チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第10話 写真撮ります?

シンオウ地方。

神話が眠り、伝説が息づき、人々が歴史を語り継ぐ土地。

……そんな場所で俺は今、人生最大級の「詰み」を迎えていた。

 

目の前には――

ヒカリ。

そして、シロナ。

 

どっちもシンオウ地方の顔役みたいな存在で、普通のトレーナーなら会えただけで泣く。

 

でも俺は違う。

泣きたいのはこっちだ。

 

俺の背後には、黒い霧が漂っている。

気温が明らかに下がっている。

 

そしてその中心に立つのは――

 

悪夢のポケモン。

ダークライ。

 

ヒカリは、固まったまま震えていた。

「……え……なに……これ……」

 

シロナは目を細め、冷静に状況を分析している。

だが、その目は完全に戦闘態勢のそれだった。

 

俺は、肩の上のミュウを指でつつきながらため息を吐く。

「……お前ら、ほんと空気読めないよな」

 

「みゅー♪」

 

読めてないわけじゃない。

絶対読んだ上でやってる。

 

セレビィは「びぃ」と鳴き、どこか誇らしげに胸を張った。

 

なにを誇ってるんだよ。

 

そして、ダークライは無言で俺の背後に立ったまま、圧だけを撒き散らしている。

圧だけで相手を殺しにくるタイプのポケモン。

 

ヒカリが小さく呟く。

「……夢、じゃないよね……?」

 

俺は真顔で答えた。

「夢だったら俺が一番助かってる」

 

シロナが一歩前に出る。

足音は静かなのに、空気が変わった。

 

「零くん」

 

「はい」

 

「あなたは……ダークライと関わりがあるの?」

 

俺は正直に言った。

「いや、勝手に出てきました」

 

シロナは即答した。

「そんなことある?」

 

「俺もそう思う」

 

ヒカリは完全に涙目で、俺の服の袖を掴んだ。

「ねえ……零……」

 

「はい」

 

「……それ……本当にやばいよ……?」

 

俺は乾いた笑みを浮かべた。

「うん、俺もそう思う」

 

この状況、何がやばいって。

シンオウ地方は神話に近い土地だ。

 

ギラティナ、アルセウス、ディアルガ、パルキア。

その辺の単語を出すだけで空気が変わる。

 

そんな場所で。

ダークライが普通に出現してる。

 

しかも、俺の背後で護衛みたいに立ってる。

完全に「事件の中心人物」だ。

 

俺はシロナとヒカリの視線を感じながら、軽く咳払いした。

「……あのさ」

 

二人が俺を見る。

 

俺はできるだけ平然とした声で言った。

「……ダークライだ」

 

ヒカリが「うん……」と頷く。

シロナも無言で頷く。

 

いや、そりゃそうだ。

誰が見てもダークライだ。

 

俺はそのまま、続けて言った。

「……2人とも写真撮ります?」

 

ヒカリの目が一瞬で見開かれた。

「……は?」

 

シロナも固まる。

「……え?」

 

俺はスマホを取り出しながら、割と真剣な顔で言った。

「いや、だってさ」

俺はダークライを指差した。

 

「こんなの現実で見れることないし」

 

「いや」

 

「しかも野生じゃなくて普通に出てきてるし」

 

「いやいや」

 

「写真撮ってネットに上げればバズりますよ」

 

ヒカリが叫んだ。

「バズるとかそういう問題じゃない!!」

 

俺は首を傾げた。

「え?でもバズるよ?」

 

シロナが静かに言った。

「零くん……」

 

「はい」

 

「あなた、危機感がないの?」

 

俺は即答した。

「危機感はありますよ?」

 

「ならなぜ写真を……」

 

俺は当たり前のように言った。

「だって記念になるじゃないですか」

 

ヒカリが崩れ落ちた。

「記念……?」

 

俺はさらに畳み掛ける。

「それに知り合いに反応されまくりますけど」

 

ヒカリがゆっくり顔を上げる。

「……知り合い……?」

 

俺は頷いた。

「はい。レッドとかゴールドとかグリーンとか」

 

シロナの眉がぴくっと動いた。

「……レッド?」

 

ヒカリも固まった。

「……ゴールド?」

 

俺は普通に言った。

「あとワタルとかシルバーとか」

 

ヒカリが息を呑む。

「……え、え、え?」

 

シロナが静かに目を細めた。

「……零くん。あなたの交友関係、少しおかしくない?」

 

俺は苦笑いした。

「いや、俺もそう思います」

 

ダークライが、無言で俺のスマホを覗き込むように近づいた。

怖い。

いや、怖いけど。

 

この状況、俺が一番怖い。

 

俺はスマホのカメラを起動し、二人に向けて言った。

「ほら、撮りましょう」

 

ヒカリが必死に首を振る。

「無理無理無理無理!!」

 

シロナも冷静に断る。

「やめておきなさい。危険よ」

 

俺は一瞬だけ黙り込んだ。

 

……確かに。

普通はそうだ。

 

でも。

俺は、ちょっとだけ笑った。

 

「じゃあ俺が撮ります」

 

「え?」

ヒカリが驚く。

 

俺はダークライの隣に立ち、肩を組むみたいに寄った。

……いや、寄っただけで寒い。

氷タイプか?ってくらい寒い。

 

俺はスマホを構え、無表情で言った。

「はいチーズ」

 

カシャ。

シャッター音が鳴った瞬間――

ヒカリのスマホが震えた。

 

通知。

ピコン。

 

ヒカリが画面を見て固まる。

「……え?」

 

シロナもスマホを見る。

「……これは……」

 

俺が首を傾げる。

「ん?」

 

ヒカリが震える声で呟いた。

「……今……投稿した……?」

 

俺は笑顔で親指を立てた。

「しました」

 

「なんで!?」

 

俺は当然のように言った。

「バズるから」

 

ヒカリが叫んだ。

「バズる前に死ぬ可能性もあるよ!?」

 

俺は首を傾げる。

「え?でもダークライ味方だし」

 

ヒカリは泣きそうになりながら言った。

「それが意味わかんないんだってばぁぁぁ!!」

 

シロナがスマホを見つめ、目を細める。

「……すでに反応が来てるわね」

 

ヒカリも画面を見ながら、顔が青くなっていく。

「……やば……」

 

俺もスマホを確認する。

通知が、狂ったように鳴っている。

 

ピコン。

ピコンピコンピコン。

 

俺は読み上げた。

「……グリーンから『は?』」

 

「……ゴールドから『お前どこにいんだよ』」

 

「……シルバーから『ふざけてんのか?』」

 

「……ワタルから『何をしている』」

 

ヒカリが叫んだ。

「ほらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺は顔を上げて、ヒカリとシロナを見た。

「……知り合いしかいないな」

 

ヒカリは崩れ落ちた。

「なんなのその人脈……」

 

俺はスマホを見つめ、ふと気づいた。

通知欄に、とんでもない名前があった。

 

俺の目が見開かれる。

「……え?」

 

シロナが俺の顔色の変化に気づく。

「どうしたの?」

 

俺は、乾いた声で呟いた。

「……ダンデが反応してる」

 

ヒカリが目を丸くする。

「……え?」

 

俺はさらに呟く。

「……ダイゴも反応してる」

 

ヒカリの口が開いたまま止まった。

シロナも一瞬だけ沈黙する。

「……ダイゴ?」

 

俺はスマホの画面を見つめながら、ゆっくり言った。

「……え?ダイゴはまだしもダンデ?」

 

ありえない。

だって。

この世界の繋がり方、バグってる。

俺が呆然としていると、ヒカリのスマホが再び鳴った。

 

ピコン。

 

画面には――

【シルバー:今すぐ説明しろ】

 

そして、次の通知。

【ハルカ:ねえ零くん!ダークライって本物!?】

 

さらに。

【ユウキ:え、これ怖すぎるんだけど】

 

ヒカリが泣きながら俺を揺さぶった。

「零!!どうするのこれ!!」

 

俺は虚無の目で答えた。

「……逃げるしかなくない?」

 

シロナが静かに言う。

「零くん」

 

「はい」

 

「逃げるの?」

 

俺は真顔で言った。

「逃げます」

 

その瞬間。

遠くの空が――ピカッと光った。

雷。

 

いや、雷じゃない。

空間が歪むような感覚。

 

ヒカリが震える声で呟く。

「……これ……まさか……」

 

シロナの目が細くなる。

「……ギラティナ……?」

 

俺は即座に叫んだ。

「違う違う違う!!俺じゃない!!」

 

ダークライが、無言で空を見上げる。

ミュウが楽しそうに鳴く。

「みゅー♪」

 

セレビィが頷く。

「びぃ」

 

俺は頭を抱えた。

「お前ら、やめろぉぉぉぉ!!」

 

そのとき。

俺のスマホに、新しい通知が来た。

【ダイゴ:今すぐ連絡してくれ】

【ダンデ:君、最高に面白いね!】

 

俺は真顔で呟いた。

「……終わった」

 

ヒカリが泣きながら叫ぶ。

「終わったじゃないよ!!」

 

シロナは静かに、しかし確実に言った。

「零くん。あなたは今日から、シンオウの重要人物よ」

 

俺は顔を引きつらせた。

「やめてください」

 

だが。

世界はもう、俺を放してくれない。

俺が望んでいるのはただ一つ。

静かで平和な旅。

 

なのに。

俺の背後にはダークライ。

肩にはミュウとセレビィ。

スマホは炎上。

 

そして――

神話が動き始めている。

 

俺は空を見上げて呟いた。

「……俺、普通に旅したいだけなんだけどな」

 

次回

「知り合いしかいないな」

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