――二月。
寒い。
なのに。
俺の机の上が甘い。
おかしい。
明らかにおかしい。
俺は呟いた。
「……今更じゃね?」
今日は二月二十八日。
バレンタインは、とっくに終わっている。
なのに。
机の上に積まれた箱。
袋。
リボン。
ピンク。
圧。
俺は現実逃避した。
「……見なかったことにしよう」
その瞬間。
「ダメだ」
背後から声。
振り向く。
そこにいたのは、笑顔の赤い帽子。
レッド。
無言圧の化身。
俺は言った。
「なんでいる」
レッドは短く言う。
「見届け」
俺は叫んだ。
「何をだよ!!!!」
ドアが開く。
一人目。
真っ直ぐな目。
青いマフラー。
ヒカリ。
「遅れちゃってごめんね!」
俺は言った。
「二週間な」
ヒカリは胸を張る。
「手作り!」
俺は思った。
(嫌な予感)
「安心して!ちゃんと味見したから!」
俺は言った。
「その情報が一番怖い」
ヒカリはむっとする。
「大丈夫だって!」
箱を渡される。
重い。
なんかずっしりしてる。
俺は開ける。
見た目は普通。
食べる。
……。
……甘い。
そして、後から来る謎の辛味。
俺は言った。
「……何入れた?」
ヒカリは目を逸らす。
「隠し味!」
俺は言った。
「隠すな」
二人目。
勢いでドアが開く。
「八雲さーん!」
元気全開。
ハルカ。
俺は言った。
「お前は早いな」
ハルカは笑う。
「作りすぎちゃって!」
俺は思った。
(量で勝負するタイプ)
紙袋を渡される。
軽い。
嫌な予感。
開ける。
中身、ほぼ生クリーム。
固まってない。
俺は言った。
「これチョコか?」
ハルカは言った。
「チョコ風味!」
俺は叫んだ。
「風味って何だよ!!!!」
三人目。
静かにドアが開く。
落ち着いた視線。
白い帽子。
セレナ。
俺は身構える。
「……お前はちゃんとしてそう」
セレナは微笑む。
「当然でしょ?」
差し出される小箱。
完璧な包装。
美しい。
開ける。
見た目完璧。
香りも良い。
食べる。
うまい。
完璧。
俺は言った。
「……うまい」
セレナは満足そうに頷く。
「でしょう?」
そのまま小声で。
「本命だから」
俺は固まった。
「は?」
それは俺じゃなくてサトシの役目だろ!
ヒカリとハルカが振り向く。
「今なんて?」
「聞こえたよ?」
俺は叫んだ。
「言うな今!!!!」
空気が張り詰める。
レッド、無言で壁際。
完全に観戦モード。
俺は言った。
「お前、止めろ」
レッドは短く言う。
「無理」
俺は言った。
「使えねぇ!!!!」
そこへ。
さらにドアが開く。
「遅れてごめん!」
明るい声。
ミヅキ。
俺は天を仰いだ。
「増えるな」
ミヅキは言う。
「みんな今日渡すって聞いたから!」
俺は言った。
「情報共有するな」
ミヅキは小さな袋を差し出す。
「これは義理!」
俺はほっとする。
「助かる」
ミヅキは笑う。
「でも来年は分かんないよ?」
俺は言った。
「未来予告するな」
机の上。
チョコ山脈。
俺は椅子に沈む。
「……なんで今更なんだよ」
ヒカリが言う。
「タイミング合わなかったから!」
ハルカが言う。
「だって八雲さんいなかったし!」
セレナが言う。
「予定が合わなかったのよ」
ミヅキが言う。
「仕方ないよね!」
俺は思った。
(全地方横断型バレンタイン、やめろ)
突然。
スマホが震える。
嫌な予感。
俺は見る。
【アルセウス:概念的贈与済】
俺は言った。
「概念で済ますな」
レッドがスマホを覗く。
「神も参加」
俺は叫んだ。
「参加するな!!!!」
部屋の空気が甘い。
騒がしい。
うるさい。
重い。
面倒。
でも。
悪くない。
ヒカリが言う。
「嬉しくないの?」
俺は言う。
「……嬉しいに決まってるだろ」
ハルカが笑う。
「じゃあ食べて!」
俺は机を見る。
山。
甘さの暴力。
レッドが短く言う。
「逃げるな」
俺は言った。
「今日一番お前が敵だ」
夜。
全員帰った後。
机の上にはまだチョコ。
俺は一つ取る。
セレナのやつ。
食べる。
うまい。
ヒカリのやつも食べる。
……辛い。
ハルカのやつ。
ほぼクリーム。
ミヅキのやつ。
普通に美味しい。
俺は笑う。
「……なんだよ、今更」
でも。
遅れても。
今更でも。
渡したいと思ってくれたってことだ。
それだけで十分だ。
俺は天井を見る。
「……来年は、ちゃんと当日に来い」
スマホが震える。
【全員:了解!】
俺は叫んだ。
「グループ作るな!!!!」
番外編2 完
(※この八雲零は、三日間チョコを食べ続けて体調を崩しかけるが、レッドに無言でランニングに連行される)