チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第16話 じゃあカロス地方に行ってきますね

――逃げる。

それが俺の人生の必勝法だ。

 

いや、必勝法って言うと聞こえがいいけど、実際は違う。

ただの現実逃避。

でも、逃げないと死ぬ。

 

精神的に。

社会的に。

あとたぶん物理的にも。

 

俺はスマホを握りしめたまま、ヒウンシティの路地裏を全力で走っていた。

「……なんでこうなるんだよ……!!」

 

背後から聞こえる声。

「待ってー!!零くーん!!」

 

メイだ。

あいつ、元気すぎるだろ。

 

トウコの声も聞こえる。

「メイ、追いかけすぎ!転ぶよ!」

 

いや、俺を止めろよ。

 

レンブの低い声も遠くから響いてくる。

「逃げるな!八雲零!」

 

四天王が追いかけてくるの、普通に怖い。

怖すぎる。

 

俺は走りながら、肩の上のミュウに囁いた。

「ミュウ、頼む。今だけ静かにして」

 

「みゅ?」

 

いや、鳴くな。

 

そしてセレビィも。

「びぃ!」

 

お前も鳴くな。

今鳴いたら位置バレる。

 

……もうバレてるけど。

 

その時だった。

俺の背後に、冷たい気配が迫る。

 

黒い霧。

ダークライだ。

 

こいつ、追いかけてきてるというか、普通に俺の移動に付いてきてるだけだ。

護衛なのか監視なのか分からない。

 

怖い。

でも、ありがたい。

 

俺は息を切らしながら呟いた。

「……ダークライ、頼む」

 

ダークライは無言。

黒い霧が濃くなる。

そして一瞬、周囲の景色が揺らいだ。

 

メイの声が遠くなる。

「え!?きゃっ……!」

 

トウコが叫ぶ。

「メイ!?」

 

レンブの声が途切れる。

「……っ、視界が――」

 

俺は勝った。

勝ったんだ。

逃げに関しては俺が最強だ。

 

俺は路地裏を抜けて、人通りの少ない場所まで来ると、ようやく立ち止まった。

「……はぁ、はぁ……」

 

汗が額を伝う。

息が苦しい。

でも、まだ終わってない。

 

俺のスマホが震える。

ピコン。

通知。

 

最悪な文字が見えた。

【アイリス:今どこ!?】

 

俺は叫びそうになった。

「うるせぇ!!」

 

やめろ。

お前が来たらイッシュ地方が終わる。

俺の人生も終わる。

 

そして次の通知。

【ヒカリ:何してんの!?!?!?】

【ハルカ:またチャンピオン戦!?】

【ユウキ:え……メガシンカ……?】

【シロナ:……あなた、また逃げたわね】

【ダイゴ:メガジュカインの件、ちゃんと詳しく聞かせてくれ】

 

俺は頭を抱えた。

「……もうやだ」

 

俺は全ての通知を無視し、スマホをポケットに突っ込む。

そして背後を振り向いた。

 

そこにはダークライがいる。

黒い霧の中で、無言で立っている。

 

俺はダークライに言った。

「……俺、次どこ行けばいい?」

 

当然、返事はない。

だが、ダークライは静かに影を伸ばした。

影が、地面に“方向”を示すように広がる。

 

俺はそれを見て、嫌な予感がした。

「……そっちって」

 

影の先。

そこには大きな看板があった。

『ヒウンシティ港』

 

――船。

海。

つまり、他地方への移動手段。

 

俺は震える声で呟いた。

「……やっぱりそうだよな」

 

逃げるしかない。

ここに居たら、レンブとアイリスが合流してしまう。

そうなったら俺は終わる。

 

俺は港へ向かって歩き出した。

 

ミュウが楽しそうに鳴く。

「みゅー♪」

 

セレビィも元気に鳴く。

「びぃ!」

 

俺は死んだ目で呟いた。

「お前ら楽しそうだな……」

 

港に着くと、ちょうど出航直前の船があった。

行き先を見る。

『カロス地方行き』

 

俺は即決した。

「……よし、これだ」

 

俺は切符を買い、船に乗り込む。

甲板の風が冷たい。

潮の匂いがする。

イッシュ地方が少しずつ遠ざかっていく。

 

俺は手すりにもたれ、空を見上げた。

「……やっと落ち着ける」

 

その時。

背後から聞こえた声。

「零くーん!!!」

 

俺は固まった。

 

振り向くと、港の入り口でメイが手を振っていた。

トウコもその隣で息を切らしている。

レンブまでいる。

 

なんで来てんだよ。

 

俺は絶望した。

 

メイが叫ぶ。

「また会おうねー!!」

 

トウコが口を開く。

「逃げても、絶対どこかで会うよ」

 

レンブは腕を組んで言った。

「次に会った時は、リーグへ来てもらう」

 

俺は乾いた笑いを浮かべた。

「嫌すぎる」

 

だが、俺は逃げ切る。

俺は、ポケットから紙を取り出した。

連絡先。

 

――もう癖になっている。

 

俺はそれを風に乗せるように放り投げた。

ひらひらと舞い、港側へ落ちる。

 

メイがキャッチして叫ぶ。

「え!?連絡先!?」

 

トウコが呆れたように言う。

「……ほんとにそれ渡すんだ」

 

俺は船の上から叫んだ。

「じゃあまた!!」

 

そして、俺は付け足す。

「俺、カロス地方に行ってきますね!!」

 

メイが叫び返す。

「また逃げたぁぁぁ!!」

 

トウコが頭を抱える。

「……ほんとに逃げ足だけは最強」

 

レンブは小さく笑った。

「……面白い男だ」

 

面白くない。

全然面白くない。

 

船が出航する。

イッシュ地方が遠ざかっていく。

 

俺は深く息を吐き、やっと肩の力を抜いた。

 

そして、思い出したように呟く。

「……えーと、フレア団がいるのか」

 

カロス地方。

あの地方には、面倒な組織がいる。

世界を滅ぼすとか言い出す赤いおっさん。

あれだ。

 

俺は顔をしかめた。

「……だるーい」

 

俺は鞄を開き、中身を確認する。

そこには――

 

ギンガ団の服。

マグマ団の服。

アクア団の服。

プラズマ団の服。

そして、フレア団の服。

 

何故か揃っている。

いや、何故かじゃない。

俺が逃げる度に増えていったんだ。

 

俺は虚無の目で呟いた。

「……なんで持ってんだよ」

 

ミュウが嬉しそうに鳴く。

「みゅー♪」

 

セレビィも鳴く。

「びぃ!」

 

俺はため息を吐いて、服を鞄に戻した。

「……ま、いざとなったら使うか」

 

使うな。

絶対使うな。

そう自分に言い聞かせながら、俺はカロス地方へ向かう船の上で、遠い海を眺めた。

 

逃げ続ける人生。

それでもいい。

俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんだ。

 

――ただそれだけなのに。

 

俺のスマホが震えた。

ピコン。

通知。

 

嫌な予感がして画面を見る。

【シロナ:次はどこ?】

【ヒカリ:また逃げたの!?】

【メイ:カロス行くならやっぱ私も行こっかな!】

【トウコ:……無事ならまた連絡して】

【アイリス:追いかける!!】

 

俺は絶望して、スマホを閉じた。

「……追いかけるな」

 

船は進む。

俺の平穏は遠ざかる。

そして、カロス地方という次の地獄が近づいてくる。

 

次回カロス地方編

「あ、こんにちは」

 

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