チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第11話 知り合いしかいないな

――終わった。

俺はスマホを見つめたまま、現実逃避みたいに口を開いた。

「……知り合いしかいないな」

 

ヒカリが、ゆっくりと振り向いた。

目が死んでいた。

「……零」

 

「はい」

 

「それ、今言うこと?」

 

俺は真顔で頷いた。

「うん」

 

シロナさんは静かにスマホを見つめていたが、表情は相変わらず落ち着いている。

いや、落ち着きすぎだ。

さすがチャンピオン。

 

だがその目は、確実に“面倒ごと”を察知した目だった。

 

「……反応、すごいわね」

シロナさんが小さく呟く。

 

俺は画面をスクロールしながら読み上げる。

「グリーン『は?』」

 

「ゴールド『もう1回言うけどお前なにしてんだよ』」

 

「シルバー『○す』」

 

「ワタル『今すぐ説明しろ』」

 

ヒカリが叫んだ。

「シルバー怖すぎ!!」

 

俺は肩をすくめた。

「いつもあんな感じだよ」

 

「慣れちゃだめだよ!?」

 

俺のスマホは止まらない。

通知が鳴り続ける。

 

ピコン。

ピコン。

ピコンピコンピコン。

 

俺は目を細めた。

「……ハルカ『何してるの八雲さん?』」

 

「ユウキ『あんた、マジでどこいんの』」

 

「ヒウンシティのファンアカ『ダークライ!?!?!?』」

 

ヒカリが顔を覆った。

「なんでファンアカまであるの……」

 

俺も知らない。

というか、作るな。

 

俺はただの旅人だ。

ただの高校生だったんだ。

しかも宮城に住んでた普通の。

 

……いや、普通でもないか。

転生してるし。

 

俺はスマホを閉じて、空を仰いだ。

「……やっぱりバズってるけど」

 

ヒカリが泣きそうな顔で言う。

「バズるって軽く言うけど、これもう事件だよ!!」

 

俺は首を傾げた。

「事件ってほどでもなくない?」

 

ヒカリが食い気味に叫んだ。

「ダークライがいる時点で事件なの!!」

 

その通りだった。

俺の背後。

そこには今もダークライがいる。

 

無言。

無表情。

圧だけが強い。

 

「俺の後ろに立つなランキング」があるなら、堂々の一位だ。

そして肩には、ミュウとセレビィ。

世界観が崩壊している。

 

シロナさんが、ふっと微笑んだ。

「零くん。あなたって、面白いわね」

 

俺は即答した。

「面白くないです」

 

シロナさんは上品に笑う。

「ふふ。そういうところも含めて」

 

やめてほしい。

その“面白い”は、たぶん褒め言葉じゃない。

“面倒な爆弾”って意味だ。

 

ヒカリが俺のスマホを覗き込み、急に声を上げた。

「……え、待って」

 

俺は顔をしかめる。

「なに」

 

ヒカリが画面を指さした。

「これ……ダンデ……?」

 

俺は、嫌な汗が背中を伝うのを感じた。

 

ヒカリは震える声で言った。

「え、なんでガラルのチャンピオンがまた反応してるの……?」

 

俺も知りたい。

そして、さらに下。

 

【ダイゴ:それ、本物か?】

【ダイゴ:連絡してくれ。すぐにだ】

 

俺の顔が引きつった。

「……ダイゴにダンデ?」

 

ヒカリは呆然としたまま口を開く。

「待って待って待って……」

 

シロナさんも、少しだけ表情を変えた。

驚き。

そして、確信。

 

「……あなた、他地方のチャンピオンとも繋がっているのね」

 

俺は首を横に振った。

「いや、俺が繋がりたくて繋がってるわけじゃなくて……」

 

ヒカリが真顔で言った。

「もうそれ言い訳だよ」

 

「え?」

 

「言い訳にしか聞こえない」

 

俺は絶望した。

 

そうだ。

この世界、俺が何を言っても信じない。

”結果”だけが全てだ。

 

そして結果は――

ダークライと一緒に写真を撮って、世界中の有名人に反応されている男。

完全に怪しい。

怪しすぎる。

 

その瞬間。

シロナさんのスマホが鳴った。

 

ピコン。

 

彼女が画面を見る。

 

そして、静かに眉を上げた。

 

「……来たわ」

 

ヒカリが息を呑む。

「……え?」

 

俺は嫌な予感しかしない。

「なにが来たんですか」

 

シロナさんは落ち着いた声で言った。

「シンオウの四天王たち」

 

俺は固まった。

「……え?」

 

ヒカリが青ざめた。

「え、待って……」

 

シロナさんは優雅に微笑む。

「きっとあなたに興味があるのね」

 

俺は叫んだ。

「興味持たないでください!!」

 

だが、もう遅い。

遠くから、足音が近づいてくる。

数人分。

そして聞こえる声。

 

「……あれが噂の?」

 

「ダークライ……だと?」

 

「冗談じゃないな」

 

俺は顔を引きつらせた。

 

ヒカリは俺の袖を掴んで震えている。

「零……これ……本当にやばいよ……」

 

俺は乾いた笑いを浮かべた。

「……うん」

 

そして、俺は思った。

ここで捕まったら終わりだ。

 

事情聴取。

質問攻め。

責任追及。

下手したらリーグ預かり。

 

それだけは嫌だ。

俺はゆっくりと、後ろを振り向いた。

そこにいたダークライが、静かにこちらを見ている。

 

俺は真顔で言った。

「……ダークライ」

 

ダークライは無言。

だが、俺の意図を察したのか、黒い霧が少し濃くなる。

 

俺は、笑顔を作った。

「逃げるぞ」

 

ヒカリが叫ぶ。

「逃げるの!?」

 

俺は当然のように言った。

「逃げる」

 

シロナさんは少し困ったように笑った。

「ふふ……あなた、本当に逃げ足だけは一流ね」

 

俺は胸を張った。

「褒めないでください」

 

ヒカリが涙目で叫ぶ。

「いや褒められてないよ!!」

 

そして俺は、ヒカリとシロナさんに向けて、急いで名刺を取り出した。

――いや、正確には“連絡先の紙”だ。

 

俺はそれを二人に押し付けるように渡した。

「はい、これ!」

 

ヒカリが受け取りながら叫ぶ。

「え、なにこれ!?」

 

「連絡先!」

 

シロナさんも受け取る。

「……連絡先?」

 

俺は勢いよく言った。

「俺、イッシュ地方に逃げますね!!」

 

ヒカリが目を見開いた。

「え、は!?」

 

シロナさんが呟く。

「逃げる方向、そこなのね……」

 

俺はもう止まらなかった。

 

スマホが鳴る。

通知が増える。

世界が燃えていく。

 

だから俺は決めた。

逃げる。

逃げるしかない。

 

俺は最後に二人へ手を振った。

「じゃあまた!!」

 

そして――

ダークライの黒い霧が俺を包む。

 

視界が暗くなる。

空気が冷たくなる。

世界が遠ざかる。

 

ヒカリの叫び声が聞こえた。

「零ぃぃぃぃ!!また勝手に逃げたぁぁぁぁ!!」

 

シロナさんの声が、静かに響いた。

「ふふ……本当に、面白い子」

 

俺は心の中で叫ぶ。

(面白くない!!)

 

こうして俺は、シンオウ地方をわずか数時間で脱出した。

 

……シンオウ地方編、短すぎだろ。

 

次回イッシュ地方編

「どっちもいるタイプか」

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