チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第7話 ホウエンチャンピオン、ワクワクさせんなよ

改めて何が起きてるか解説しよう。

 

ホウエンポケモンリーグ。

歓声が止まらない。

いや、止まるわけがない。

 

史上初の「チャンピオン二人誕生」。

 

しかも、その二人が揃って指名した相手が――俺。

俺は今、リーグ会場のバトルフィールドに立っていた。

 

正面にはユウキ。

その隣にハルカ。

二人とも、疲れているはずなのに。

その目は、燃えていた。

 

……主人公って、こういう時だけ無限のスタミナあるよな。

 

観客席はぎゅうぎゅう詰めで、カメラが大量に向けられている。

実況席も既に準備万端。

 

なんで外に出てた実況が、いつの間にか席に戻ってるんだよ。

手際良すぎだろ。

 

『さぁぁぁぁぁ!!』

 

『まさかの展開です!!』

 

『ホウエンリーグ史上初!!チャンピオン二人による指名試合!!』

 

『そして相手は謎のトレーナー――八雲零!!』

 

俺は遠い目をした。

謎のトレーナーって何だよ。

名前バレてんじゃねぇか。

 

ユウキが軽く笑いながら言った。

「改めて言う。俺はユウキ。ホウエンチャンピオンだ」

 

ハルカも同じように笑う。

「私も。ハルカ。久しぶりだね、零さん」

 

俺はため息をついた。

「……どうも。八雲零です」

 

自分で言ってて虚しい。

俺は本来、こういう場所に立つ人間じゃない。

主人公たちが輝く舞台を、後ろから見守る役だ。

 

なのに、どうしてこうなった。

 

俺が内心で現実逃避していると、実況が叫ぶ。

『それではァァァ!!指名試合開始ィィィ!!』

 

ユウキがモンスターボールを構えた。

「行け! バシャーモ!!」

 

白い閃光。

炎と格闘のオーラが立ち上がり、バシャーモがフィールドに降り立つ。

観客が湧く。

 

『おおっと!ユウキ選手はバシャーモ!!』

 

『そしてハルカ選手は――!?』

 

ハルカもボールを投げた。

「出てきて、ラグラージ!」

 

地面が揺れる。

水と地面の巨体が姿を現し、低く唸った。

バシャーモとラグラージ。

ホウエンの象徴みたいな二体。

 

そして、二人はチャンピオンになったばかり。

……強いに決まってる。

 

俺は軽く首を鳴らした。

「へぇ~……」

 

思わず笑ってしまう。

こういうの、嫌いじゃない。

いや、むしろ――好きだ。

 

俺はモンスターボールを一つ取り出し、投げた。

「相棒、また行くぞ。ブースター!」

 

ブースターがフィールドに現れる。

赤い体毛が揺れ、熱が立ち上がった。

観客がどよめく。

 

『おおっと!八雲零はブースター!!』

 

『炎タイプ同士の激突か!?』

 

俺は実況にツッコミたくなった。

いや、相手ラグラージいるんですけど。

炎タイプ同士じゃないです。

 

ユウキが口角を上げる。

「ブースターか。悪くない」

 

ハルカも目を細めた。

「炎タイプだけで来るなら、容赦しないよ?」

 

俺は肩をすくめた。

「別に炎タイプだけで来たわけじゃないけどな」

 

でも、今はこれでいい。

 

ブースターが低く唸る。

俺は小さく言った。

「……影分身」

 

ブースターの姿が増える。

一瞬でフィールドが赤い影で埋まった。

 

『な、なんだァ!?』

 

『影分身だァァァ!!』

 

ユウキが即座に指示を飛ばす。

「バシャーモ! かえんほうしゃ!」

 

バシャーモの口から炎が吐き出され、影が一気に消し飛ぶ。

だが。

その炎の中を、ブースターが突っ切った。

 

「ブオオオッ!!」

 

ユウキの目が見開かれる。

「っ……!?」

 

俺は叫ぶ。

「高速移動!」

 

ブースターが一瞬で距離を詰め、バシャーモの懐へ潜り込んだ。

「火炎放射!!」

 

ブースターの炎が直撃する。

バシャーモの体が揺れる。

 

『決まったァァァ!!』

 

『ブースターの火炎放射!!』

 

ユウキが歯を食いしばる。

「バシャーモ、耐えろ!」

 

バシャーモは踏ん張った。

さすがだ。

さすがチャンピオン。

 

だが、次の瞬間。

ハルカが冷静に言う。

「ラグラージ、ハイドロポンプ」

 

巨大な水柱が放たれる。

まっすぐ、ブースターへ。

 

俺は舌打ちした。

「……チッ」

 

俺は叫ぶ。

「ブースター! 影分身!」

 

ブースターの姿がまた増え、水柱が分身を貫く。

だが本体は横へ回避。

ギリギリだ。

 

ハルカが驚いた顔をした。

「避けた……!」

 

ユウキが笑う。

「なるほど。避けるための影分身かよ」

 

俺はニヤッと笑った。

「まぁな」

 

観客席がざわつく。

実況が興奮して叫ぶ。

『すごい!すごいぞぉぉ!!』

 

『チャンピオン二人を相手に、互角以上の立ち回り!!』

 

……互角以上?

 

実況、お前盛ってない?

でも確かに、悪くない。

 

俺はブースターを見て言った。

「いいぞ、相棒」

 

その瞬間。

ユウキが声を張り上げた。

「バシャーモ! スカイアッパー!」

 

バシャーモが踏み込み、拳を突き上げる。

ブースターの腹に直撃。

 

「ブオッ……!」

ブースターが吹き飛ぶ。

 

俺は歯を食いしばった。

「……っ」

 

ハルカが畳みかける。

「ラグラージ、れいとうビーム!」

 

氷の光線。

吹き飛ばされたブースターに追撃。

 

……完璧な連携。

チャンピオンになったばかりなのに、もう息が合ってる。

 

俺は笑った。

「へぇ……」

 

ワクワクしてきた。

ブースターが氷をギリギリでかわし、着地する。

息が荒い。

だが、目はまだ死んでいない。

 

俺は小さく呟いた。

「……へぇ~バシャーモとラグラージと一緒にお前らも進化したか」

 

ユウキが笑う。

「当然だろ」

 

ハルカも笑う。

「私たち、チャンピオンだからね」

 

俺は口角を上げた。

 

この感じ。

レッドと戦った時。

ゴールドと戦った時。

 

あの時の、胸が熱くなる感覚。

 

俺は息を吐いた。

「……あんまワクワクさせんなよ」

 

ブースターが俺を見た。

俺は頷く。

 

「ブースター」

 

そして叫ぶ。

「だいもんじ!!」

 

巨大な火球が空を裂き、フィールドに降り注ぐ。

バシャーモとラグラージをまとめて包み込む。

会場が熱で揺れた。

 

『うおおおおお!!』

 

『だいもんじだァァァ!!』

 

炎が収まった時。

バシャーモは膝をついていた。

ラグラージも息を荒くしている。

 

だが――まだ倒れない。

……マジかよ。

 

ユウキが叫ぶ。

「バシャーモ!ブレイズキック!」

 

ハルカも叫ぶ。

「ラグラージ!じしん!」

 

炎の蹴りと、地面の揺れが同時に来る。

 

俺は即座に叫んだ。

「ブースター! 高速移動!」

 

ギリギリで回避。

だが、地面の揺れで足元が崩れる。

ブースターが体勢を崩した。

 

「今だ!」

ユウキが叫ぶ。

 

バシャーモが突っ込んでくる。

 

俺は思わず笑った。

「……いいね」

 

俺はブースターを戻した。

そして、新しいボールを投げる。

 

「リザードン、行け」

 

炎の翼が広がる。

リザードンが咆哮した。

会場がどよめく。

 

『リザードンだァァァ!!』

 

『これはカントー御三家のリザードン!!』

 

ユウキとハルカが目を見開いた。

「……っ!」

 

「やっぱり、隠してた……!」

 

俺はニヤッと笑った。

「当然だろ。俺、チュートリアルお兄さんだぞ?」

 

意味が分からない。

俺自身が分からない。

 

でも、今はそれでいい。

 

俺はリザードンを指差した。

「火炎放射」

 

リザードンの炎が、フィールドを焼き尽くした。

バシャーモが倒れる。

ラグラージも倒れる。

 

会場が静まり返る。

 

そして――次の瞬間。

割れんばかりの歓声が響いた。

 

『決着ゥゥゥゥゥ!!』

 

『勝者ァァァ!!八雲零!!』

 

俺は息を吐き、リザードンを戻した。

 

ユウキとハルカは、倒れたポケモンを戻しながら、笑っていた。

悔しそうに。

でも、楽しそうに。

 

ユウキが言う。

「……負けたな」

 

ハルカも言う。

「でも、すごく楽しかった」

 

俺は笑った。

「俺もだよ」

 

そして、素直に言った。

「凄く強かったよ、君たち」

 

二人の目が少し揺れる。

俺は続けた。

「レッドやゴールドのときみたいなワクワク感を感じたし」

 

それは本心だった。

 

俺はポケットからメモを取り出し、二人に差し出した。

 

「……連絡先」

ユウキが受け取る。

ハルカも受け取る。

 

「またどこかで会おう」

 

二人が頷く。

「うん」

 

「絶対会おう」

 

俺は背を向けた。

そして振り返らずに言った。

「じゃあ俺はシンオウ地方に行ってくるよ」

 

最後に、笑って手を振る。

「またな」

 

ホウエン地方。

暑いし治安も悪いし、石オタクもいる。

だけど――悪くなかった。

 

むしろ、最高だった。

 

俺は少しだけ口角を上げた。

「……ホウエン、ワクワクさせんなよ」

 

次回シンオウ地方編

「こんにちはー!どうもー八雲零でーす!」

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