――終わった。
俺はヒウンアイスを食べながら、心の底からそう思っていた。
いや、正確には。
食べてる場合じゃないのに食べていた。
甘くて冷たい。
最高に美味い。
なのに、人生が最悪の方向に転がっていく味がする。
俺のスマホは通知で震え続けていた。
ピコン。
ピコンピコン。
メイは満足そうに頷きながら言う。
「いやー!やっぱりバズったね!」
トウコは呆れた顔で腕を組んでいた。
「……バズらせるなよ」
俺は虚無の目で呟いた。
「……なんで?」
メイが首を傾げる。
「え?なんでって?」
俺はアイスを一口食べて、静かに言った。
「……俺、ただアイス食べてただけなんだけど」
トウコがぼそっと言う。
「それが一番怖いんだよね」
メイが笑う。
「零くん、存在がもう面白いもん!」
嬉しくない。
全然嬉しくない。
そして俺は、通知欄の中に最悪な名前を見つけてしまった。
【アイリス:ねえ、あなた誰?】
俺は固まった。
メイがスマホを覗き込んで叫ぶ。
「えっ!?アイリス!?チャンピオンの!?」
トウコは目を細める。
「……やっぱり来たね」
俺は青ざめたまま、スマホを閉じた。
「……やめてくれ」
メイが楽しそうに言う。
「返事しないの?」
俺は即答した。
「しない」
トウコが静かに言った。
「返事しなかったら、逆に怪しまれるよ」
俺は苦笑した。
「もう怪しまれてる」
トウコは頷いた。
「確かに」
その時だった。
背後から聞こえる声。
「……君が噂の?」
低い声。
落ち着いた声。
でも、圧がある。
俺はスプーンを咥えたまま、ゆっくり振り返った。
そこにいたのは――
スーツ姿の男。
目つきが鋭く、知的な雰囲気。
そして、どこか「面倒ごと」を背負ってそうな顔。
俺は知っている。
こいつは。
イッシュ地方の四天王。
シキミ……じゃない。
カトレアでもない。
ギーマでもない。
レンブだ。
格闘タイプの四天王。
いや、格闘タイプのくせに、本人が一番怖いタイプの人間。
俺はゆっくりスプーンを口から外した。
「……こんにちは」
レンブは俺をじっと見つめる。
「君が、八雲零くんだね?」
俺は笑顔を作った。
「はい。そうです」
レンブは淡々と続ける。
「チャンピオンのアイリスから、連絡があった」
俺は固まった。
「……え?」
メイが小声で言った。
「うわ、もう四天王にまで行ってる……」
トウコがため息を吐く。
「最悪のルートだね」
レンブは俺の肩に乗っているミュウを見た。
ミュウは楽しそうに鳴く。
「みゅー♪」
レンブの眉が僅かに動く。
「……ミュウ、か」
俺は無言で頷いた。
レンブはさらにセレビィを見る。
「……セレビィもいる」
俺は目を逸らした。
レンブは静かに言った。
「君は、普通のトレーナーではないな」
俺は即答した。
「普通です」
レンブは即答で返す。
「違う」
俺は負けた。
完敗だ。
トウコが小声で俺に囁く。
「言ったでしょ、嘘下手だって」
俺は泣きたかった。
レンブは続けた。
「今すぐ、ポケモンリーグへ来てもらう」
俺は眉をひそめる。
「……なんで?」
レンブは平然と言った。
「君の素性を確認するためだ」
俺は即答した。
「嫌です」
レンブは首を傾げた。
「拒否する理由は?」
俺は言った。
「面倒だから」
レンブは一瞬沈黙し、そして静かに言う。
「……君、度胸があるな」
メイが元気よく手を挙げた。
「零くん!逃げよう!」
トウコが冷静に言う。
「逃げても捕まるよ」
メイが即答する。
「じゃあ全力で逃げよう!」
トウコが呆れた。
「君たち、四天王の前でなに言ってるの」
俺は深呼吸した。
こういう時、逃げるのが正解だ。
でも。
目の前の相手は四天王。
逃げたら余計に疑われる。
……つまり詰み。
レンブは腕を組んで言った。
「君はすでに注目されている」
俺は小さく呟いた。
「……嬉しくない」
レンブは淡々と続ける。
「チャンピオン候補として見られている」
俺は即座に叫んだ。
「やめてください!!」
メイが笑う。
「えー!いいじゃんチャンピオン!」
トウコが冷静に突っ込む。
「嫌がってるでしょ」
俺は首を横に振った。
「俺もうチャンピオンになる気はないですよ?」
レンブは静かに言った。
「……それは本人が決めることではない」
俺は即答した。
「俺が決めます」
レンブの目が鋭くなる。
空気が変わる。
あ、これ。
バトルの流れだ。
俺は周囲を見回した。
人が集まってきてる。
みんなスマホ構えてる。
終わった。
完全に終わった。
そして俺は、最悪なタイミングで思い出した。
――カントー地方の悪癖。
目と目が合ったら、ポケモンバトル。
レンブと目が合った。
俺の口が勝手に動いた。
「あ、目と目があったからポケモンバトルだ!」
メイが爆笑した。
「なにそれ!?カントーの考え方!?!」
トウコが頭を抱えた。
「……最悪」
レンブは、少しだけ口元を上げた。
「……なるほど。君、面白いな」
俺は泣きそうになりながら、モンスターボールを取り出した。
「……ジュカイン!君に決めた!」
メイが目を丸くする。
「ジュカイン!?ホウエンの!?」
トウコも驚く。
「……なんでそんなの持ってるの」
俺は答えなかった。
答えられない。
レンブは静かに構える。
「いいだろう。私も手加減はしない」
俺は小さく呟いた。
「……だる」
そして。
なぜか俺の手には、見覚えのないものがあった。
金属のリング。
輝く石。
――メガリングとキーストーン。
俺はそれを見つめた。
「……何故かもう持ってるんだけど」
メイが叫ぶ。
「ええええ!?!?!?」
トウコが呆然と呟く。
「……この人、本当に何者なの」
俺はため息を吐いた。
「俺も知りたい」
そして俺は、リングを掲げた。
「ジュカイン!」
空気が震える。
視線が集まる。
スマホのカメラが一斉に向けられる。
俺は叫んだ。
「メガシンカ!!」
――光が弾けた。
次回
「メガシンカして葉っぱカッター」