チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第15話 メガシンカして葉っぱカッター

光が弾けた。

白く眩しい光がヒウンシティの空気を裂くように広がり、周囲の人間たちは一斉に息を呑む。

 

メガシンカ。

――この世界でも、まだ珍しい現象。

 

なのに俺は、何故かそれを当たり前のように発動していた。

 

眩しさが消えた瞬間。

そこに立っていたのは、さらに鋭く、さらに獰猛になった緑の影。

メガジュカイン。

 

背中から伸びた大きな葉。

腕に生えた刃のような枝。

目の奥には、草タイプとは思えないほどの闘争心が宿っている。

 

俺は内心で呟いた。

(……いや、なんでメガリング持ってんだよ俺)

 

誰が渡した。

アルセウスか?

あいつか?

そうとしか思えない。

 

トウコが目を見開いたまま呟く。

「……本物のメガシンカ……?」

 

メイは両手を口に当てて叫んだ。

「えええええええ!!かっこよすぎ!!」

 

周囲の観衆は完全にパニックになっていた。

「なにあれ!?」

 

「メガシンカだ!!」

 

「ジュカイン!?イッシュにいないだろ!?」

 

「誰だよあのトレーナー!」

 

――誰だよって、俺も知りたい。

俺はただアイス食べに来ただけだったんだぞ。

なのに、いつの間にか四天王とバトルしている。

 

意味が分からない。

 

レンブは、メガジュカインを見つめながら静かに言った。

「……メガシンカか」

 

その声は冷静だったが、目は完全に本気だった。

「君、本当に何者だ?」

 

俺は即答した。

「ただの旅人です」

 

レンブは淡々と返す。

「嘘だな」

 

俺は苦笑いした。

「はい」

 

トウコが小さく呟いた。

「潔いのか雑なのか分からない……」

 

メイは楽しそうに手を叩いた。

「零くん!最高!」

 

最高じゃない。

俺の人生は今、最悪に近づいている。

 

レンブはモンスターボールを構える。

「行け、ローブシン」

 

光の中から現れたのは、巨大な格闘ポケモン。

ローブシン。

コンクリートの柱を持ち、威圧感だけで空気を重くする。

 

さすが四天王の手持ち。

こいつは強い。

 

俺はジュカインの背中を軽く叩く。

「ジュカイン、集中しろ」

 

ジュカインは静かに頷いた。

目が鋭い。

 

レンブが命令する。

「ローブシン、マッハパンチ」

 

ローブシンが地面を蹴り、拳を突き出す。

速い。

目で追えないレベル。

 

だが。

俺は口元を歪めて笑った。

「……影分身」

 

メガジュカインが一瞬で動いた。

残像が生まれる。

 

視界の中に、メガジュカインが何体も現れたように見える。

ローブシンの拳が空を切る。

 

レンブの眉がわずかに動いた。

「……厄介だな」

 

メイが叫ぶ。

「影分身!?ズルい!!」

 

トウコが冷静に言った。

「ズルくはない。戦術だよ」

 

俺は続けて命令する。

「ジュカイン、葉っぱカッター」

 

メガジュカインの腕が振られた。

鋭い葉が無数に飛ぶ。

それはただの草技ではない。

 

刃物だ。

 

風を切り裂く音。

鋭利な殺意。

 

葉がローブシンへ降り注ぐ。

ローブシンは腕で防御しようとするが――

 

防げない。

葉が、柱を持つ腕を切り裂き、肩を裂き、地面に突き刺さる。

 

ローブシンが呻き声を上げた。

「……ぐぉおお!!」

 

レンブが即座に叫ぶ。

「耐えろ!ストーンエッジ!」

 

ローブシンが地面を叩き、鋭い岩を飛ばす。

 

だが、俺は冷静だった。

「避けろ」

 

影分身の残像が散る。

岩が外れる。

ローブシンの攻撃は当たらない。

 

俺は小さく呟いた。

「……当たらなければどうということはない」

 

トウコが反応した。

「今、変なこと言った」

 

メイが笑う。

「零くんオタクだー!」

 

やめろ。

言うな。

それ以上俺を掘るな。

 

レンブは腕を組んで俺を見つめる。

そして、静かに言った。

「……君、相当な実力者だ」

 

俺は軽く肩をすくめた。

「どうも」

 

レンブが続ける。

「だが、それでも――」

 

その瞬間。

俺の背後から、圧が増した。

冷たい霧。

黒い気配。

 

ダークライだ。

こいつ、いつの間にか観戦してやがる。

 

メイが振り向いて叫ぶ。

「うわぁ!?またいる!!」

 

トウコが顔を引きつらせる。

「……なんで普通にいるの……」

 

レンブですら、一瞬視線を逸らした。

 

だが、すぐに気を取り直してローブシンへ指示を出す。

「ローブシン、気合いパンチ!」

 

ローブシンの拳に、闘気が集まる。

これはまずい。

直撃したら、ジュカインでも危ない。

 

俺は短く言った。

「終わらせる」

 

メイが目を輝かせた。

「え!?決めるの!?」

 

トウコが息を呑む。

「……来る」

 

俺は指を前に突き出した。

「ジュカイン。リーフブレード」

 

メガジュカインが一瞬で距離を詰める。

緑の刃が光った。

そして――

 

ズバァァァン!!

 

ローブシンの胸を斬り裂いた。

ローブシンは拳を振り上げたまま、固まり。

そのまま、ゆっくりと膝をついた。

 

戦闘不能。

─―決着。

周囲が静まり返る。

 

次の瞬間。

観衆が爆発した。

「すげぇぇぇ!!」

 

「四天王に勝った!?」

 

「誰だよあいつ!!」

 

「メガシンカ使ってる!!」

 

「動画撮れ!動画!!」

 

俺は頭を抱えた。

(やめろやめろやめろ)

 

レンブはローブシンを戻し、俺を見つめた。

 

そして静かに言った。

「……君は危険だ」

 

俺は即答した。

「俺もそう思います」

 

トウコがため息を吐く。

「自覚はあるんだね……」

 

メイが笑顔で言った。

「零くん、四天王に勝っちゃったね!」

 

俺は虚無の目で答えた。

「勝っちゃったね……」

 

レンブは俺に近づき、低い声で言った。

「リーグに来い」

 

俺は即答した。

「嫌です」

 

レンブは静かに言った。

「拒否権はない」

 

俺は叫んだ。

「あるだろ!!人権!!」

 

トウコが冷静に言う。

「この世界、そういうの弱いよ」

 

メイが笑う。

「バトルの世界だからね!」

 

最悪だ。

そしてその時だった。

メイがスマホを構えた。

 

カシャ。

シャッター音。

 

俺はゆっくり振り向いた。

「……ん?」

 

メイは笑顔で言った。

「写真撮った!」

 

俺は顔を引きつらせた。

「……また?」

 

トウコがぼそっと言う。

「もう癖だね」

 

メイは当然のように言った。

「だって絶対バズるもん!」

 

俺はゆっくり天を仰いだ。

 

終わった。

また終わった。

 

俺の人生はいつも終わっている。

 

メイは即座に投稿した。

そして数秒後。

俺のスマホが震え始めた。

 

ピコン。

ピコンピコン。

止まらない。

 

俺は通知欄を見て、絶望した。

【ヒカリ:は??????????】

【ハルカ:え??????????】

【グリーン:また女の子とかよ……】

【シロナ:……あなた、今度は何をしているの】

【ダイゴ:メガジュカイン……?】

 

俺は呟いた。

「……また知り合いが反応してますね」

 

メイが笑う。

「ね!」

 

トウコが真顔で言った。

「知り合いしかいないのが一番怖い」

 

俺は小さく呟いた。

「……しかもまたバズってるし」

 

レンブが静かに言った。

「……君、もはや国際問題だな」

 

俺は泣きそうだった。

 

俺はただのチュートリアルお兄さんのはずだった。

なのに。

 

四天王に勝ち。

メガシンカを披露し。

ネットで拡散され。

知り合いに囲まれ。

リーグに呼び出され。

世界に追い詰められていく。

 

俺は、逃げる準備をした。

 

心の中で。

(次はどこに逃げよう)

 

その時。

通知欄に、また新しい名前が出た。

【アイリス:今すぐ会いに行くね!】

 

俺は固まった。

 

メイが叫ぶ。

「アイリス来るの!?」

 

トウコが静かに言った。

「……詰んだ」

 

俺は、乾いた笑いを浮かべた。

「……逃げます」

 

次回

「じゃあカロス地方に行ってきますね」

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