チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第8話 こんにちはー!どうもー八雲零でーす!

――シンオウ地方。

空気が違う。

ホウエンみたいにベタつかないし、何より暑くない。

 

最高だ。

海風の湿気もない。

 

変な石オタクもいない。

悪の組織も、今のところ見えない。

 

うん、平和。

やっぱりシンオウって落ち着くな。

 

俺は駅のホームで伸びをしながら、深呼吸した。

「……やっと来た」

 

旅をしてると、移動だけでHPが削られる。

特に最近は、リーグだの悪の組織だのチャンピオンだの、情報量が多すぎた。

 

俺はスマホを開いて、連絡帳を確認する。

ユウキとハルカの名前が増えている。

 

……増えた。

また増えた。

 

「はぁ……」

俺はため息をついて、スマホを閉じた。

 

何で俺の連絡帳って、こんなに増えるんだ?

俺、そんな社交的じゃないんだけど。

というか、基本的に逃げてるんだけど。

 

だが逃げても追ってくる。

悪の組織と主人公とチャンピオンが。

俺の人生、なんなんだろうな。

 

……まぁいい。

今はシンオウだ。

切り替えよう。

 

俺はリュックを背負い直し、街を歩き出した。

 

見慣れた風景。

石畳の道。

澄んだ空気。

 

遠くに見える山。

シンオウの街は、どこか厳かで、落ち着いている。

 

――そう、落ち着いているはずだった。

 

数分後。

俺は「何かがおかしい」ことに気づいた。

街の人が、妙にざわついている。

 

視線が多い。

というか、明らかに俺を見ている。

 

俺は嫌な予感を覚えた。

「……いやいや」

 

シンオウに着いたばかりだぞ?

俺、まだ何もしてないぞ?

なんで見られてるんだ?

 

俺は帽子を深くかぶり、足早に歩く。

だが視線が追ってくる。

ヒソヒソ声が聞こえる。

 

「……あの人じゃない?」

 

「ホウエンでチャンピオン二人倒したっていう……」

 

「え、ほんと?カントー出身の……?」

 

「八雲……零……?」

 

「やば……本人じゃん」

 

俺は提醒した。

「……噂、回るの早すぎだろ!!」

 

いや、SNSだな。

絶対SNS。

あのホウエンリーグの試合、絶対拡散された。

 

俺は頭を抱えた。

 

俺の旅は、いつから「配信者」みたいな扱いになったんだ。

そのまま歩いていると、遠くに人だかりが見えた。

 

明らかに大きい。

観光客の群れではない。

 

――もっと、異質な空気。

 

俺は足を止めた。

「……なんだ?」

 

群衆の中心。

そこには、大きな建物。

荘厳で、格式があって、威圧感がある。

 

……ポケモンリーグ関係の施設?

 

いや、違う。

この雰囲気は。

 

「……まさか」

 

俺が呟いた瞬間。

人だかりが割れた。

まるで誰かを迎えるように。

そして、二人の女性が現れた。

 

片方は、明るい雰囲気の少女。

青みがかった黒色の髪、元気そうな顔立ち。

見覚えがある。

 

――ヒカリ。

 

もう片方は、圧倒的な存在感を放つ女性。

長い金髪。

静かな微笑み。

気品と威圧が同居する、異常なオーラ。

 

……シンオウチャンピオン。

シロナ。

 

俺はその場で固まった。

「……」

 

いやいやいや。

なんで?

なんでこの二人が揃ってるんだよ。

 

しかも、こっち見てる。

確実に俺を見てる。

 

やめろ。

俺は逃げたい。

だが、足が動かない。

 

ヒカリがこちらに向かって手を振った。

「……いた!」

 

シロナも静かに微笑んだ。

「ふふ。やっぱり来たのね」

 

終わった。

 

俺は確信した。

シンオウでも平穏は無理だ。

 

俺の人生、詰んでる。

 

ヒカリが小走りで近づいてくる。

「久しぶり!零!」

 

「……久しぶりじゃないだろ、割と最近だろ」

俺は即ツッコミした。

 

シロナがゆっくり歩いてきて、俺の前で止まる。

「八雲零くん。噂は聞いているわ」

 

やめてくれ。

噂を聞くな。

 

俺は笑顔を作った。

「ど、どうも……」

 

ヒカリがニヤニヤしている。

「ねえねえ、ホウエンでさ」

 

俺は即座に言った。

「その話やめようか」

 

「えー!」

ヒカリが不満そうに頬を膨らませる。

 

だが、次の瞬間。

ヒカリの後ろにいたシロナが、俺をじっと見た。

その視線は優しい。

 

だけど、どこか鋭い。

 

「零くん。あなた……また色々な地方を回っているのね」

 

「まぁ、はい」

 

「バッジケース、見せてもらっていい?」

 

俺は固まった。

「……え?」

 

シロナの声は柔らかい。

しかし、断れる雰囲気がない。

 

俺は恐る恐る、腰のバッジケースに触れた。

そして取り出す。

開く。

中には――。

 

カントー。

ジョウト。

ホウエン。

そして、既にシンオウのバッジもいくつか。

 

……いや、なんであるんだよ。

俺自身が一番疑問だった。

 

ヒカリが目を丸くする。

「ちょっと待って!?」

 

シロナも珍しく驚いた顔をした。

「……もう、シンオウのバッジも持っているの?」

 

俺は視線を逸らした。

「……あのー」

 

ヒカリが叫ぶ。

「ずるい!!私より進んでるじゃん!!」

 

俺は手を振った。

「違う違う違う!俺が集めたわけじゃない!」

 

「じゃあ誰が集めたの!?」

 

「知らん!!」

 俺は本気で叫んだ。

 

俺が叫んでていると、ヒカリが笑った。

「紹介するね!この人、シンオウのチャンピオン、シロナさん!」

 

「いや知ってる」

 

「で、こっちが零!」

 

「紹介されるのか俺」

 

俺がツッコミを入れる間もなく、ヒカリが元気よく言った。

「零ってさ、めっちゃ強いんだよ!」

 

「余計なこと言うな!」

 

俺が叫ぶと、シロナが微笑んだ。

「ふふ。やっぱり噂通りね」

 

そして俺の目を見て、ゆっくり言う。

「あなた……シンオウの歴史にも興味はある?」

 

俺は一瞬だけ、固まった。

歴史。

シンオウの歴史。

 

つまり、神話。

 

アルセウス。

ディアルガ。

パルキア。

ギラティナ。

 

……嫌な単語が脳内に浮かびまくる。

 

俺は乾いた笑いを浮かべた。

「さぁどうでしょう?」

 

そして、なぜか俺の手には――。

ヒウンアイスがあった。

どこで買ったのかは分からない。

 

だが、俺はそれを食べながら言った。

「ここの歴史なら知りたいですけどね」

 

ヒカリがぽかんとした。

「……なんでヒウンアイス?」

 

俺は真顔で答えた。

「知らない。気づいたら持ってた」

 

シロナがくすっと笑う。

「面白い人ね」

 

俺はため息をついた。

 

そして心の中で呟く。

(シンオウ地方、絶対平和じゃない)

 

間違いなく、ここからまた面倒が始まる。

 

俺はアイスをかじりながら、笑顔で手を振った。

「こんにちはー!どうもー!八雲零でーす!」

 

自分でも分かる。

完全にやけくそだった。

 

次回

「触れてはいけない伝説」

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