウエンの序盤。

相手はアチャモ。

強すぎるのを出したらいけない。

 

かといって、弱すぎても負ける。

俺は適当にボールを投げた。

「出てこい!」

 

光が弾けて現れたのは――。

黄色い電気の犬。

耳が鋭く、目がキリッとしている。

 

「……サンダース」

 

俺は心の中で叫んだ。

(お前は違うだろ!!!)

 

サンダースはカントー地方の最終兵器だ。

序盤で出すポケモンじゃない。

だが出てしまった。

 

サンダースは俺を見て「……?」みたいな顔をした。

俺も同じ気持ちだ。

 

ハルカは目を輝かせた。

「わぁ!かっこいい!なにそのポケモン!」

 

そうか。

ホウエンの人間はサンダースを知らない可能性がある。

……いや知ってるだろ普通に。

 

でも図鑑の地域差とかあるし。

 

俺は苦笑した。

「えーと、サンダース」

 

「サンダース!?へぇ~!」

 

ハルカはテンションが上がったまま叫ぶ。

「アチャモ!ひのこ!」

 

アチャモが火の粉を飛ばす。

 

俺は即座に指示した。

「サンダース、避けろ。で、でんこうせっか」

 

サンダースは一瞬で加速し、火の粉を回避。

そのままアチャモの横腹に突っ込んだ。

 

「チャモッ!?」

 

アチャモが吹っ飛び、砂浜を転がる。

 

ハルカの顔が固まった。

「え……?」

 

俺も固まった。

……やりすぎた。

 

いや、サンダースの電光石火って、こんな強かったっけ?

 

サンダースは昔、レッドの時に使った個体だ。

つまり育成済み。

レベル差がエグい。

 

ハルカが焦って叫ぶ。

「アチャモ!がんばって!もう一回ひのこ!」

 

アチャモは必死に立ち上がり、火の粉を飛ばす。

だがサンダースは余裕の表情で避けた。

 

俺は慌てて止めようとした。

「いや、サンダース、そこまで――」

 

だがサンダースは止まらない。

俺の指示を聞く前に、雷が落ちた。

 

「サンダァァァ!!」

 

バチバチバチ!!

 

砂浜に電撃が走り、アチャモが真っ白になった。

 

……炭化寸前。

 

ハルカは呆然とした。

「え……なにそれ……」

 

俺は青ざめた。

「いや、違う、これは――」

 

サンダースは「やったぜ」みたいな顔で胸を張った。

お前、何誇ってんだ。

 

俺は急いでモンスターボールを投げた。

「戻れ!!」

 

サンダースが光になって戻る。

 

そして俺はハルカに駆け寄った。

「大丈夫!?アチャモ!」

 

アチャモはフラフラしながら、かすれた声で鳴いた。

「……ちゃ、も……」

 

俺は心が痛んだ。

なんだこれ。

いじめじゃん。

 

ハルカはアチャモを抱き上げ、震える声で言った。

「……あなた、強すぎない?」

 

俺は即答した。

「俺もそう思う」

 

ハルカは真顔になった。

「もしかして……チャンピオン?」

 

「違う違う違う!」

 

俺は全力で否定した。

いや、バッジケース的には怪しいけど!

 

ハルカは目を輝かせる。

「え、じゃあ四天王!?」

 

「違う!!」

 

「伝説のトレーナー!?」

 

「違うって!!」

俺は頭を抱えた。

 

頼む。

勝手に格上げするな。

 

俺はただの元高校生だ。

宮城県民だ。

pi◯ivとハー◯ルンに脳を焼かれたオタクだ。

 

なのにこの世界は、俺を勝手に強者扱いする。

 

ハルカは少し悔しそうに笑った。

「……でも、すごい。私ももっと強くならなきゃ」

そう言って、アチャモをモンスターボールに戻す。

 

その目は真剣だった。

主人公の目。

まっすぐで、折れない目。

 

……眩しい。

 

俺は少しだけ、申し訳なくなった。

「悪かった。手加減できなかった」

 

「ううん!いいよ!」

 

ハルカは明るく笑った。

だが、その笑顔が逆に罪悪感を増やす。

 

俺は苦笑して言った。

「次はもっといい勝負になるようにするよ」

 

「ほんと!?約束だよ!」

 

「……ああ」

 

その瞬間。

俺のスマホが震えた。

 

嫌な予感しかしない。

俺は恐る恐る画面を見る。

 

【連絡先が追加されました】

ハルカ

 

俺は真顔になった。

 

「……交換してねぇよ!!」

 

ハルカが首を傾げた。

「え?なに?どうしたの?」

 

俺は笑顔を作った。

「……なんでもない」

 

全然なんでもない。

人生終わった。

 

その時、さらに通知が来る。

【連絡先が追加されました】

ミツル

 

「……は?」

 

ミツルはまだ会ってない。

なのに登録された。

 

俺は震える声で呟いた。

「……ホウエンチャンピオン、ワクワクさせんなよ」

 

そしてもう一つ通知。

【連絡先が追加されました】

ダイゴ

 

俺は崩れ落ちた。

「来た……」

 

最悪だ。

来た。

ホウエンのチャンピオン。

あのダイゴが。

 

まだ会ってもいないのに。

もう連絡先がある。

 

俺は空を見上げて叫んだ。

「アルセウス!!お前絶対遊んでるだろ!!」

 

返事はない。

だが通知だけは来た。

【アルセウス:既読】

 

俺は悟った。

神は暇だ。

そして俺の人生は。

 

ホウエンに来て、さらに終わった。

 

次回

「石オタクと遭遇しました」

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