チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第13話 俺が勝ったらヒウンアイス奢ってください

ヒウンシティの風は潮の匂いがした。

ビル群に囲まれた都会なのに、どこか港町の空気が混じっている。

――そんな場所で俺は今。

 

完全に詰んでいた。

 

目の前にはトウコとメイ。

しかも二人とも、バトルする気満々。

こいつら、主人公補正の塊みたいな存在だ。

 

放っておいたら絶対チャンピオンになるタイプ。

そんな二人に囲まれて、俺が無事でいられるわけがない。

 

俺はため息を吐いて、モンスターボールを握り直した。

「……じゃあ、やりますか」

 

メイが元気よく手を挙げた。

「はーい!」

 

トウコは落ち着いているが、目は完全に戦闘モードだった。

「ルールは?」

 

俺は即答する。

「普通に一対一で」

 

メイが頷いた。

「了解!じゃあ私が先に行くね!」

 

トウコが小さくため息を吐く。

「……メイ、勝手に決めないで」

 

メイはにこにこ笑う。

「だってトウコ、絶対真面目に分析して時間かかるでしょ?」

 

「かかるよ」

即答だった。

 

俺は思った。

(こいつら仲いいな……)

 

そして同時に思った。

(俺の胃が死ぬ)

 

メイはモンスターボールを高く掲げた。

「いくよ!オノノクス!」

 

光が弾ける。

現れたのは巨大な斧の牙を持つドラゴン。

オノノクス。

イッシュ地方のドラゴン代表みたいなやつ。

 

こいつが目の前に立った瞬間、周囲の空気がピリついた。

強い。

ガチで強い。

 

俺は口元を歪めて笑った。

「……いいね」

 

メイが胸を張る。

「でしょ!私の相棒だから!」

 

俺はモンスターボールを軽く放る。

「ガブリアス、行くぞ」

 

光の中から、俺のガブリアスが姿を現した。

鋭い爪。

獰猛な目。

 

地面を蹴るだけで、戦場の空気が変わる。

 

メイが目を輝かせた。

「うわぁ……かっこいい……!」

 

トウコが静かに呟く。

「……やっぱりドラゴン使い」

 

俺は苦笑いした。

「ドラゴンだからドラゴンで行こうかなって」

 

メイが笑う。

「なにそれ、理由かわいい」

 

俺はガブリアスの背中を軽く叩いた。

「……さて」

 

そして、俺はメイを見て言った。

「俺が勝ったら、ヒウンアイス奢ってください」

 

メイが一瞬固まった。

「え?」

 

トウコも少し驚いた顔をする。

「……それが条件?」

 

俺は頷いた。

「はい」

 

メイは吹き出した。

「要求、安っ!!」

 

俺は真顔で返した。

「ヒウンアイスは高い」

 

メイが笑いながら頷く。

「いいよ!勝ったら奢ってあげる!」

 

トウコが呟く。

「……平和だなぁ」

 

俺は心の中で叫んだ。

(平和じゃねぇよ!!)

 

今目の前で、ドラゴン同士が殺し合いを始めようとしてるんだぞ。

 

俺は深呼吸して、ガブリアスに指示を出した。

「……まずは剣の舞」

 

ガブリアスが低く唸り、鋭い動きで剣を振るうように構えた。

空気が切り裂かれる。

圧が上がる。

 

メイの表情が変わった。

「……え、強化系!?」

 

トウコがすぐに判断する。

「攻撃力を上げた。次で仕留めに来るつもりだね」

 

俺は少しだけ笑った。

「正解」

 

メイは焦ったように叫ぶ。

「オノノクス!りゅうのまい!」

 

オノノクスが激しい舞を集中して、神秘的に踊る。

地面が揺れた。

 

俺は内心、感心した。

(やっぱ主人公格だな……判断が早い)

 

だが。

俺のガブリアスは、もっと早い。

 

俺は短く命令する。

「――ドラゴンクロー」

 

ガブリアスが地面を蹴った。

一瞬で距離を詰める。

爪が光る。

 

そして――

 

ズバァァァン!!

 

鋭い一撃がオノノクスを斬り裂いた。

オノノクスの巨体がぐらつき、そのまま膝をつく。

 

沈黙。

 

メイが固まった。

「……え」

 

トウコも目を見開いた。

「……一撃?」

 

オノノクスは、そのまま倒れた。

戦闘不能。

完全に決着だった。

 

俺はガブリアスを見上げて、小さく頷いた。

「……よし」

 

メイが呆然と呟く。

「うそ……」

 

俺は手を挙げた。

「ありがとうございました」

 

メイは震える声で叫んだ。

「強すぎるよ!?!?」

 

俺は苦笑した。

「いや、メイさんのオノノクスも強かったよ」

 

メイが泣きそうな顔をする。

「慰めが雑!!」

 

トウコが腕を組みながら俺を見つめた。

「……あなた、何者?」

 

俺は即答した。

「ただの旅人です」

 

…まぁチュートリアルお兄さんでもあるけど

 

トウコが冷静に言う。

「嘘だね」

 

俺は即答した。

「はい」

 

嘘が通用しないタイプだ。

俺はモンスターボールを構え、ガブリアスを戻す。

 

「戻れ、ガブリアス」

光に包まれ、ガブリアスはボールへ戻った。

 

メイも慌ててオノノクスを回復させる。

「ごめんねオノノクス……」

 

俺はその様子を見ながら、気まずそうに頭を掻いた。

「……あ、やったー勝った」

 

メイが顔を上げる。

「テンション低っ!」

 

俺は言った。

「じゃあヒウンアイス買いに行きますか」

 

メイが叫ぶ。

「ほんとにアイス目的だったの!?!?」

 

俺は真顔で頷いた。

「うん」

 

トウコがため息を吐いた。

「……ほんと変な人」

 

俺は心の中で泣いた。

(変なのはこの世界だろ……)

 

こうして俺は、勝利の余韻もそこそこに、ヒウンシティのアイス屋へ向かった。

 

……この時、俺はまだ知らなかった。

このアイスが、俺の人生をまた一段階壊すことを。

 

店に着き、メイがアイスを買ってくれた。

 

俺はスプーンを口に運び、感動する。

「……うま」

 

メイが笑う。

「でしょ!ヒウンアイス最高だよね!」

 

トウコも小さく頷く。

「……悪くない」

 

俺は幸せを噛み締めていた。

その瞬間だった。

メイがスマホを取り出して、俺に向けた。

 

カシャ。

 

シャッター音。

 

俺はスプーンを咥えたまま固まった。

「……ん?」

 

メイは笑顔で言った。

「今の写真、投稿しよっと!」

 

俺はスプーンを口から外し、ゆっくり聞き返した。

「……今写真撮りました?」

 

メイは元気よく頷いた。

「うん!」

 

俺は嫌な汗が出るのを感じた。

「……もう投稿してるんですか、早いですね?」

 

メイは当然のように言った。

「うん!だってバズるでしょ!」

 

トウコが静かに呟く。

「……学習能力がないのかな」

 

俺は震える手でスマホを取り出す。

そして通知を見た。

 

ピコン。

ピコンピコン。

 

止まらない。

 

俺は絶望した。

「……また知り合いが反応してますね」

 

メイが笑う。

「やっぱりー!」

 

俺は虚無の目で呟いた。

「……しかもまたバズってるし」

 

トウコが冷静に言った。

「あなた、もう普通に有名人じゃん」

 

俺は言葉を失った。

 

そして通知欄に、またまた見覚えのある名前が並んでいる。

【グリーン:またお前か】

【ゴールド:お前ほんとに何してんだよ】

【シルバー:学ばないな……】

【ハルカ:イッシュ行ったの!?!?】

【ヒカリ:は??????】

 

俺はスプーンを持ったまま、天を仰いだ。

「……なんで?」

 

メイが首を傾げる。

「なんでって?」

 

俺は乾いた笑みを浮かべた。

「……俺、ただアイス食べてただけなんだけど」

 

トウコがぽつりと言った。

「……それが一番怖い」

 

俺は泣きたくなった。

 

そして、スマホの通知欄に。

新しい名前が現れた。

 

【アイリス:ねえ、あなた誰?】

 

俺は固まった。

 

メイが画面を覗き込む。

「え、アイリス!?」

 

トウコが目を細める。

「……来たね」

 

俺はゆっくりと顔を上げた。

口から出たのは、たった一言だった。

「……終わった」

 

次回

「なんで四天王のところ?」

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