改めて何が起きてるか解説しよう。
ホウエンポケモンリーグ。
歓声が止まらない。
いや、止まるわけがない。
史上初の「チャンピオン二人誕生」。
しかも、その二人が揃って指名した相手が――俺。
俺は今、リーグ会場のバトルフィールドに立っていた。
正面にはユウキ。
その隣にハルカ。
二人とも、疲れているはずなのに。
その目は、燃えていた。
……主人公って、こういう時だけ無限のスタミナあるよな。
観客席はぎゅうぎゅう詰めで、カメラが大量に向けられている。
実況席も既に準備万端。
なんで外に出てた実況が、いつの間にか席に戻ってるんだよ。
手際良すぎだろ。
『さぁぁぁぁぁ!!』
『まさかの展開です!!』
『ホウエンリーグ史上初!!チャンピオン二人による指名試合!!』
『そして相手は謎のトレーナー――八雲零!!』
俺は遠い目をした。
謎のトレーナーって何だよ。
名前バレてんじゃねぇか。
ユウキが軽く笑いながら言った。
「改めて言う。俺はユウキ。ホウエンチャンピオンだ」
ハルカも同じように笑う。
「私も。ハルカ。久しぶりだね、零さん」
俺はため息をついた。
「……どうも。八雲零です」
自分で言ってて虚しい。
俺は本来、こういう場所に立つ人間じゃない。
主人公たちが輝く舞台を、後ろから見守る役だ。
なのに、どうしてこうなった。
俺が内心で現実逃避していると、実況が叫ぶ。
『それではァァァ!!指名試合開始ィィィ!!』
ユウキがモンスターボールを構えた。
「行け! バシャーモ!!」
白い閃光。
炎と格闘のオーラが立ち上がり、バシャーモがフィールドに降り立つ。
観客が湧く。
『おおっと!ユウキ選手はバシャーモ!!』
『そしてハルカ選手は――!?』
ハルカもボールを投げた。
「出てきて、ラグラージ!」
地面が揺れる。
水と地面の巨体が姿を現し、低く唸った。
バシャーモとラグラージ。
ホウエンの象徴みたいな二体。
そして、二人はチャンピオンになったばかり。
……強いに決まってる。
俺は軽く首を鳴らした。
「へぇ~……」
思わず笑ってしまう。
こういうの、嫌いじゃない。
いや、むしろ――好きだ。
俺はモンスターボールを一つ取り出し、投げた。
「相棒、また行くぞ。ブースター!」
ブースターがフィールドに現れる。
赤い体毛が揺れ、熱が立ち上がった。
観客がどよめく。
『おおっと!八雲零はブースター!!』
『炎タイプ同士の激突か!?』
俺は実況にツッコミたくなった。
いや、相手ラグラージいるんですけど。
炎タイプ同士じゃないです。
ユウキが口角を上げる。
「ブースターか。悪くない」
ハルカも目を細めた。
「炎タイプだけで来るなら、容赦しないよ?」
俺は肩をすくめた。
「別に炎タイプだけで来たわけじゃないけどな」
でも、今はこれでいい。
ブースターが低く唸る。
俺は小さく言った。
「……影分身」
ブースターの姿が増える。
一瞬でフィールドが赤い影で埋まった。
『な、なんだァ!?』
『影分身だァァァ!!』
ユウキが即座に指示を飛ばす。
「バシャーモ! かえんほうしゃ!」
バシャーモの口から炎が吐き出され、影が一気に消し飛ぶ。
だが。
その炎の中を、ブースターが突っ切った。
「ブオオオッ!!」
ユウキの目が見開かれる。
「っ……!?」
俺は叫ぶ。
「高速移動!」
ブースターが一瞬で距離を詰め、バシャーモの懐へ潜り込んだ。
「火炎放射!!」
ブースターの炎が直撃する。
バシャーモの体が揺れる。
『決まったァァァ!!』
『ブースターの火炎放射!!』
ユウキが歯を食いしばる。
「バシャーモ、耐えろ!」
バシャーモは踏ん張った。
さすがだ。
さすがチャンピオン。
だが、次の瞬間。
ハルカが冷静に言う。
「ラグラージ、ハイドロポンプ」
巨大な水柱が放たれる。
まっすぐ、ブースターへ。
俺は舌打ちした。
「……チッ」
俺は叫ぶ。
「ブースター! 影分身!」
ブースターの姿がまた増え、水柱が分身を貫く。
だが本体は横へ回避。
ギリギリだ。
ハルカが驚いた顔をした。
「避けた……!」
ユウキが笑う。
「なるほど。避けるための影分身かよ」
俺はニヤッと笑った。
「まぁな」
観客席がざわつく。
実況が興奮して叫ぶ。
『すごい!すごいぞぉぉ!!』
『チャンピオン二人を相手に、互角以上の立ち回り!!』
……互角以上?
実況、お前盛ってない?
でも確かに、悪くない。
俺はブースターを見て言った。
「いいぞ、相棒」
その瞬間。
ユウキが声を張り上げた。
「バシャーモ! スカイアッパー!」
バシャーモが踏み込み、拳を突き上げる。
ブースターの腹に直撃。
「ブオッ……!」
ブースターが吹き飛ぶ。
俺は歯を食いしばった。
「……っ」
ハルカが畳みかける。
「ラグラージ、れいとうビーム!」
氷の光線。
吹き飛ばされたブースターに追撃。
……完璧な連携。
チャンピオンになったばかりなのに、もう息が合ってる。
俺は笑った。
「へぇ……」
ワクワクしてきた。
ブースターが氷をギリギリでかわし、着地する。
息が荒い。
だが、目はまだ死んでいない。
俺は小さく呟いた。
「……へぇ~バシャーモとラグラージと一緒にお前らも進化したか」
ユウキが笑う。
「当然だろ」
ハルカも笑う。
「私たち、チャンピオンだからね」
俺は口角を上げた。
この感じ。
レッドと戦った時。
ゴールドと戦った時。
あの時の、胸が熱くなる感覚。
俺は息を吐いた。
「……あんまワクワクさせんなよ」
ブースターが俺を見た。
俺は頷く。
「ブースター」
そして叫ぶ。
「だいもんじ!!」
巨大な火球が空を裂き、フィールドに降り注ぐ。
バシャーモとラグラージをまとめて包み込む。
会場が熱で揺れた。
『うおおおおお!!』
『だいもんじだァァァ!!』
炎が収まった時。
バシャーモは膝をついていた。
ラグラージも息を荒くしている。
だが――まだ倒れない。
……マジかよ。
ユウキが叫ぶ。
「バシャーモ!ブレイズキック!」
ハルカも叫ぶ。
「ラグラージ!じしん!」
炎の蹴りと、地面の揺れが同時に来る。
俺は即座に叫んだ。
「ブースター! 高速移動!」
ギリギリで回避。
だが、地面の揺れで足元が崩れる。
ブースターが体勢を崩した。
「今だ!」
ユウキが叫ぶ。
バシャーモが突っ込んでくる。
俺は思わず笑った。
「……いいね」
俺はブースターを戻した。
そして、新しいボールを投げる。
「リザードン、行け」
炎の翼が広がる。
リザードンが咆哮した。
会場がどよめく。
『リザードンだァァァ!!』
『これはカントー御三家のリザードン!!』
ユウキとハルカが目を見開いた。
「……っ!」
「やっぱり、隠してた……!」
俺はニヤッと笑った。
「当然だろ。俺、チュートリアルお兄さんだぞ?」
意味が分からない。
俺自身が分からない。
でも、今はそれでいい。
俺はリザードンを指差した。
「火炎放射」
リザードンの炎が、フィールドを焼き尽くした。
バシャーモが倒れる。
ラグラージも倒れる。
会場が静まり返る。
そして――次の瞬間。
割れんばかりの歓声が響いた。
『決着ゥゥゥゥゥ!!』
『勝者ァァァ!!八雲零!!』
俺は息を吐き、リザードンを戻した。
ユウキとハルカは、倒れたポケモンを戻しながら、笑っていた。
悔しそうに。
でも、楽しそうに。
ユウキが言う。
「……負けたな」
ハルカも言う。
「でも、すごく楽しかった」
俺は笑った。
「俺もだよ」
そして、素直に言った。
「凄く強かったよ、君たち」
二人の目が少し揺れる。
俺は続けた。
「レッドやゴールドのときみたいなワクワク感を感じたし」
それは本心だった。
俺はポケットからメモを取り出し、二人に差し出した。
「……連絡先」
ユウキが受け取る。
ハルカも受け取る。
「またどこかで会おう」
二人が頷く。
「うん」
「絶対会おう」
俺は背を向けた。
そして振り返らずに言った。
「じゃあ俺はシンオウ地方に行ってくるよ」
最後に、笑って手を振る。
「またな」
ホウエン地方。
暑いし治安も悪いし、石オタクもいる。
だけど――悪くなかった。
むしろ、最高だった。
俺は少しだけ口角を上げた。
「……ホウエン、ワクワクさせんなよ」
次回シンオウ地方編
「こんにちはー!どうもー八雲零でーす!」