チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第6話 ハルカとユウキがチャンピオンになりました

ホウエン地方。

暑い。

海が綺麗とか、景色がいいとか、そういうのはもうどうでもいい。

暑い。

 

そして治安が悪い。

 

マグマ団とアクア団をボコして追い返したあと、俺はそのままポケモンセンターに直行した。

もちろん、俺の後ろには――なぜかダイゴがついてきている。

 

こいつ、ホウエンチャンピオンだよな?

暇なのか?

仕事しろよ。

 

俺が受付でポケモンを預けていると、後ろでダイゴが穏やかに言った。

「君、本当に強いね」

 

「……どうも」

 

「君なら、ホウエンのリーグも制覇できそうだ」

 

俺は即答した。

「しません」

 

「即答だね」

 

「当たり前です。俺、そういうのもう卒業したんで」

 

チャンピオンになる。

ジムバッジを集める。

四天王を倒す。

 

名誉。

称号。

 

そんなものは、もういい。

俺は過去にカントーでそれをやった。

 

そして今の俺は、ただの旅人であり、チュートリアルお兄さんであり――

巻き込まれ体質だ。

 

ポケモンを受け取った俺は、さっさと外に出た。

外の空気は熱い。

太陽が俺を殺しに来ている。

 

「……ホウエン、太陽が本気すぎるだろ」

俺がぼやくと、ダイゴは笑った。

 

「それもホウエンの魅力だよ」

 

「魅力じゃなくて凶器です」

 

俺はそう言って歩き出す。

ダイゴは変わらずついてくる。

 

「で、ダイゴさん」

 

「なんだい?」

 

「なんでずっとついてくるんですか?」

俺がそう聞くと、ダイゴは当然のように答えた。

 

「君が面白いから」

 

「最悪の理由だな」

 

そのときだった。

遠くから歓声が聞こえた。

ドン、と地響きみたいな声。

 

人が集まっている。

街全体がざわついている。

 

俺は足を止めた。

「……なんだ?」

 

ダイゴも耳を澄ます。

「これは……リーグの方からだね」

 

リーグ?

ホウエンポケモンリーグ?

嫌な予感がする。

 

俺たちは人の流れに逆らわず、そのままリーグの方向へ歩いた。

すると、巨大モニターが見えた。

 

リーグ会場の外に設置されているやつだ。

そこに映っているのは――バトルフィールド。

そして、二人のトレーナー。

 

観客席は満員。

実況の声が響いていた。

 

『さぁぁぁぁ!ついに決着の時が来ましたァァァ!!』

 

『挑戦者ユウキ!そして挑戦者ハルカ!』

 

『ホウエンリーグ史上初!!ダブル挑戦!!』

 

「……は?」

俺は固まった。

 

「いや、なんで?」

 

ダイゴが興味深そうに画面を見つめる。

「へぇ……面白いね」

 

「面白いねじゃないですよ」

 

画面にはユウキとハルカが映っていた。

……どっちもいるタイプの世界線かよ。

 

最悪だ。

俺の嫌な予感は、だいたい当たる。

 

実況が叫ぶ。

『ここまで勝ち上がってきた二人!果たしてホウエンチャンピオンの座を掴むのはどちらだ!!』

 

俺は横にいるダイゴを見た。

「……あれ?」

 

ダイゴがにこやかに答える。

「うん。僕はもうチャンピオンじゃないよ」

 

「は?」

 

「さっきのバトルで負けたからね」

 

「いやいやいやいや!!」

 

俺は思わず叫んだ。

「そんな軽い感じでチャンピオン譲るんですか!?」

 

ダイゴは穏やかに笑った。

「いいじゃないか。強い人が上に立つ。それが自然だよ」

 

「それ自然かなぁ!?」

 

俺が頭を抱えている間にも、モニターの中の戦いは進んでいく。

ユウキのバシャーモが躍動し、ハルカのラグラージが地面を揺らす。

 

スピード。

火力。

判断力。

 

……強い。

普通に強い。

 

観客の歓声が一段階上がった。

 

『決まったァァァ!!』

 

『バシャーモのブレイズキック!!』

 

『ラグラージ、倒れたァァァ!!』

 

その瞬間、ハルカの顔が映った。

 

悔しそうに歯を食いしばっている。

しかし次の瞬間、彼女は笑った。

 

そしてユウキに手を差し出した。

ユウキも笑いながら手を取る。

 

『勝者ァァァ!!ユウキ選手!!』

 

『そして新チャンピオン誕生!!』

会場が揺れるほどの歓声。

だが、それで終わらなかった。

 

実況が続ける。

『しかし!これで終わりではありません!!』

 

『なんと!!ホウエンリーグは特例として、挑戦者ハルカにもチャンピオン挑戦権を与えることを決定!!』

 

「は????」

俺は思わず口が開いた。

 

ダイゴは嬉しそうに頷いた。

「なるほど。二人とも実力は十分だもんね」

 

画面の中で、ユウキが再びバトルフィールドに立つ。

ハルカも立つ。

 

―チャンピオン戦、連戦。

 

どんな地獄だよ。

 

俺は呟いた。

「……こいつら、体力おかしいだろ」

 

バトルは続いた。

そして、さらに数十分後。

 

実況の声が、割れるほどの熱量で叫んだ。

『決着ゥゥゥゥゥ!!』

 

『ラグラージのハイドロカノン!!』

 

『バシャーモ、倒れたァァァ!!』

 

『勝者ァァァ!!ハルカ選手!!』

 

会場が揺れる。

歓声。

拍手。

泣き声。

 

ホウエンの空気が震えていた。

 

『これにより!ホウエン地方は史上初!!』

 

『チャンピオンが二人誕生!!』

 

「……終わった」

俺は放心した。

 

ダイゴは満足そうに頷いた。

「素晴らしいね。これが成長というものだよ」

 

俺はダイゴを睨んだ。

「原因、あなたですよね?」

 

「そうかな?」

 

「そうですよ」

俺は深いため息をついた。

 

……まぁいい。

二人がチャンピオンになった。

それは素直に凄い。

 

レッドやゴールドの時みたいな、あの感じ。

主人公が本当に主人公してる瞬間。

 

俺は少しだけ笑った。

「……将来が楽しみだな」

 

そのとき、リーグ会場の入り口が開いた。

人の流れが外に出てくる。

そして――。

 

会場から出てきた二人の姿が見えた。

 

ユウキとハルカ。

どちらも疲れ切った顔。

だけど、誇らしげに笑っている。

周りの人々が祝福している。

 

俺は遠目に眺めながら呟いた。

「よかったな……」

 

だが、その瞬間。

ユウキがこっちを見た。

目が合った。

 

次にハルカも気づく。

そして――。

二人が同時に、俺を指差した。

 

「え?」

俺の背筋が凍った。

 

嫌な予感しかしない。

 

ダイゴが静かに笑った。

「……あぁ。来るね」

 

二人がこちらへ向かって歩いてくる。

観客がざわつく。

カメラが向く。

スマホが向く。

 

俺は逃げたくなった。

だが足が動かない。

 

ユウキが俺の前で立ち止まり、笑った。

「……あんた、強いんだろ?」

 

ハルカも笑う。

「あ、お久しぶりですね零さん」

 

「……」

俺は静かに顔を覆った。

 

あぁ。

来た。

来てしまった。

 

そしてユウキが言った。

「チャンピオンになったんだ。だから――」

 

ハルカが続ける。

「最後に、改めてあなたと戦いたい」

 

観客がどよめく。

実況が外に出てきて、何故かマイクを向けてくる。

『おおっと!?これはまさか!?』

 

『新チャンピオン二人が、謎のトレーナーを指名だァァァ!!』

 

「……」

俺は遠い目をした。

 

俺はチュートリアルお兄さんだったはずだ。

主人公の成長を見届けて、連絡先を渡して、次の地方に行くだけだったはずだ。

 

なのに。

なんでこうなる。

 

俺は二人を見て、ため息をついた。

「……え?俺?」

 

ユウキが頷く。

「うん」

 

ハルカも頷く。

「お願い」

 

ダイゴが横で笑っている。

絶対楽しんでる。

俺は小さく笑った。

 

もう逃げても無駄だ。

こういう時は――やるしかない。

 

「分かったよ」

俺はモンスターボールを取り出した。

 

観客が息を呑む。

ユウキとハルカが身構える。

 

俺は静かに言った。

「……相棒、行くぞ」

 

ボールを投げる。

「出てこい、ブースター」

 

赤い炎のポケモンが地面に降り立つ。

ブースターが低く唸った。

 

ユウキが笑う。

「炎タイプか……いいね」

 

ハルカも笑う。

「チャンピオン同士、全力で行くよ!」

 

俺は口角を上げた。

「……俺も少し本気で行くか」

 

そして心の中で呟いた。

(ホウエン、ワクワクさせんなよ)

 

次回

「ホウエンチャンピオン、ワクワクさせんなよ」

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